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三十三話目

 ようやく、俺の日常が戻ってきた。

 拷問を受け、辱めを受け、暗い牢獄で一人で暮らす――数百年そうやって過ごしてきた。

 もともと、メアたちとの生活の方が非日常だったのだ。

 言わば、数日間の遠足のようなもの。

 だというのに――それをもう一度味わいたいと思っている自分がいる。

 メアやゴーシュ、それから椅子ウサギと過ごした日々は、俺にとってかけがえのないものだった。

 腐った日常の中に挿した一筋の光だった。

 なのにそれが失われてしまったら、今の日常は以前よりずっと暗く、陰惨に俺の目に映った。

「ああ……」

 声がかすれている。拷問の時に叫び過ぎたせいだ。

 こうすると、相手は俺が痛がっていると思って少しだけ手が緩まる。逆に、俺が平然としていたり、反抗的な態度をとると躍起になって手を動かすのだ。全く、単純なものだと呆れる。

 牢獄はすでに赤と黒のまだら模様になっていた。時折兵士たちはそのこびりついた血を落とそうとしていたが、すでに年月が経過している者も多く、このようになってしまった。本当に胸糞悪い。

 ああ、そう言えばこうやって一人で考え事をするのも久しぶりな気がする。外にいた時は、案外自分一人の時間が作れなかったから、少しだけ懐かしい。

 そこでふと――俺の脳裏にメアの顔が浮かんだ。

 約束したのにな……結局俺は護れなかった。

 捕らえられて何日経ったかはわからない。けれど、メアの命は限られているのだ。こうやっている間も、刻々とその期限は迫ってきている。

 本来なら今すぐにでも行きたいのに、と俺は四肢を縛っている鎖に目をやった。

 どれだけ引っ張ろうともビクともせず、禁呪の魔法がかけられているために呪文で破壊することも出来ない。

 俺は小さく舌打ちして、ぐったりと項垂れた。

「ああ……クソったれ」

 そう、呟いた直後だった。上の方で何か大きな音が聞こえたのは。

「……?」

 耳を傾けていると、聞こえてきたのは爆発音と兵士たちの悲鳴。弾薬庫でも爆発したのだろうか?

 だが、どっちみち俺には関係ない。強いて言うなら、メアが無事なら他の奴らなんか死のうがどうなろうが知ったことじゃない。勝手にやってくれって話だ。

 そんなことを考えているうちにも、悲鳴と爆発音は聞こえてくる。それと、振動も強くなってきた。地下牢が崩れてしまわないか少し気がかりだ……俺と同じで年寄りだし。

 と、何気なく上を見上げた時だった。タイミングを見計らったように天井が崩壊し瓦礫が俺の目の前に積まれたのは。

「……マジかよ」

 そう呟いた時、また何かが俺の目の前に降ってきた。だが、それは瓦礫などではなく、しかしドスンと変な音を立てて着地した。

「いたたたた……」

 どうやら人間だが、土ぼこりが舞っているせいでよく見えない。しかし、何となく聞き覚えがある声だった。

「ゴホッ! ゴホッ! 相変わらず埃っぽいですね、ここは」

「お前……ゴーシュ?」

 そう。眼前にいたのはゴーシュだった。だが、以前とは少し雰囲気が違う。

 前は頼りない印象だったのに、今じゃ立派な好青年といった感じだ。もしかしたら、顔や体に刻まれた傷がそれを裏付けているのかもしれない。

「ウルさん……すいません。あの時、自分は魔法を受けた後気を失って川に流されてしまったんです。ですが、何とか川沿いの村までたどり着いて、そこからある場所へ向かい、救援を要請してきました」

「救援?」

「ええ、そうです」

 それを証明するかのような――すさまじい咆哮が上空で轟いた。

「マリカさんの森にいた魔法生物たちです」


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