二十八話目
「……あ~……キツイ」
しばらくして、俺は寝苦しさを覚えて目を覚ますこととなった。魔力を一度にたくさん使いすぎたせいでその反動が来ているのだ。それに、あの手練れたちと戦ったのもまずかった。
俺の再生は無限だが、その度体力を消費する。本来なら自然回復する傷を高速で修復させているのだ。それは当然の帰結である。ある程度は平気なのだが、今回は死に至る傷をいくつも負った。全く、やってくれたぜ、あいつら。
ふと、俺の腹の上でメアが寝返りを打った。こっちの気など知らず、のんきに気持ちよさそうな寝息を立てている。
「それにしても、よく寝てるな」
頬をツンツンとつついてみても起きない。ちょっと頭を撫でてみても、小さく呻き声を漏らすだけだ。
「さて……ゴーシュの奴はいつ帰ってくるかな?」
この面子の中で面が割れていないのはあいつだけだ。なので捕まることはないと思うが……どうだろう?
そんなことを考えていた折、不意に近くの草むらが揺れた。かと思うと、そこからゴーシュがそっと顔を覗かせてくる。
「お待たせしてすいません。あの、これ」
ゴーシュが買ってきたのは食料だけでなく、俺たちの着替えや石鹸などの日用品。言われたこと以上のことをやってくれるとは、中々できる奴だ。
「大丈夫だったか? 誰か追っ手はいなかったか?」
「自分が感じる限り、いませんでした。たぶん大丈夫だと思います」
「そうか。ならいいや」
「それにしてもウルさん。ずいぶん姫様に懐かれているようですね」
ゴーシュがニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべてそう告げる。俺はそれにただ苦笑することしかできなかった。
「そうだ。お腹空いてませんか? 何か作りますよ。ちょうどメリーさんがくれた食材もありますしね」
「ああ、頼む」
そう呟いて、俺は呪文を詠唱。
「《今ここに顕現せよ》」
それだけ呟いて異空間から食材とありあわせの食器を取り出した。ゴーシュは呆気にとられていたが、すぐに微笑み、それを持ってどこかへ消えていく。おそらく、調理の音でメアを起こすことを避けたためだろう。王宮にいただけあって気が利く奴だ。
今さらだが、ゴーシュにはいろいろ感謝している。過程はどうあれあいつのおかげで俺は椅子ウサギと出会い、そして今も助けてもらっている。メアのように互いに理がある状態ではないというのに、だ。正直、感謝しかない。
いつか、ゴーシュにも恩を返せればいいと思う。いや、返したい。それは偽りのない気持ちだった。
しばらくして、芳しい匂いが俺の鼻孔をくすぐった。耳を澄ませば何かを刻んでいる音も聞こえてくる。どうやら調理は快調に進んでいるようだ。
よく考えれば朝はメリーのところで軽くしか食べてこなかったので腹ペコだ。それにかなりハードな運動もしたからな。胃袋の虫がこれ以上ないほど騒ぎ立てている。その音でメアが起きないかドキドキしたものだが――メアはぐっすり眠ったままだった。
快眠を妨げられることほど不快なことはない。そうなればきっとメアでも嫌な思いをするだろう。そう考えると、起きないでいてもらえたのはありがたかった。
「ウルさん。まだ時間はかかると思いますので、先にできたのからどうぞ」
「おお、ありがとう。助かるよ」
ゴーシュが持ってきたのは食器に入れられたスープ。血のように真っ赤なスープだ。けれど、その見た目に反してとてもいい匂いだ。香辛料の匂いがたまらない。
「あ、でも……食べられますか?」
俺はそっと爆睡しているメアの方に視線を向け、またゴーシュの方に戻し、
「……無理」
キッパリと、そう言った。




