十三話目
上空高くから森を見下ろすも、メアたちの姿は見当たらない。よほどうまく隠れたか、椅子ウサギが遠くまで逃げ去ったかのどちらかだ。
俺はドラゴンの背から少しだけ身を乗り出し、呪文を紡ぐ。
「《示せ・我らの同胞を》」
探知魔法――《アイ・サイト》――を詠唱。すると数百メートル前方で小さな明かりがともった。俺はすぐさまそちらを指さしながらドラゴンに指示を出す。
「あそこだ。できるだけ早く向かってくれ」
「承知した」
有言実行、その両翼を勢い良く羽ばたかせてドラゴンは光の方へと向かっていく。しかし、向こうも異変に気づいたのかどんどん遠ざかっていった。
だがしかし、ドラゴンの移動速度はそれよりも断然早い。あっという間に追いつき、下の方でメアの姿が見えた。近くには目覚めたらしきゴーシュが控えており、そのさらに前方では椅子ウサギが臨戦態勢に入っている。
「おい! 俺だよ! 安心しろ!」
「ウル!」
やっと気づいてくれたのか……メアとゴーシュはともかく、椅子ウサギはわかってくれてもいいような気がしたが……もしかして俺、嫌われてる?
そんなことを考え悶々としている俺をよそにドラゴンは降下を始めゆっくりと着地。それに従ってドラゴンの背から降りるとメアたちからの不可思議な視線を受けているのに気付いた。まぁ、当然の反応だとは思う。
「ウル……大丈夫だったの?」
「ああ。こいつは悪い奴じゃない。俺のダチの息子だ」
「ドラゴンのお友達がいたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……まぁ、話は後だ。とにかく乗ってくれ。椅子ウサギもよくやってくれたな」
そう言って椅子ウサギの頭を撫でていると、
「あの」
不意に後ろから聞こえてくる声。見ればゴーシュがおどおどとした仕草でこちらを見ていた。
「あの……ここは? 自分は確か……拷問を受けて……」
「悪いが、連れださせてもらった。あそこにいたらお前は殺されちまうし、何よりお前には借りがある」
「あ、ありがとうございます……」
「礼はいいから乗った乗った」
その肩をポンとたたき、ドラゴンに乗るように促した。ゴーシュはしばし逡巡を見せたものの、恐る恐るその手に飛び乗ってそこから背中へとよじ登っていった。
「では、行くぞ。しっかり掴まっていろ」
そうドラゴンが言った直後、メアが四つん這いになりながら彼の方に視線を寄越す。
「ねえ、あなたのお名前は?」
「私か? まぁ……その……言わないとダメか?」
「言いたくないなら構わないわ。でも、私はあなたの事が知りたいの」
その真摯な瞳を見てしまったためか、ドラゴンは渋々といった様子でやや歯切れが悪く告げる。
「私の名は……その……メリーだ」
「……え?」
この屈強でたくましいドラゴンの名があまりにも可愛らしかったので、ついそんな言葉が口を突いて出た。するとドラゴン――メリーは首を振り、
「だから言いたくなかったのだ! 子供の時分ならまだ可愛げもあったがこれだ! 名前と外見のギャップが大きすぎる!」
どうやら地雷だったらしい。メリーはこれまでにないほど取り乱して頭を抱えていた。先ほどまで俺と互角以上にやり合っていた猛者とは到底思えないありさまだ。
だが、そんな彼を宥めるようにメアが優しく問いかける。
「私は好きよ、その名前。誰が付けてくれたの?」
「……母様だ。卵から孵った時産毛が生えていたからそう名付けてくれたのだ……今は鱗が生えているがな」
「そう。なら聞きたいんだけど、あなたはその名前が嫌い?」
「……いいや。今がどうあれ母様が付けてくれた大切な名前だ。嫌いになるわけがない」
それを聞くとメアは若干安心した風にメリーの背を撫でる。すると今まで取り乱していたメリーもやや落ち着きを取り戻し、羽ばたきのペースを戻していった。
前々から思っていたことだったが、メアは純粋だ。限られた世界に閉じ込められ邪悪なものを見てこなかったからかもしれない。何にせよ、その純粋さこそが彼女の魅力であることに違いはなかった。
だからこそ、俺や椅子ウサギといった化け物とでも打ち解けられたのである。ある意味これも才能の一種だ。すでにメリーもそれにやられていることは疑いようがないことだった。




