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三十二話目

 ……もう、捕らえられてからどれだけ時間が経ったのかわからない。何せ、起きては拷問を受け、気を失っては無理やり起こされるというループの中にいるのだ。そりゃ、体内時計だって狂ってしまうだろう。

 それから、どうやらメアの呪いの解除条件は『自分の部屋に戻ること』だったらしい。あの女がやけに得意げに言ってきたので覚えている。自分の手柄でもないくせに、偉そうに。

 しかし、ゴーシュの行方は依然として不明のままだった。曰く、攻撃はいくつか当たったようなので野垂れ死んだかもしれないと言われた……当然、俺は激昂して反論しようとしたが、こうやって繋がれている間は無力。逆に気が狂うほどの拷問を受けた。

 少なくとも、もし普通の体を持っているなら俺はすでに百回以上死んでいると思う。それは地面に広がった血だまりが証明していた。量が多すぎて、地面に染み込むことも出来ずにいる。我ながら頑丈だと、今更ながら自覚した。

「あら。もう起きたの?」

「……黙れ、女狐」

 俺はドスを聞かせて告げたが、女の方は別に平然としていた。どころかクスクスと笑っている。

「魔法も使えず身動きが取れないあんたなんかちっともこわくない。さ、早く今日のノルマをこなすわよ」

 そう言って女は拷問器具を出現させた。しかし、そこで首を捻る。

「と言っても……もうだいぶ使っちゃったのよねぇ……」

「ネタ切れか? ハッ、てめえの陳腐な脳みそじゃ新しいネタも浮かばねえだろうからなぁ」

 すると女はこちらに向かってニィッと歪んだ笑みを向け、

「黙りな……さいっ!」

 足を振りかぶり、躊躇なく俺の顔面に叩き込んだ。衝撃で歯が砕け、呼吸と同時に地面に落ちて硬質な音を立てる。と言っても数十秒後には元通り再生するが。

「無駄だってのがわからねえのか? 学習能力のねえクソ女が。どうやらおつむも尻も軽いみてえだなぁ、おい」

「生意気ねぇ……ああ、そうだ。ちょっと潰せば、少しはしおらしくなるかしら」

 女はひきつった笑みを浮かべたままあるものを取る。それは――巨大な焼き鏝。すぐさま呪文を詠唱し、先端に火を浴びせていく。

 その矛先は――俺の股間部に向いていた。

「さぁ、苦しみなさい」

 一気に、躊躇なく、それは振り下ろされた。

 直後感じたのは、熱と痛み。感覚からして、睾丸が両方破裂したようだ。

「う……げええええ」

 ずっと飲まず食わずのせいで、胃液と血しか出ない。しかしそれでも女の嗜虐心を満たすには十分だったようだ。

「あはっ。どう? 潰された気分は? 男としての尊厳を踏みにじられた気分は?」

「……チッ。この程度……どうってこと……ねえよ」

「その割には息が荒いわねぇ。強がっても無駄無駄。素直に言った方が身のためよ」

「……本当か?」

「ええ、そうですとも。今、どんな気持ちか言ってごらんなさい」

 女は勝ち誇った笑みを浮かべながら、腰を落として俺の方に耳を寄せ来る。

 俺はゆっくりと口を開け、

「最低の気分だよ、クソアマ。めちゃくちゃ耳垢溜まってんぞ。それ見せられるこっちの身にもなってみやがれ。超不愉快だよ」

「ッ!」

 立ち上がると同時顎に叩き込まれる膝。ちょうど喋ろうとしていたため、舌を噛んでしまい――余りの勢いで両断してしまった。吐き出すと同時、それはビタビタとまるで生き物のように地面を跳ねていた。

「まだ余裕があるみたいね!」

「ぐっ!」

 もう、器具は使われない。女はただ俺の体を自信の体を使って痛めつけるだけだった。

「はは、やっぱネタ切れかよ。発想力に乏しい女だ」

「黙れ! 殺すぞ!」

「おお、出来るならやってくれよ。ま、お前程度じゃ無理だろうけどな。一人で俺に勝つことも出来ねえ雑魚のくせにいきがってんじゃねえぞ、ガキが」

「口だけは達者なようだなあ!」

 何度も、何度も執拗に俺の体を痛めつけてくる。その方法は幼稚で、とてもじゃないが魔法使いが取るべき行動とは思えなかった。

 やれやれ。精神的に未熟な奴だ。この程度の挑発、受け流せなくてどうする。

 と、そこで女は悔し紛れといった感じで口を開いた。

「全く……あの姫様も愚かなものだ。こんな男の元に会いに行こうなど。だから幽閉されることになるのだ。それとあの男もだ。こんな男のために手を貸していたなど、気が知れん。もっと賢く生きるすべを知らないようだな、お前のように。いや、似た者同士だから気が合ったのか? 世間からのはぐれ者どうしな」

 あ……今、こいつなんて言いやがった?

 俺の事ならともかく……メアを、ゴーシュを、侮辱したのか?

 やがて責めの手が止んだ。そこで、俺は奴の方を睨みつけながら告げる。

「おい、女。いいこと教えてやる。ここから出たら、真っ先にお前を殺す。人間としての、女としての、あらゆる尊厳を踏みにじってやる。泣こうが喚こうが叫ぼうが絶対に知ったことか。俺はこの怒りを晴らすためにお前を殺す。何、安心しろ。死にかけたら回復魔法をかけてやる。簡単には死なせねえ。この世に生まれたことを後悔させてやる」

「鎖に繋がれたまま言っても強がっているようにしか聞こえんぞ」

 鎖……ああ、そう言えば繋がれてるな。じゃあ、外せばいいのか。

「おおおおおおおおっ!」

「無駄無駄。それは皮膚に癒着しているから鍵を使わない限り外せないわよ」

 知ったことか。まず鎖が外れたら、一発ぶんなぐる!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「だから無駄だって……」

 そう、女が言いかけた時だった。鎖の先端が繋がっている壁にひびが入ったのは。

「な……っ!」

 驚愕の表情を浮かべる奴の方を見ながら、俺は会心の笑みを浮かべて言ってやった。

「待ってろ。もうすぐで自由になる。その時だ。お前が死ぬのは」

「……クッ!」

 憎々しげに女は舌打ちし、指を鳴らした。すると、空間の割れ目から兵士たちが出現して俺の体を取り押さえる。どうやら、あらかじめ保険は用意していたようだ。食えない奴め。

「しっかり押さえときなさいよ」

 女はそう言って壁に向かって手をかざす。すると見る見るうちにひびが修復されていった。

「もう二度と壊れないようにしておいたわ。残念ね、愚かで無知なケダモノさん」

 それだけ言って女は立ち去り、ほかの者たちもそれに続いた。

 一人残された牢獄で、俺の慟哭だけがこだました。


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