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十九話目

 脳が思考を停止している。今メアが言ったことを理解できないまま、俺はその場に立ち尽くしていた。

「だから、怖くない。だって、死ぬのが早いか遅いか、それだけの違いだもの」

 一瞬ハッタリかと思ったが、違う。メアの表情はまさしく死を覚悟した者のそれだった。妙に肝が据わっていると感じたのはこのためかもしれない。彼女にとっては死が運命づけられていることだったのだ。

「私、ずっとお城に閉じ込められていたの。安静にしてなさいって。でも、ある日城のメイドたちが話しているのを聞いたの。私は後一か月もしないうちに死んじゃうって」

「……病気か?」

「そう。不治の病よ。『硬化病』って聞いたことある?」

 硬化病――感染者の細胞の全てを硬質化させる病気だ。最後には体が全く動かなくなり、まるで剥製のようになってしまうと聞いている。俺が外にいた時代でも不治の病だったが、どうやら今も特効薬は生成されていないようだ。

「私は生まれた時からこれを発症していたらしいわ。年々病魔は私の体を蝕んできてる。お父様とお母様は安静にさせようと部屋にいさせてくれたみたいだけど、私にとっては苦痛だった。だから、城を出たの。死ぬ前に、少しでも外の世界を見ておきたかったから」

 正直言って、羨ましいと思うことはできなかった。

 俺は死なない運命にあり、対照的にメアは死を運命づけられている。立場は違うが、彼女は俺と同じだ。どちらも見えない恐怖に苛まれている。さっきは強がっていたが、内心恐ろしいのだろう。死とはそういうものだ。不老不死を切望した俺だからこそ、その恐怖がわかる。

「ねえ、ウル。私はあなたになりたい。もっともっと長生きして、いろんな世界を見たい」

「ああ、メア。俺もお前になりたい。出来ることならマリカたちと同じところに行きたい」

「もし、私とあなたの体が入れ替われば互いの望みがかなうのに」

「ああ、そうだな。それは最高だ」

 見ればメアは泣いていた。その目いっぱいに涙を浮かばせて、フルフルとその肩を震わせながら顔を歪めていた。

「ねえ、ウル。一つだけおねがいを聞いてくれる?」

「……何だ?」

「私が生きている間だけでいいから、そばにいて」

 当然、それに返すのは――

「……わかった。お前が死ぬまで、俺がそばにいる。だから、泣くな」

 力強い首肯と宣言だった。


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