●一方のアスタニア界&地球界●
「あああああっ!!見付からない!!」
大声を上げながらバンッと机をぶっ叩き、目に隈を濃く作ったシンディが苛立ちを隠さずに手に持っていた書物を乱暴に床に投げ捨てた。あれから更に日が経っているが、手掛かり1つ掴めないでいた。空間を操る<ディメンションエレメント>(空間属性)によって煉達が飛ばされたのは分かった。しかし幻のエレメントと呼ばれる<ディメンションエレメント>と契約した誰かが、なぜ煉達を異世界に飛ばしたのかが分からない。
「何かこっちから煉達に連絡が取れれば……あ、」
シンディはある人物を頭に浮かべた。
「あいつなら、やれるかしら……」
シンディは“エレメント学園実験室”に向かった。そこにいる、“狂った天才”に会うために…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エレメント学園実験室。文字通り様々な実験が日夜行われている教室だ。普通なら生徒も実験の授業を受けるのだが、最近赴任してきた先生のせいでそれが出来なくなっていた。理由は、生徒に実験体を頼んでいるからである。一部の生徒が興味本意で実験体をしていたら、数日間魘されるという事態に陥ったため、先生を恐れて実験の授業は廃止となった。しかし頭はとんでもなく良く、先生としては最高スペックである。故に、“狂った天才”と畏怖を込めて呼ばれていた。
「ウェンダル、開けるわよ」
シンディはノック無しに扉を開いて実験室に入った。中はカーテンが閉められ光が無く、埃が辺りに舞っている。辛うじて見えるのは壁や床に付着している赤い液体だけだ。
「ウェンダル、いないの?」
「はいぃ、何でしょうかぁ?」
「うぎゃあっ!?」
突然後ろから聞こえた不気味な声にシンディが女らしからぬ悲鳴を上げた。
「あ、あんたねえ……普通に話しかけなさいよ!!後ろからなんてビビるでしょう!!」
「すいません、これが普通なもので」
灰色の瞳を光らせて、長い白髪を後ろでまとめた白衣の男。この人が、エレメント学園実験担当、“狂った天才”の異名を持つウェンダル・クレイドである。
「ところでどうしました?理事長直々に会いに来るとは、さては赤堂君達の件ですね?」
「話が早くて助かるわ。あの子達にどうにか連絡が取れる方法はある?」
「………難しいですねぇ。今彼等がいる異世界、まずこれを特定しないとですねぇ。幸い彼等はコールブレスを持っていますので、異世界の特定が出来ればそこに波長を合わせて連絡が取れるかもしれませんね、どうぞ」
ウェンダルがビーカーに入れたコーヒーをシンディに差し出す。なぜビーカーに………旨いけど。
「異世界に関する書物は読破しちゃったし……もう本は無いわね……」
「そうですか………理事長、彼等の、赤堂君のコールブレスの番号を教えてください」
「え?どうするの?」
「番号をこちらから幾つかの波長パターンに乗せて赤堂君に連絡を取る方法です。もしかしたら合う波長パターンがあるかもしれません」
「でも、かなりの数だけど……」
「ご心配無く。3日で調べますから」
「3日!?」
ウェンダルが言った一言に思わずコーヒーを吹き出した。
「あんた……3日で調べられんの?」
「3日間徹夜で調べればいけるかと、あくまで予想ですが」
「………分かったわ。あんたに任せる。頼むわよ」
「お任せください」
ウェンダルはニヤリと笑って了承した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エレメント学園Ⅱ-Ⅲクラス。ここでも唸りを上げている人物がいた。エレメント学園内の不良で構成されたチーム、“ウィンディエッジ”のリーダー、“トルネード番長”こと風見鶏静音である。あの一件以来煉の事を考えると頭がおかしくなりそうなのだ。その腹いせ(ただ単に会いたいだけ)目的で修学旅行が終わったら思う存分煉に会おうと思っていたのだが……まさかの煉達が行方不明となる事態になって静音はずっとこの調子だ。同クラスの荒野虎鉄も心配した様子で静音を見守っていた。
「姐さん、煉の兄貴がいなくなってからあの調子だけど、大丈夫なのか?」
煉が行方不明になってからの影響は“ウィンディエッジ”にも出ており、煉を慕う者達がヤル気を無くしているのだ。
「早く帰ってき下さいよ、煉の兄貴……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地球界、十蓮寺高校。かつて煉が通っていた学校にも、煉の事態が伝わっていた。
「ねえ、赤堂君大丈夫かな?」
「何でも異世界に飛ばされたって話だけど…」
「このまま帰ってこないんじゃ……」
生徒達もだいぶ心配しているようだ。その中で、一際取り乱しているのが、
「煉ちゃあぁぁぁん!!どこ行っちゃったのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
煉の幼馴染みであり、自称煉の嫁である天宮美月だ。煉が行方不明になってから毎日毎日騒いでおり授業妨害の真っ最中だ。
「おーいまた美月が騒いでるぞ!!」
「早く他のクラスから水属性の奴呼んでこい!!」
「逃げろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
美月の取り乱しがピークに達した瞬間、美月の体から炎が噴き出した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「またかよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「暑い熱い厚い篤いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
これが何日も続いているのだ。
「煉ちゃあぁぁぁん!!」
泣きながら叫んでいる美月に、
「「「泣きたいのはこっちだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
クラス全員からのツッコミが炸裂した。




