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十八話目

 痛い、痛い、痛い。胸がずきずきと痛んで吐き気を催す。

 涙で視界は霞み、もはや間近の景色すらまともに視認できない。

 ただ、どれだけ泣いても嘆いても悔やんでも救済はない。それが現実だ。

 いっそ、心さえなければどれほどよかっただろうか?

 何の感情も抱かず、ただ生きているだけの化け物であればこんな思いをしなくて済んだはずだ。

 心の傷というのは厄介だ。不老不死の特性が一切適応されず、かつ深い爪痕を残していく。だからこそ、俺はこれほどまでに苦しんでいるのだ。

「クソ……クソッ!」

 墓に拳を叩きつけると打ち所が悪かったのか、骨が砕ける音が聞こえてきた。だが、数秒もしないうちに痛みが引き、元通りになる。

 嗚呼、やはり死ねないのだ。

「クソが……クソがああああああっ!」

 腕をもごうと足を切り裂こうと、肋骨の隙間から腕を滑り込ませて心臓を握りつぶそうと魔法で内臓を全て焼き尽くそうと、無理矢理自分の首をねじ切ろうと、死ねない。回復速度に差こそあれ、すぐに元通りになってしまう。

 俺は化け物だ。人の心を持った化け物だ。それはとてつもなく醜悪で、不気味で、哀れで、滑稽な存在である。何せ、化け物が持ちうる最もおぞましい肉体と人間が有する最も醜い心を有しているのだから。

 誰でもいい。誰でもいいから俺を殺してほしい。

 胸中に渦巻く自責と怒り。それは俺の心を締め付け押し潰そうとしている。こんな感情は久しぶりだった。気を抜いただけでその感情が爆発しそうである。

「ウル……?」

「――ッ!?」

 ふと、後方から聞こえてきた声。見れば、メアがおびえた表情になってこちらを見ていた。いや、当然だ。俺の本性を見てしまったのだから。きっと俺は彼女のトラウマの一ページになってしまったに違いない。

「こっちに来るな……帰れ」

 自分でもぞっとするほど低い声が出た。が、メアは震える足取りでこちらに歩み寄ってくる。

「来るな……来るな!」

「嫌よ。だってあなた……『助けて』って顔してる」

「わかったような口を聞くな!」

 思わず口調を荒げてしまったが、構わない。この際だ。言ってやる。

「お前に何がわかる!? たった数年を生きているだけの小娘に! 数百年を生きてダチを、家族を、仲間を失って! 暗い牢獄で生きながらの地獄を経験してきた俺の気持ちがわかるのか! ああ!?」

「……わからないわ。だって私はあなたじゃないもの。当然、あなたも私の気持ちがわからないはずよ」

「黙れ黙れ黙れ! 早く失せろ!」

 軽く呪文を詠唱し、牽制を兼ねて彼女の足元に風の刃を放った。それは地面に生えていた草のみならず大地までも切り裂いた。普通の人間なら萎縮するはずだというのに、メアは構わずこちらに歩いてくる。

「来るなって言ってんだろうが!」

 彼女が一歩踏み出すたびに俺も風の刃を一つ放つ。それは彼女の服を、髪を、肌を切り裂いた。なのに……

「どうして止まらないんだよ! 怖くないのかよ!」

「……怖くないわ。だって……」

 瞬間、彼女はこちらに向かって淡い笑みを作り、

「私、もうすぐ死ぬもの」

 諦観を含ませた口調で告げた。


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