三十九話目
あれから数時間たっただろうか? 途中休憩をはさみながらもようやくあの森まで返ってきた。途端、ゴーシュは迎えに来たエルフやラミアたちに拉致られそうになっていたが、何とか残留することになってくれた。とはいっても体中にキスマークをつけているのでイマイチ締まらなかったが。
「しばし待っていてくれ。宴の準備でもしよう」
それだけ言ってメリーはどこかへ行ってしまった。すると、それに入れ替わるようにして俺の方にヴィクトリアたちが寄ってくる。彼女たちも先祖の話を聞きたいようだ。
「わかってるよ。まず、お前らの爺さんと婆さんの話を聞かせろってんだろ?」
だが、ヴィクトリアは首を振った。かと思うと、パチンッと指を鳴らして虚空から何かを取り出した。
「よろしければ……これをどうぞ」
「これは……」
渡されたものを見て、俺は思わず目を向いた。というのも、それは一枚のカンバスに描かれた絵であり、そこには在りし日の俺たちの姿があった。ちょうど年齢的には魔法学校を卒業したころだろう。何にせよ、懐かしい。
「これはおじい様から頼まれていたものです……『もし、ウルに会えたら渡してほしい』……っと」
ヴィクターか……相変わらず憎い演出をする奴だ。あいつめ、こっちを泣かす気で嫌がるな?
「ま、それはさておき話してくれないかしら? 私のおばあ様のこと」
「おばあ様……あ、そうだ。お前の名前まだ聞いてなかったな」
「アリーシャ・グラン・ヴァルデン・ニデラポルカよ。リーシャと呼んで頂戴」
高慢な言い方だな……アリシアめ。お前そっくりだぞ、こんちくしょう!
「さてっと。まず、お前の婆さん……アリシアは魔法学校の第二席だったな。ちなみに、俺が第一席だ」
「なっ!?」
「あいつに魔法の成績で負けたことはなかった。ただまぁ……うん。よくボコられていたよ、レックスと一緒に」
よく覚えている……昔女子風呂を覗こうとして半殺しにされたことを。あの時俺とレックス……そして他の生徒たちで女子風呂に潜入しようとしたのだが、まぁ……ものの見事にアリシアの探知魔法に引っ掛かり、コテンパンにのされた。
ちなみに、ヴィクターは覗かなかったので瀕死になっていた俺たちを必死に介抱してくれたが。
「で、でしょうね! おばあ様は強かったと聞いているもの!」
「ああ、強かった。というか、あいつは精神力が馬鹿みたいに強くてな。わかってると思うが、それは一流の条件だ。間違いなく、最強の部類だったよ」
事実、魔法の中には使用者の精神力を容赦なく削っていくものや、ともすれば人格の破綻を引き起こしてしまう危険性があるものも存在する。だが、アリシアに詠唱できない呪文はなかった。その強大な精神力のおかげで。
確かに、アリシアが俺に魔法の成績で勝ったことはなかった……が、使用できる魔法の数でアリシアに並ぶ者はいなかった。あいつにとっては全てが得意魔法であり、苦手魔法というものが存在しない――いわゆるオールラウンダーであり、校内戦では何度も助けられたのを覚えている。
「ま、俺が主砲だとしたらあいつはチームの主軸。俺考えるの苦手だったからな。アリシアとヴィクターがかじ取りをやってくれてたぜ」
「おじい様が?」
次に口を開いたのはヴィクトリア。少しばかり驚いたようにしているところから見ても、あまりあいつのことを知らないのだろう。おそらく、両親から聞いた程度か、それ以下だ。だからこそ、俺は告げる。
「ああ。ヴィクターはまぁ……一言でいうと食えない奴だった。めちゃくちゃ実力あるのにそれを隠しているし、かと思えばピンチの時はアホみたいに強くなる。おまけにな、あいつの固有魔術がいっちばんめんどくさかった!」
「どんなものなんです?」
「あいつの固有魔術――《夢の番人》――はな、本当えぐかった。あいつを中心にガスを展開させるんだが、それに触れた奴にトラウマを思い起こさせるんだ。最悪、精神が崩壊するレベルだ」
まぁ、いつもつるんでいる俺たちはすぐに解除できたが、校内戦で使った時はえぐかった。錯乱し、泣き叫ぶ生徒も出たほどだ。あんな術を開発してしまったヴィクターはある意味最強だと思う。
「わ、私のおばあ様のは!?」
「アリシアの固有魔術は――《王の遺産》――だったな。ま、簡単に言うと異次元の門を開いて、そこから自分が使える魔法を全て放つんだ」
とはいっても、その効果の代償として莫大な時間を使用する上に隙がでかくなるからタイマンでは使えない代物だった。ただ、ウチにはマリカがいたので、あいつが障壁を張って準備が完了した途端解除するという戦法をとっていた。
すると、俺の言葉を聞いたリーシャは嬉しそうに頬を綻ばせる。
「さすがおばあ様! 私が尊敬するだけのことはあるわ!」
「リーシャ……お前、ここにアリシアがいたらボコられるぞ? あいつおっかなかったからなぁ……うん」
もともと気が強かったし、実力もあるあいつがキレたら本当に怖かった。
昔遠征に出た時湯あみをしているところを目撃してしまったのだが、有無を言わさず殴られた。おまけに、木に吊るされて見世物にされる始末。正拳突きとハイキックと肘鉄を喰らったまでは思い出せるのだが、それ以降と以前の記憶がはっきりしない。まるで体が思い出すのを拒否しているかのようだった。
「色々聞けてうれしいですね、リーシャさん」
「そうね、ヴィッキー。おじい様とおばあ様のことは断片的にしか知らなかったもの」
だろうな。数百年だから生きているということはありえないし、かろうじて生きていたとしても少ししか聞けなかったことだろう。あいつらは一族の中でも異端だったからそれに興味を持つのは至極当然だ。ま、俺が言えたことではないが。
そこでふと、メアの姿が視界の端に移った。今はアレキサンダーが何やら話している。外見に似合わず面倒見がよくて子供好きなところもそっくりだ。
「ッと、まぁ、あいつらについては語りつくせねえぐらいあるよ。だってガキの頃からずっとつるんでたからな」
っと、そんなことを思っているとメリーの姿。その両手には大量の料理と酒が抱えられている。
どうやら、まだまだ語る時間はありそうだな。




