十五話目
降り立つや否や殺到する幻想生物たち。メリーは手を前に突き出して彼らを宥め始めた。
「大丈夫だ。こいつらは敵じゃない。母様のご友人だ。丁重におもてなししろ」
どうやらメリーはここでは一番の古株であるのか、その意見に逆らう者はいなかった。
「こんな場所があったなんて……」
幻想生物たちの方を見ながらゴーシュがぼそりと小さく呟いた。確かに、彼の言うとおりである。この場所はまさに彼らにとっての楽園であり、俺たちにとっては摩訶不思議な幻想郷のようなものだった。
「なあ、メリー。ここに人間は?」
「いない。人型の生物たちはいるが、純粋な人間はここには存在しない」
そう答えたメリーはどこか寂しげに見える。きっとマリカのことを思い出しているのだろう。
あいつ……愛されていたんだな。昔から変わらない奴だ。
さて、そろそろ俺も降りるとしよう。
勢いよく飛び降りて着地。足が衝撃でじんじんと痺れたが、数秒もすれば治まったので未だに降りられていないメアを抱っこして降ろしてやった。
だが、彼女は不満そうに頬を膨らませ、
「別に手を貸してもらわなくても一人で降りられたわ」
ちょっと怒ったように言った。
やれやれ、わがままなお嬢様だ。
「はいはい、わかったわかった」
適当に応えてひょいとその場に下ろす。俺はそのまま尚も不満げにしている彼女をよそにゴーシュの方に向かい、そっと手を差し伸べた。
「ほら、手を貸すよ」
彼は少し戸惑ったかに見えたが、やがて俺の手を取って一気に飛び降りた。が、まだ体の疲れが抜けきっていないのか、まともに着地すらできず尻餅をついてしまった。
俺の魔法では体の傷は治せても体力や失った血液までは補充できない。当然の帰結だ。
「い、いたたたたた……」
打ち所が悪かったのか、痛そうに尻を押さえながらゴーシュが立ち上がる。その顔は苦悶に歪んでいた。
「おいおい、大丈……ぶっ!?」
話しかけようとしたところで――ゴーシュの姿が一瞬で目の前から消えた。
「ゴーシュ!?」
急いで周囲を見渡すと――いた。エルフやウンディーネといった女性型の魔法生物たちに担がれ、森の奥へと向かっている。見たところ治療魔法が得意な種族ばかりが集まっているし、彼の介抱をしてくれるみたいだ。
しかし、流石はマリカの家族達。親切な奴らだ。
「むう……マズイな」
が、そんな俺の思いとは裏腹に困り顔でつぶやくメリー。俺はそれに首を捻りつつ問いかける。
「何がだ?」
困惑した様子のメリー。しかし、何がマズイというのだろうか? 見た限り優しそうな子たちだったし、よもや客人を食べるなんてことはないと思うが。
「いや、その……見てわかると思うが、ここには人型の生物が少ないのだ。特にオスはな」
「だからなんだよ。なにがマズいんだ?」
「だからその……有り体に言えば彼女たちは飢えているのだよ。男に」
「あ~……なるほど」
女性型の生物たちは他種族との交配でも子孫を残すことが出来る。それは遺伝的に幅を持たせるためでもあり、それこそが種の繁栄につながるからだ。ということはつまり……
「つまり彼は……十中八九食べられる。別の意味でな」
できれば、聞きたくないことだった。




