三十八話目
レックスたちの子孫と合流したまではよかったが……
「どうしてこうなった……」
メアは女性陣と一緒に箒で空を飛んでいる。では、椅子ウサギに乗っているのは誰かというと、レックスの子孫であるアレキサンダー・ベッソンである。
「なぁ、あんた。俺の爺さんのこと知ってんだよな?」
「ああ、よく知ってるぜ。ダチだったからな」
「単刀直入に聞くが……爺さんは強かったのか?」
「? 何でそんなことを聞く?」
そこで、ふとアレキサンダーの顔が曇った。
「実はさ……ウチの一族の中では爺さんは評判が悪いんだ。高名な一族の中から生まれた魔力なし――一族の恥さらしだって。けど、俺にはじいさんが弱いようには見えなかった。だから、聞きてえんだよ」
「そういうことか。ま、はっきり言って弱かったな……十歳までは」
アレキサンダーの影っていた顔が一瞬だけ明るくなった。それを逃さず、俺は追い打ちをかける。
「あいつはな、確かに魔力量が少なくて初級呪文すらまともに詠唱できなかった。けどな、それを補って体を馬鹿みたいに鍛えてたんだ。で、ある時固有魔法――言ってしまえば超肉体強化魔法を生み出してな。それを機にあいつは瞬く間に強者の道を上り詰めていった」
レックスに魔力はなかったが、凡才ではなかった。むしろ、ある種の天才だったと俺は思っている。何せ、俺とタイマンを張れる数少ない人物だったのだから。
「ま、レックスは確かに馬鹿だった。けどな、いい馬鹿だった。愚直で、努力家で、一本気があった。魔力が無くても十分に戦える見本を示した功労者だと俺は思ってるぜ」
「……そうか。爺さんは強かったんだな。ありがとう」
「礼はいらねえよ。お前は爺さんを尊敬しているんだろ? だったら誰が言おうが気にするな。自信を持て!」
「……ああ」
嬉しそうに手首に嵌めたブレスレットを撫でるアレキサンダー。それは俺も見覚えがある……レックスがよく嵌めていたものだ。
「ところで、お前は魔力を持ってるのか?」
「ああ。でも、他の一族に比べたら少ない方だ」
だからか。もしかしたらこいつは自分とレックスを重ねていたのかもしれない。
「レックスの固有魔法は知っているか?」
「一応……だけど、まだ俺は使いこなせない。反動がでかいんだ」
レックスの固有魔法――《アンチ・マジック・ヒーロー》――は自身の魔力を全て消費したパワードスーツを身に纏って戦うものだ。最大持続時間は三分。だが、一分にも満たないうちに敵を掃討していたのをよく覚えている。
ただし、その効果の通り身体にかかる負担が異常に大きく、以前俺が試しに唱えてみたところ発動はできたものの数秒で解除され、一週間の筋肉痛に襲われたほどだ。
それがわかっているからこそ、俺はアレキサンダーに笑って返す。
「反動がでかいと感じるのはまだお前の鍛え方が足りないせいだよ。持続時間は?」
「一分だ」
「だろうな。下手に魔力がある分そっちにも力を割いているだろ? けど、レックスには体術と固有魔法しか戦う術がなかった。だからあんなに強かったんだよ。ただ、お前はお前のスタイルを極めるといい。別に全部真似する必要はねえからな」
「……あんたと爺さんはどっちが強かったんだ?」
難しい質問だな……確かにあいつが固有魔法を開発するまでは俺の圧勝だったけど、開発してからの戦績は五分五分。それに何より、俺とあいつは最高に相性が悪かった。
俺は詠唱が中心の典型的な魔術師。一方レックスは詠唱が完了する前に敵を殲滅するスタイルの『魔術師殺し』……詠唱ができなければ魔術師など無力に過ぎない。だから、あいつはまさに俺の天敵だった。
「……ぶっちゃけ、同じくらいの強さだった。けど、タイマンだったらあいつに分があるだろうな」
悔しいが、冷静に分析した結果だ。あいつとは本当にやり辛かった。
すると、俺の声を聞いてアレキサンダーは嬉しそうに口の端を歪める。
「そうか……爺さんの方が強かったのか」
「い、いや。でも総合成績なら俺の方が上だし……」
「わかったわかった。あんたも強いよ」
信じられていない……ちくしょう。もしここにレックスがいたら再戦を申し込むのに、などと叶わないことを思いながら、俺は深くため息をつくのだった。




