二十一話目
数分後、メリーはその両手いっぱいにパンを抱えてやってきてくれた。が、流石にそれを全部食べきるのは難しく、約三割ほどを食べたところでストップをかけた。
「もういいよ、ありがとう」
「む? そうか? 遠慮しなくてもいいのだが……」
いや、お前の胃袋と俺たちの胃袋を一緒に考えないでもらいたい。しっかりしているようで案外抜けている奴だ。
「さて、俺はちょっと腹ごなしに散歩してくるよ。メアはどうする?」
「私はいいわ。ちょっと苦しい」
見ればメアの腹はポッコリと膨らんでおり、見るからに苦しそうだ。そんな彼女に苦笑いを返しつつ、俺は森の中へと足を踏み入れた。
実のところ、散歩というのは半分本当であり、半分嘘だった。その本当の目的は、椅子ウサギの現状確認だった。百聞は一見にしかずという言葉もあるし、この目で確かめねばならないと思ったゆえの行動だった。
「さて……適当に歩きながら探すか」
流石に魔力を使ってまで差が好きにはならず、俺はプラプラと歩きながら周囲を観察していた。そうしていると映ってくるのは他の魔物たちの姿ばかり。全員が仲良くここでは暮らしていた。それこそ食物連鎖の頂点から底辺までもが。
きっとここ以外にあいつらの居場所はないのだろう。だからこそ、ここの住人たちを愛し、慈しみ、大事に思うのだ。
我ながら年寄りじみたことを考えていると、ふと視界の端に見慣れた姿が映った。椅子ウサギと一人の女性。遠目だからよくわからないが、おそらく合成獣だ。
俺は息を殺しながらそっとそちらに近づき、木の陰から顔を覗かせた。
「ふふ、いい子ね」
「ガウッ!」
女性に撫でられながら嬉しそうな顔をしている椅子ウサギ。やはり相手方は合成獣のようだ。最初に会ったときはライオンと牛を混ぜた姿をしていたが、どうやらそこには人間も含まれていたらしい。しかも、美人だ。
そんな彼女は椅子ウサギの背に座り、楽しそうに話しかけている。椅子ウサギの方もまんざらではなさそうで、嫌そうな様子はこれっぽっちもない。
椅子ウサギは誰かに座られて初めてあの形態になれる。とすれば、彼女はまさしく理想の相手だろう。合成獣で、かつ人型になって椅子ウサギの形態を元に戻せる。もはや出会うべくして出会った運命だとすら思う。
「……どうすっかなぁ」
正直言えば、あいつとは別れたくない。久々に会った化け物仲間だったし、何よりあいつは良い奴だ。
けれども、それがあいつの幸せにつながるかと言われれば、首を傾げることになってしまう。あの光景を見てしまえば、無理に肯定するということも出来なくなってしまった。
……いや、結局はこの考え自体もエゴだ。全てはあいつの人生なのだから、好きにさせるべきだろう。少なくとも、俺があいつの幸せをどうこう言うのは間違っている。
明日、ここを出よう。そしてその時、あいつに聞くのだ。
「お前は自分の人生をどうしたいのか?」
と。




