十七話目
マリカ・マグノリアはいじめられっ子だった。
というのも、彼女が歴代の魔法使いから排出された魔法使いの家系出身でなく、突然変異的に魔力回路を得た少女だったからだ。
魔法使いの世界というのは、身分と歴史に基づく社会であり、それが絶対視されていた。当然、何の身分も歴史も持たない彼女が苛めの対象になるのは、ある意味当然の帰結だった。
しかし、彼女は決してその境遇を嘆くことはなかった。むしろいじめられていたからこそ、他人の痛みに共感できる優しい子だったと思う。
そして何より、マリカには非凡な才能が秘められていた。それこそ、最上級の魔法使いに匹敵するほどの。とはいっても、それが判明したのは俺と彼女が知り合ってからだいぶ経ってからであり、その時にはすでにマリカはいじめられっ子でなくなっていたのだから皮肉なものである。
彼女の才能に少し言及するならば、代表的なものがその魔力量だ。通常人間にはある程度魔力を蓄えられる限界の量が定められているが、マリカはそれが桁違いに多かったのだ。それこそ、常人の十倍以上の魔力を常時保持していられるほどに。
が、そんなハイスペックを持つ彼女が得意としていたのは攻撃魔法ではなく、護る為の魔法――防御魔法だった。
『この力で誰かを守ってあげたい』
よく彼女はそう口にしており、実際学校に在籍している時にいじめられている子をその魔法を使って護っていたのをよく見かけたものだ。
そんな彼女は学年を問わず多くの生徒に支持を得ており、校内でも一、二を争う人気者だった。いじめられっ子が覚醒した途端人気者になるとは、とんだシンデレラストーリーである。
今思えば、俺がよくつるんでいたマリカを含む友人は誰しもが異端だった。
平民出の大魔法使い、マリカ。学園長の娘にして学年次席のアリシア。才能があるくせにそれを隠し平凡な生徒を演じようとしていたヴィクター。魔法使いの名家出身だが、ごくわずかしか魔力を持たなかったレックス。そして、国一番と称される魔法使いの長男だった俺。
他の生徒たちから浮いていた存在だったからこそ、自然と惹かれあったのかもしれない。それで意外と相性がよかったのだから、案外わからないものだ。
しかし……数百年以上前のことだというのにまるで昨日の事のように鮮明に思い出すことができる。それだけ彼女たちとの思い出が大事だったのだ。絶対に忘れることなどできはしない。
そんなことを思いつつ、ふらつく足取りで墓のほうまで向かいもう一度オブジェを見やるとそこには――
『偉大な魔法使いマリカ・マグノリア。ここに眠る』
きれいな字でそう書きこまれていた。それを見た瞬間に、改めて彼女の死を実感させられてしまった。嗚呼……虚しい。俺だけが生き残ってもダメなのに。全員が揃っていないと、俺たちは俺たちじゃないのだ。
「なぁ……マリカ。助けてくれよ……俺を……死なせてくれ……頼む……」
だが、目の前にある冷たい石はそれに応えるはずもなくただそこに鎮座しているだけである。それが、無性に悔しく、悲しく、苦しかった。
「どうしてもっと早く気付かなかったんだろうな……お前らの存在の大きさに。だったら不老不死になんかならなかった。普通に暮らして、普通に年取って、普通に死んで……そっちの方が、何百倍もマシだ。俺一人だけ生き延びてもつまらないんだよ。お前らがいてくれないと、ダメなんだ」
そのまま、息を吸い、震える声で告げる。
「マリカ、アリシア、ヴィクター、レックス……ごめんな。俺が、バカだった。だから頼むよ……殺してくれ……早く……死なせてくれえええええええええ!」
気づけば、涙が頬を伝っていた。
もう枯れていたと思っていたのに。
あいつらが死んだことを知った時に流しつくしたと思っていたのに。
とめどなく、溢れてくる。拭っても拭ってもきりがない。
嗚呼、そうか。今ようやくわかった。
俺は、やはり生きている。
不老不死となり、体は死ななくなった。だが、心はすでに死んだと思っていた。
しかし、それは違ったのだ。
心も同様に生きていたのだ。ただ少し……眠っていただけで。
でなければ、到底泣くことなどできはしないのだから。




