●ラーヴァオ到着●
ギルド都市ラーヴァオ。名前の通り、ギルドと呼ばれる施設が多数ある都市である。ギルドは依頼人とそれをこなす人間を仲介する施設だ。なお、ギルドで仕事をこなす人間は、ハンターと呼ばれている。ランクはF~Sまで存在し、ランクが高いにつれて危険も増すが報酬が良いのだ。そんなギルドが多数ある中で、煉達はワイバーナ帝国王女のミアラに予め異世界に詳しい人物がいると教えられたギルドに向かっていた。
ギルド名は“トライデント”。ラーヴァオの中では最高位のギルドらしい。
その“トライデント”を目指して歩いているが、中々足が進まない。原因は、
「うんめ~!なんだこれ!おばちゃん、これ1つ」
「おぉ…これは……木刀ではござらぬか……!!」
「ヘイヘイそこのお姉さん、僕とお茶でもいかが」
ライズ&十蔵&ウェドの3人が露店に度々入って遊んでいるからだ。ライズは試食して律儀に買っている。十蔵は武具や防具に興味を引かれ、ウェドに至ってはナンパである。これには煉達もイライラしていた。
額に青筋を浮かべながらライズ達に振り返ろうとしたら、残りのリオ&美紀が洋服とアクセサリーショップではしゃいでいるのがみえたので諦めた。
「お前等は……たく、俺も何か見て回るか」
煉も近くにあった食材市場に入っていく。中には見たこと無い食材ばかりで煉の好奇心が一気に駆り立てられた。巨大な肉の塊。奇妙な形をした野菜。色鮮やかなスパイス等々。他にも調理器具が豊富に取り揃えられており、懐かしの<ドラグニウム鉱石>が使われた包丁と鍋を見つけた時は覚えておこうと思った。結局食材数種類を買って市場から出ると、リオ達も買い物を終えたらしく鉢合わせした。
「お前等は何買ったんだ?」
「あたしは服。いつまでもワンパターンなのは嫌だし」
「俺は一角兎と双頭牛の串焼。旨いよ」
「拙者は木刀と木槍が売っていたので、これを」
「僕はアクセサリーだよ。中々カッコいいんだよ」
「私もリオさんと同じく服です。煉君は?」
「俺は食材だ。これなんか特に……」
煉がそこまで言った瞬間に、女性の叫び声が耳を刺した。
「誰かそいつを捕まえて!!引ったくりよーっ!!!」
見れば、黒ずくめの男が女性から荷物を奪ってこちらへ走ってきていた。
「さっそく面倒くせえな、たく」
煉は荷物を抱えたままの状態で引ったくりに蹴りを放った。しかし引ったくりは煉の蹴りを跳んでかわし、更にそのまま屋根に飛び乗り走っていく。
「ちっ……!十蔵、持ってろ!!」
「ぼげらっ!?」
十蔵に向けて荷物を投げ飛ばすと、奇声を上げて倒れた。どうやら鳩尾にヒットしてしまったようだが謝ってる暇か無いので心の中では謝っておく。
「待ちやがれ!!」
煉も後を追って屋根に飛び乗り引ったくりを追跡する。引ったくりはワイヤーでも着けているような鮮やかな動きで屋根から屋根を跳んで移動していた。煉も必死に追跡するが中々距離が縮まらない。
「面倒くせえな……!<火鎖縛>(かさばく)!!」
足で追い付けないと考えた煉は左手から炎で造られた鎖を放ち引ったくりを縛り付けた。ほどこうと身を捩らせているが無駄なことだ。人間の腕力ではほどけない。
「やっと捕まえたぜ、引ったくり野郎」
「く………」
「さ、荷物を返してもらう……っと!!」
引ったくりが突然こちらに向けて蹴りを放ってきたので煉はバク転して回避する。
「話してる途中に蹴ってくんなよな…」
再度連続で蹴りが放たれてくる。無駄の無い動きで放たれる蹴りはどこか武道家のように思えた。蹴りを何とか捌いていくが、引ったくりの回し蹴りが煉の左手を弾き<火鎖縛>を解除させて拘束を解く。拘束が解けた引ったくりは再び逃げようと走るが、
「いい加減にしろよ、こら」
煉によって後ろから腰に手を回されてしっかりホールドされた。
「てめえみたいな往生際の悪い野郎には、」
そのまま跳躍し、空中で2回転した勢いを乗せた、
「これでもくらってやがれ!!」
ジャーマンスープレックスを決めた。強烈な勢いで地面に叩き付けられ、引ったくりはしばし痙攣した後に動かなくなった。ひび割れた地面からネックスプリングで立ち上がり、引ったくりの手足を拘束する。その時ちょうどリオ達がこちらに向かってきた。十蔵は顔が少し青かった。すまん、十蔵。
「捕まえたみたいね」
「まあな。ジャーマンスープレックス決めてやったら気絶した。粉砕骨折でもしてんじゃね?」
「容赦無いわね……」
「今更だろ?よっと」
引ったくりの手に握られていた荷物を取って汚れを払い、引ったくられた女性に返した。
「ほいどーぞ」
「あ、ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいやら…」
「気にしないでくだ…」
「お気になさらないで下さい美しいお嬢さん」
煉の前に突然現れたウェドがイケメンスマイル絶好調で女性の前にひざまづいた。女性は困惑した表情をしており、煉は怒りマークを額に浮かべていた。
「私達は当然のことをしたまでです。貴女に怪我が無くて何よ…」
「せいっ!!」
「おっ……!!」
延々と弁舌を垂れるウェドに限界が来た煉が、手刀を首に叩き込んで気絶させた。
「申し訳無い。こいつは気にしないでくれ」
「え、ええ。本当にありがとうございます。あ、申し遅れました。私、ギルド“トライデント”で受付嬢をしております、シャーリー・アナンと言います」
「ご丁寧にどうも。俺は赤堂煉。ちょうど“トライデント”に行こうと思ってたんだ」
「そうなんですか。よろしければご案内致しますが、よろしいですか?」
「願ったり叶ったりだ。頼むよ」
「はい。では」
シャーリーの案内で煉達は“トライデント”へと向かった。気絶中のウェドは十蔵がおんぶして引ったくりは煉が引きずっている。
「ところで、煉さん達は“トライデント”へどういったご用件なんですか?」
「あ、ああ。“トライデント”に異世界に詳しい人物がいるって聞いたから話を聞きたいと思ってな」
「ああ、シエンさんですね」
「シエン?」
「はい。“トライデント”のギルドマスターです。異世界について独自に研究しているんです」
「そうなのか。で、そのシエンさんは今日いるのか?」
「そうですね~、依頼からそろそろ帰ってきていると思いますよ。あ、着きましたよ」
シャーリーが足を止めた場所には、立派な建造物が佇んでいた。まるで西洋の城のような外観に、白と青を基調としたカラーリング。そしてそこを行き来する大勢のハンター。話だけでは分からなかったが、実際に見ると中々迫力がある。
シャーリーに案内されて中に入っていき、無数にある部屋の中から一つの部屋に案内された。ぱっと見応接室のようだ。長机と椅子が複数並んでいる。
「こちらでお待ちください」
「ああ。あ、この引ったくりはどうすれば……」
煉は引きずっている引ったくりに気付いた。
「そうでした!!すいません煉さん。窓口までお願いしてよろしいですか?」
「ああ」
煉は引ったくりを引きずってシャーリーに着いていき窓口まで行く。窓口にはシャーリーとは別の受付嬢がおり、そこに引ったくりを引き渡した。すると、引ったくりを見た受付嬢が顔色を変えた。
「この人、今指名手配中のA級強盗犯ですよ!!凄い、貴方が捕まえたんですか!?」
「おう。捕まえた」
「私が見てたから、保証はするわよ」
「え、あ。大変!!シエンさん!!シエンさーん!!」
受付嬢は焦りながら後ろでギルドマスターの名前を叫んでいた。それに反応して、1人の男が出てきた。
「どうしたんですか?彼氏でもできましたか?」
「違いますよ!!彼が指名手配中のA級強盗犯を捕まえてくれたんです!!」
「へ……?彼って、そこの赤髪の彼が?」
「本当ですよシエンさん。私が助け頂きました」
「ふぅむ。シャーリーが言うなら間違い無いです、か」
シエンと呼ばれた男は、紫の長めの髪に黒い瞳。服装は白を基調とした衣装に身を包んでいた。歳は25辺りであろう。
「指名手配犯の逮捕協力に感謝します。私はギルド“トライデント”のギルドマスター、シエン・ヴィッツと言います。君は?」
「赤堂煉だ。あんたに話を聞きたくて来た」
「話?」
「まあまあ煉さんもシエンさんも。話は応接室でしましょう」
シャーリーの指示で、応接室に上がることにした。
「それで、私に聞きたいと言うのは何でしょうか」
「あんたが異世界について詳しいって聞いたからさ、それについて」
「異世界ですか。何故でしょうか?」
「俺等が異世界から来たからだ」
「「!?」」
煉の一言にシエンとシャーリーの表情が変わった。
「俺等はこのイグニスとは違う、アスタニアって世界から来たんだ。しかし来たはいいけど、帰る方法が分からない。それでワイバーナ帝国のミアラから話を聞いたら、ラーヴァオに異世界について詳しい人間がいるって聞いたからな」
「……なるほど。確かに私は異世界について独自で研究しています。その中で、アスタニアという世界は聞いたことがあります。あくまで書物だけですが」
「何か行き来する方法とかは分からないか?」
「残念ながら、見つかっていません。力になれなくて申し訳無い」
申し訳無さそうに頭を下げるシエン。煉は気にするなと励ました。
「異世界についての概念があるだけマシだ。まだ帰れないと決まったわけじゃ無いしな」
「そうですか。あ、煉さん。提案があるんですが……」
「提案?」
「はい。ハンターになってはいかがですか?情報が集めやすいですし、それに、」
「それに?」
「ハンターになれば、コロシアムの参加条件も得られるんですよ」
「コロシアム?」
「ギルドの代表3名で戦い、1位を決めるものなんです。腕試しにも、鍛練にもいいですよ」
情報と鍛練のワードに引かれたライズと十蔵が目を輝かせた。煉自身も純粋に興味を引かれている。
「ハンターになりたいのなら、こちらの窓口で登録が出来ますよ。それと、これは私情なんですが…」
「ん?」
「あなたと戦ってみたいと思っているんです」
刹那、穏やかだったシエンの雰囲気が一変し、研ぎ澄まされた刃物のようになった。その雰囲気に煉は怯まず、むしろ口の端を吊り上げた。
「奇遇だな。俺も思ってたとこだ」
煉とシエンの間で火花が飛び散る。そして煉はそのまま窓口に行き全員のハンター登録をした。
「ギルド名はどうする?何か提案がある奴挙手」
「エレメンターズ」
リオの案。
「安直」
「獲列瞑鴕阿頭」
ライズの案。
「リオのを当て字にしただけだろ」
「六人侍」
十蔵の案。
「お前の趣味が出過ぎ」
「イケメンパーティー」
ウェドの案。
「女が2人いるだろ」
「ANOTHER・WORLD」
美紀の案。
「アナザーワールドか…………採用」
こうして異世界にて、ギルド、“アナザーワールド”が設立された。




