二十二話目
翌朝、俺の視界に映ってきたのは見慣れぬ天井だった。しばし状況を理解できずに瞬きを数回していると、徐々に脳が覚醒を始めていく。
「そっか……俺今、マリカの家に泊めてもらっていたんだ」
昨日野宿をしようと野営の準備をしている時を聞かせたメリーが俺に声をかけてくれたのだ。当然それを断る道理はなかったのですぐさま賛成し、借りさせてもらうことになった。
温かいベッドで寝るのは数百年ぶりだったのですぐさま眠りに落ちてしまったが、実を言うと少しだけこの家に興味があった。いや、別に建築業に興味があるわけではなく、ただ単にマリカがこの家でどのように過ごしてきたのか。それに興味があった。
「さて……っと」
まだ俺の横で寝ているメアを起こさないようにそっと身を起こし、部屋の一番端にある写真立てのところへと向かった。そこには俺たちとの写真や、メリーたちとの写真までが揃っている。まさしくマリカの思い出が凝縮された場所といった感じだ。
「あいつ、まだこんなの持ってたのかよ。懐かしいな」
初等部のころの写真を見ながらそんなことを告げる。まだこの時の俺たちは本当に世間知らずのガキだった。
けど……あの時は楽しかったなぁ。あいつらと一緒に高等部を卒業するまで退屈することがなかった。確かに衝突もあったけど、それを経て更に親愛を深めていったと思う。
「って、これは……」
これは俺が初めて見る写真だ。高等部の時よりも成長した姿のマリカがいるのは……どこかの館? そこで若い女性と一緒に写真を撮っている。しかし、この女性……見覚えがあるような、ないような……?
それに、どこか不思議な雰囲気を感じる人だ。浮世離れしているというか、俗世に囚われていない感じというか……とにかく、普通の人とは違う気がした。
「ま、いっか。それよりもっと見たいものがあるしな」
こうして見ていると意外と面白い。マリカたちはそれなりに頻繁に会っていたらしく、それの写真がいくつも揃っている。もちろん、あいつらは年々年を取っているわけで、写真を見ているとその変遷が見て取れた。
しかも、マリカ以外の全員は結婚していたらしく家族写真のようなものが一枚額縁に入れられて飾られていた。とはいえ、マリカの息子同然のメリーも揃っているものだから写真の中が賑やかで仕方ない。見ていると温かくてつい笑みを浮かべてしまったほどだ。
けれど、俺の姿がそこに無いのは……やはり少し辛いな。が、以前ほどの心苦しさは感じない。きっとメアとの一件を介して多少和らいだのだろう。
「しっかし、あいつらが結婚か……ヴィクターはともかく、他の二人はよくできたな」
本人が聞いていればぶち殺されそうだが、死人に口なし。存分に言ってやる。
「一番結婚しそうだったマリカが結婚しないで、一番結婚と無縁そうだったアリシアが結婚……人生よくわからねえものだなぁ」
俺が知っている限りのアリシアはバリバリのキャリアウーマンだった。そんな彼女を落としたのは……案外気の弱そうな男性だった。ちょうど写真の中央でマリカと肩を並べている。
見る限り女性的な顔つきで、優しそうだが少し頼りなさそうな男性だ。いや、だからこそハキハキとして活発なアリシアと相性がよかったのだろう。全く幸せそうな顔しやがって……羨ましいぞ、この野郎。
そんなことを思いながら、俺はその場を後にして外に出た。すると、眩いばかりの太陽が俺を照らす。まるで、新たな旅立ちを祝福しているようだった。




