●出発●
ワイバーナ帝国クーデター事件から1日後、煉達はワイバーナ帝国の民衆から見送られていた。クーデター事件以来煉達はかるい英雄扱いとなり、ガーラを倒した後はお祭り騒ぎの中で担がれていた。ちなみにガーラとその共謀者はミアラによって牢獄に幽閉。刑は決まっていないが重罪に変わりは無いであろう。煉達の見送りには当然ミアラとアレックスもおり、先程から感謝感激の言葉をもらっていた。
「あなた方がいなければ、帝国は今頃ガーラの手に落ちていたでしょう。感謝します、煉さん。皆さん」
「そんな気にすんなって。当たり前のことをしたまでだよ」
「しかし、本当にお礼はよろしいのですか?」
「いいって。あんなにもらえねえし、何より運べねえしよ」
ミアラの後ろには、高さ2メートルはあろう金塊が置かれていた。換金すれば相当な額になるし、この先便利かもしれないが、重すぎて運べないのだ。ただどうしても受け取って欲しいらしいので、小さくカットしてもらうことにした。
「煉さん。これからどこに行こうと?」
「そうだな……とりあえず、元の世界に戻るための方法でも探さないとな……何かそれっぽいとこ無いかな?」
「そうですね…………それでしたら、【ラーヴァオ】に向かってみては?」
「ラーヴァオ?」
「はい。ここから東に5日ほど走ったところにある国です。何でも、異世界に詳しい人がいると聞きました。それにあそこにはギルドもありますし、情報集めにはいいかと」
「なるほど。確かに期待が持てそうだな。そこに行くとするか。お前ら、異論は?」
「「「無し」」」
「よし。じゃあ、行くとするか」
煉達は、それぞれ貰ったお土産を抱えて門から歩き出した。すると後ろから歓声が巻き起こる。空を見れば優雅に飛ぶワイバーンがいた。その中にアレックスとレックスもいた。
「皆さん、どうかお元気で!!あなた方が危うい時は、ワイバーナ帝国飛竜騎士団総員が助けに参りまーす!!」
「ありがとよアレックス。じゃあな!!」
アレックスに手を振り、煉達はラーヴァオへと歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで、あれから煉達に関する情報は見つかったかしら?」
「いえ。コールブレスも通じず、連絡の仕様がありませんので」
「……わかったわ。引き続き、調査をお願いね」
「はっ!!」
全身鎧の騎士が踵を返して理事長室から退室した。
報告を受けたシンディは頭を抱えて唸る。修学旅行最終日に煉達が行方不明に早2日。行方を探すためにシンディは二徹していた。
「まったく……コールブレスが通じないとなると、未だ確認されていない異世界の何者かに飛ばされたと考えるべきかしら。でもそれだけのエネルギーを扱うのは………そもそも、空間をねじ曲げるエレメントなんて……………あった」
シンディは立ち上がって無数にある本棚から一冊の書籍を取り出した。題名は【エレメント全集】と書かれたものだ。それのページを捲っていき、あるページで指を止めた。
「正直信じがたいけど、人間を異世界に飛ばせるエレメントなんてこれしかないわね。<ディメンジョンエレメント>(空間属性)」
シンディが持つ<タイムエレメント>(時間属性)と同格のエレメントがそこに記されていた。
「未だに誰にも契約されていないことから、幻のエレメントと呼ばれている。でも、可能性はあるわね」
シンディは書籍を脇に挟んで理事長室から飛び出した。
「無事でいなさいよ、あんた達……!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は戻り【イグニス】
煉達は砂漠地帯を美紀のエレメントで造り出した船で移動し、ミアラに教えてもらったラーヴァオに向かっていた。5日ほどかかると言っていたので、走り出して今日で3日目。あと2日ほどで到着する計算だ。
「ライズ、何見えたりするか?」
あまりにも暇なため、煉は見張り台に立つライズに声を掛けたが、
「砂以外なんも無いね。強いて言うなら前方に流砂があるくらい」
「そうか流砂が………ってうぉいぃぃぃぃっ!!もっと早く言えよ!!」
目の前にはもう流砂が迫っていた。ライズにツッコミつつエンジン係の煉が<火爆掌>を放ち、その推進力で流砂を飛び越えた。
「危ねえだろうが!!もうちょい早く言わんかい!!」
「ごめんごめん。あともう1つ報告」
「今度はなんだ?」
「上見てみて」
「上……?……………何だあれ……?」
そこには、いつの間にか巨大な飛行船が煉達の真上に浮遊していた。サイズでいうなら、シロナガスクジラくらいか?
「「「何だあれぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」」」
ライズ以外の5人が大絶叫した。それに反応したのか、飛行船から放たれた鉤爪付ワイヤーが煉達が乗っている船を掴み取り、そのまま引き上げていた。
「何だよこいつら…!」
煉がワイヤーを斬ろうと手刀を構えるが、すでにかなりの高さまで上昇しており斬れば落下してしまうとリオ達に必死で止められたので手刀を下ろした。やがてワイヤーが巻き終わり、煉達は飛行船の中に収容されてしまった。
「俺等、異世界に来てからろくな目にしか会ってないよな」
「言うなライズ。皆思ってるから。つーかこいつ等は何なんだ?」
「たぶん“空賊”って奴等だね。ワイバーナ帝国の人から聞いた情報にそんなんがあったから」
「“空賊”?」
「盗賊や海賊の空バージョンだよ。こう言う飛行船で空から略奪行為をする人達のこと」
「ふ~ん。で、その“空賊”があんた等か?」
煉が振り返ると、そこには3人組の男がいた。いずれも海賊っぽい格好をしており、頭にはシマシマ模様のバンダナ着用。腰にはありがちなシミター(曲刀)が刺されていた。
「上まで来てもらおう」
真ん中の男が口を開いた。ドスのきいた低い声だが、対して怖くない。逆らうのも面倒臭いので煉達は大人しい‘ふり’をして男についていった。やがて案内されたのは船でよくみる航板であった。大砲、マスト、そして何故か特大プロペラがグルグル回っている。航板の真ん中まで行くと、1人の女性が座っていた。水色のショートカットに同色の瞳。ごつめの黒いマントを羽織い、古びれたずぼんとブーツの格好だ。
「そいつ等が獲物か?」
「はい。砂漠を走っていたのを捕まえました。全員1つずつ金塊を持っています」
「そうか。じゃあ金塊を貰ったら丁寧に地面に下ろしてやれ」
「わかりました。つー訳だ。痛い目見たくなかったら金塊を出しな」
男が手を差し出して金塊を渡すように促す。金塊はミアラがくれた物だからこいつ等に渡すのは癪だ。そもそも痛い目に会うのは、煉達では無いだろう。
「どうするお前ら?」
「渡さないに一票」
「俺も」
「拙者も」
「僕も」
「私も」
満場一致で拒否した。
「そうか。なら痛い目に会ってもら……」
「うっせえ」
ガシッ!!
拳を振り上げた男の顔面に煉のアイアンクローがめり込んだ。ギシギシと骨が軋む音がよく聞こえる。
「痛い目に会うのはてめえ等だよ」
顔面を掴んだまま腕を振り抜いて男をマストまで投げ飛ばした。すると周りで動いていた男達が一斉に殺気立った。
「総勢50くらいか?」
「手ぇかそうか?」
ライズが呑気に声を上げるが煉がそれを拒否する。
「いい。1人で片付けるからお前らはあの船長っぽいのと話しといてくれ」
「は~い」
ライズが背を向けたのを確認して、煉は人差し指をクイッと動かして空賊を挑発した。
「さっさと来い。3分で終わらしてやる」
予想通りぶちギレた空賊共が襲い掛かってきたので、手頃な男を掴み、ブーメランのように投擲した。投げられた男は正にブーメランとなり、複数の男を薙ぎ倒して煉の元に帰ってきたところを蹴り飛ばされた。
続いてその場から跳躍して、航板に向けて踵落としを炸裂させ、その衝撃で残りを一掃した。所要時間、3分。宣言通りの時間で空賊を全滅させた。
「骨が無えな、たく。ライズ、そっちはど…」
「いやーやるじゃんあんた」
煉が振り向くと、そこにはライズではなくあの女船長が意気揚々にしていた。
「それにしてもこいつ等はまだまだだな。鍛え直さないと」
「あ、ああ……」
「ああ、名乗ってなかったな。あたしは、“セシリア空賊軍”船長のセシリア・ユナイドだ」
「赤堂煉だ。つーかあんた、キャラ変わりすぎじゃねえか?」
最初の印象を見事に壊したセシリアの行動に煉は戸惑っていた。
「あーね。まあ本当なら金塊を貰ってその後はバイバイみたいな感じだったんだけど、うちの男共を1人で倒したあんたに興味を持ってな。どうだ、うちに入らないか?」
「断る」
「早っ!?いやいやもうちょい考えてくれても」
「何時間考えても変わんねーよ」
ちぇっ、と口を尖らせながらもセシリアは渋々勧誘を諦めた。
「で、用が無いなら俺等を下ろしてくれないか?行きたい場所があるんだが」
「聞いたよ。ラーヴァオに行きたいんだろ?勝手に拐っちまった詫びだ。あたし等が連れてってやるよ」
「いいのか……?」
「気にすんな。その代わり、この船を動かすのに力をくれ。あんた等エレメント使いだろ?」
煉はセシリアのエレメントと言う単語を聞き逃さなかった。
「この世界にもエレメントの概念はあるのか?」
「当然だ。この船の奴等は全員エレメント使いだ。主に炎、風、雷が動力源だな。あんた等の中に該当するのは?」
煉とリオとライズが手を上げた。
「じゃあ、手伝ってくれねえかな?」
「いいぞ。乗せてもらえるなら多少なら働く」
交渉成立。煉とセシリアは握手した。
「よし。じゃあ腹ごしらえとするか。おい、起きなバルゴ」
セシリアは足下に倒れていた男を蹴り起す。さっき煉達を連れてきた男だ。
「お頭、どうしたんですか?」
「腹ごしらえするよ。飯の支度とあいつ等を呼んできな。それとこの6人をラーヴァオまで乗せてくよ」
「はぁっ!?」
「はぁっ!?もくそもあるか!!さっさとやる!!」
「アアイアイサー!!」
「なんだその返事!?」
そこはアイアイサー!!だろうが。セシリアの一喝にバルゴと呼ばれた男が背筋を伸ばして行動に移った。扉を開いて奥の部屋へと入っていく。数分して扉が開かれ中からは、何人もの子供が溢れ出してきた。男の子、女の子、赤ん坊。煉達は目を点にしていた。
「はい整列!!」
「「「はーい!!」」」
セシリアの号令で子供が一斉に並んで前ならえの状態になる。約20人程度はいるくらいだ。
「飯の支度に入るから、全員いつもの係で手伝いな。それと客がいるから、ご挨拶」
「「「こんにちはーー!!」」」
「「可愛い……!!」」
リオと美紀の目の色が変わった。
「セシリア……この子供達は……?」
煉はセシリアに質問を投げる。
「この子等はうちが預かってる孤児さ。見つけてはうちで世話してんだよ」
「そうなのか…」
「おーし皆、働け」
「「「はーい!!」」」
子供は一斉に動き出して掃除や家事をこなしてく。
「あんた等は休んでてくれ。飯を食ったら働いてもらうけど」
「いや。俺等も手伝おう。飯は俺が手伝うから、残りは子供達の手伝いな」
「わかったわ」
「了解」
「承知した」
「任せといて」
「わかりました」
煉達も手伝に加わり、飯の準備は速攻で終わった。
「よーし。全員席に着いたな?じゃあ、いただきます!!」
「「「いただきます!!」」」
航板に集まった全員が席に着いて食事を始めた。机の上には豪華な料理が並んでいた。骨付き肉、パン、ビーフシチュー、クリームシチュー、バーベキュー、デザート盛り合わせ等々。
勿論、全て煉の作品だ。
厨房の手伝いに乱入したが、料理がどれもバランスが取れていないと激怒した煉が厨房係を追い出して1人で作ったのだ。味には当然自信あり。セシリア筆頭に満場一致でがっついていた。おかわりも続出した為厨房にて現在進行形で煉が調理している。リオ達は煉の手伝いと子供達の相手をしていた。
「ぷはぁ!!ごちそーさん。旨かったよ、煉」
酒の入った小樽を飲み干したセシリアが口の端についた雫を手の甲で拭った。
全員食い終わったようで満足げな表情だ。
「お粗末様でした。で、俺等はどこを担当だ?」
「ああ。煉とリオとライズがエンジン係な。残りは子供の相手を頼むよ」
「了解した。分かったかお前ら?」
「「「はーい」」」
そうして与えられた持ち場に向かい仕事に取り掛かった。




