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●異世界修学旅行●

新章突入です

「……で、あるからにして、学生らしく、爽やかに、異世界の方々に迷惑をかけないように、各々気を付けるように……」


エレメント学園大聖堂。

そこに集められた2年生の生徒達は、壇上のはげた人の話に耳を傾けていた。

壇上で話しているのは、

エレメント学園の教頭らしい。名前は知らない。

そんな名も知らぬ教頭が話しているのは、『異世界修学旅行』についてだ。

この前のシヴァの一件で話が途切れていたが、無事に行われることになった。

行き先は変わらず沖縄県。生徒達は話を聞きながらも浮き足たった状態だったのがよくわかる。まあ、話を聞くだけまだましだ。


「……ふぅ」


煉は後ろの席で、相変わらず爆睡しているリオを見てため息をついた。

こいつ本当寝やすいな。

まあ、あんな戦い続きだったし、修行もしたから、

無理ねえか。煉はリオの爆睡に目をつぶり、再び壇上に注目した。


「そういうわけなので、

明日、1週間分の荷物をまとめて、ここに集合するように。では解散」


話はちょうど終わったみたいだ。生徒達が次々と席を立って、各自の部屋へと帰っていく。


「おいリオ。終わったぞ。起きろ」


「うん………ふぅ…」


リオは目をこすりながらゆっくりと席から立ち上がった。


「荷物をまとめんだから、早く帰ろうぜ。ほら、行くぞ」


「うーい……」


煉の後をリオが覚束ない足取りで追い掛けていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「これは、ここに。服も下着もOK。修学旅行のしおりと、一応調理道具。カメラも持ってっとくか。ま、こんなもんだな」


煉は大きめの迷彩柄ボストンバックに1週間分の荷物を詰め終えていた。無駄の無い詰め込みはどこか芸術性も感じさせる。

荷物を詰め終えたので暇になった煉はしばらく考えた後、街に出ようと決めて外出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


エレメント学園街。生徒はもちろん、そこに住んでいる一般人もいる。勉強道具や家財などは大抵ここで揃えられる。これといって目的は無いが、街をブラブラしておく。すると、脇道から何か声が聞こえた。

穏やかな話では無いな。

煉はとりあえず声の方へ向かった。すると複数の男が、3人の男女を囲んでいるのが見えた。カツアゲか。煉はため息を吐いて男達に近付く。


「おい。カツアゲなんてやっていいと思ってんのか?」


「あぁ?何だお前?死にたくなかったら失せろ!!」


煉の言葉に逆上した男が吠える。耳障りな声だ。

男の数は5人。どいつもエレメントの反応がする。

エレメント学園の生徒か。見たこと無いがな。


「うるせえなぁ……あ、君達は行っていいよ。俺が何とかしとくから」


「え、あ、ありがとうございます…!」


男が煉に気を取られてる間に囲まれてる3人を逃がした。


「あ!!てめえ、どうしてくれんだよ!?」


「知るかよ。カツアゲする方が悪い」


「ちっ…!お前等、こいつをやるぞ!!」


「へえ?俺に喧嘩、売ってるんだよな?」


ビリッ!!


笑いながらも、煉は体から空気を軋ませるほどの殺気を放った。本気とはほど遠い威圧だが、それでも並の人間なら気死させるのは簡単だ。まともに殺気をうけた5人の内4人は気絶。1人は腰を抜かしていた。


「ここで引くならこの事は黙っといてやる。だが、これ以上駄々をこねるなら………しばらくベッドの上で過ごすことになるぞ」


「ひいっ……!!」

男は情けない声を上げ後ろに後退する。完全に戦意を失ったのを確認してその場から帰ろうと踵を返した瞬間、煉は身を屈めた。

それと同時に、先程まで煉の頭があった位置を何かが高速で通過した。

煉はすぐさまその場から飛び退いて襲撃した者を確認する。

目の前にいたのはがたいの良い男だ。黒い短髪と鋭い眼光。全身筋肉質のレスラー体格だ。格好は何故か、学ラン。ボタンを外した学ランからは虎の顔がプリントされたTシャツを着用している。


「誰だ、お前?」


「エレメント学園Ⅱ-Ⅲクラス所属、荒野虎鉄(あらのこてつ)だ。こいつ等をやったのは、お前か?」


「ああ。こいつ等がカツアゲをやってたからな。だが手は出してない。殺気で気絶させただけだ」


「カツアゲ…だと?」


カツアゲと言うワードを聞いた虎鉄は厳しい表情をすると、気絶している4人を叩き起こし、腰を抜かしていた男と一緒に正座をさせた。


「お前等、カツアゲとはどういう事だ?」


「こ、虎鉄さん。これは、その、え~と……」


「たく。あれほどカツアゲはするなと言ってただろう!!まったくお前等は…」


ゴンッ!!×5


虎鉄の拳骨が5人の頭に振り下ろされた。くらった5人は苦悶の声を上げてうずくまる。その後男から訳を聞いた虎鉄は煉に振り返った。


「こいつ等が迷惑をかけました。俺からよーく言い聞かしときますんで」


「いや。まあいいけど。それより、お前等は、何なんだ?」


「申し遅れました。自分等は、エレメント学園内の生徒で構成された“ウィンディエッジ”と言うチームの者です。自分はそこで副長をしてます、荒野虎鉄です。以後お見知りおきを」


「お、おう。俺は赤堂煉だ。Ⅱ-Ⅰクラスに所属している」


「………!!」


煉が名乗ると、虎鉄以下5人が全員絶句した。


「あ、貴方があの、赤堂煉……さん?」


「ああ。そうだが」


「「「大変失礼致しましたぁぁぁっ!!」」」


そして一斉に土下座した。煉は当然呆然としている。

「ど、どうしたんだ?」


「いえ。まさかあの赤堂煉さんに会えるとは、光栄です!!」


「光栄って……俺はそんな大層な人間じゃねえぞ」


「そんなことはありません。転校初日からリザードマンを駆逐し、謎の襲撃者も見事退散させ、魔竜を倒し学園に平和をもたらしたんですから。もう一部からは“レッドボマー”(紅い爆撃者)の異名がつけられています!!」


「誰だそんなこっぱずかしい異名つけた奴は!?」


自分の知らない間にそんな異名がつけられていたことに煉は恥ずかしくなる。

何だよ“レッドボマー”って……


「たく。まあいいや……もうカツアゲすんなよ?」


「「「はい!!すいませんでした!!」」」


「あのカツアゲした子達にも謝っとけよ?」


「「「了解です!!」」」


返事を聞いた煉はその場から離れようとすると、

今度は風の刃が煉に向けて放たれてきた。

数は3つ。ステップを踏んでかるく回避する。


「おいおい。今度は誰だ?」


風の刃が飛んできた方向には、初めてみる女が立っていた。歳は煉と同じくらい。緑色のバンダナを頭に巻き、間からは黄色い髪が覗いている。淡い緑の瞳は刃物のような鋭さが備えられていた。タンクトップとダメージジーンズ、スニーカーの組み合わせだ。


「…………誰?」


「あんたこそ、うちのメンバーに何してくれてんのさ?」


「メンバー…?あー、お前“ウィンディエッジ”ってチームの奴か」


「そうだよ。“ウィンディエッジ”総長。風見鶏静音(かざみどりしずね)だ」


「総長……!?」


まさかこの女が、こいつ等のトップって訳か?


「あ、(あね)さん」


虎鉄が震える声で静音の名を呼んだ。


「うちのメンバーに手出しといて、覚悟は出来てんだろうね?」


「おいおい、俺はこいつ等がカツア……」


「問答無用!!」


静音が再び風の刃を放ってくるが、煉は素手で叩き落とす。スピードは無いけど、威力はある。リオがスピード重視なら、こいつは威力重視か。


「逃がさないよ!!」


今度は風を丸ノコ状にして煉に放つ。煉は身を捻ってかわす。が、起動を変えて再び煉に襲い掛かる。


「ホーミング機能かよ」


背後から迫る風の丸ノコに回し蹴りを叩き込んで粉砕する。


「あ、姉さん落ち着いて下さい!!悪いのは自分…」


「庇わなくていいんだよ虎鉄!!あたいがしっかり片付けてやるからな」


「いえそうじゃなくて」


虎鉄の話に耳をかさずに静音は風を右腕に集める。

それは次第に、巨大な竜巻へと変貌していた。


「<トルネードフック>!!!」


竜巻となった腕でフックを放ってくる。煉は咄嗟に横に跳んで回避した。フックは後ろの壁に当たると表面をがっつり削り取った。


「やるじゃん」


「余裕かましてる暇は無いよ!!<トルネードラッシュ>!!!」


今度は連続でパンチを放ってくる。風の力で拳は加速され、高速で打ち出されてくる。だが、煉は冷静に対処する。<バースト>を解放したことで五感が強化されたのだ。反射神経、動体視力が研ぎ澄まされ、静音の拳は簡単に見ることができた。


「…っ!?何で当たらないんだよ!!」


「悪いな。止まって見えるよ」


パシッ!パシッ!


煉は静音の拳を受け止めた。


「くっ……!!」


「なあ、話くらい聞いてくれよ。俺はただ……」


「離しなさいよ!!」


キーンッ!!


「おっ…………!!」


静音の蹴りが、煉のシークレットゾーンを正確に打ち上げた。内臓がせりあがる感覚を味わい、顔を白くしてその場に倒れ込む。


「やっと大人しくなったか。まったく…」


静音は煉が倒れてる間に、右腕に今までよりも強い風を纏わせた。


「姉さん落ち着いて下さいって!?今回の件は圧倒的に自分等が悪いんです!!」


「へ……?」


「この馬鹿共がカツアゲしてるのをそこの赤堂煉さんが止めてくれたんです」


「カツアゲ?あんた等、本当かい?……って、こいつが“レッドボマー”!?」


「恥ずかしい異名で呼ぶな!!」


煉は股間を押さえながら立ち上がり自分の異名に対して抗議の声を上げた。

しかしそれを無視して静音は虎鉄から今までの経緯を聞くと、鬼の形相でカツアゲ犯×5人に往復ビンタを叩き込んだ。


「いやー悪かったな。あたしの勘違いで。“レッドボマー”」


「赤堂煉だ。頼むからそれは止めてくれ」


「そうか?じゃあ煉。改めてサンキューな」


「おう。気にすんな」


「ほらお前等、さっさと帰るぞ!帰ってからも説教だ!!」


「「「ひーー!!!」」」


そんなやり取りを見ていると、虎鉄が不意に声を掛けてきた。


「どうしたんですか?」


「いや、今更なんだが“ウィンディエッジ”ってどういうチームなんだ?」


「そうですね。簡単に言うなら、見捨てられた奴等の集まりですかね…」


「見捨てられた?」


「見ての通り、自分等はかなりの悪餓鬼です。勉強はしない。教師には反抗する。指導もまともに受けない。そんな奴等ばっかなんです。でも、2年に進級した時、姉さんと出会ったんです」


「………」


「クラスの自己紹介で、

『ろくでなしはあたいの所に来な!!面倒見てやるからよ!!』って、言ったんです。勿論、最初は馬鹿にしてましたけど、あの人に関わっていくうちに、自分が変わってると思えたんです。だから、“ウィンディエッジ”は、自分等の家みたいなものです」


「いい奴なんだな」


煉は静音達を見ながら、家族を思い出していた。

懐かしいな。そう思いながら静音の背中を見ていると、さっきの戦闘で抉られた壁の一部が剥がれ落ち、まっすぐに落下していた。

静音達は気付ていない。


「姉さん危ない!!」


「えっ………は!?」


気付いた時にはもう破片が目の前に迫っていた。回避できる時間は無い。


「姉さーーーん!!!」


ドゴォォン!!


けたたましい落下音と共に砂埃が舞い上がる。静音達の姿は確認出来ない。

まさか。嫌なものが頭を過る。


「姉さん……お前等…」


「無事だよ」


そんな声と共に、砂埃が弾け飛んだ。視界を遮るものが消えると、そこにはドーム状の炎に覆われた5人と、煉にお姫様だっこされている静音の姿があった。


「<火城郭>(かじょうかく)。俺が持ってる唯一の防御技だ。こっちにも怪我はねえよ」


「姉さん!!」

虎鉄は号泣しながら静音の下へ駆け寄る。


「姉さん、大丈夫すか」


「あ、ああ。大丈夫…」


「ありがとうございます、煉さん!いえ、煉の兄貴!!!」


「誰が兄貴だ!?」


いつの間にかランクアップしてることにツッコンでおく。とりあえず静音はゆっくりと地面に下ろしておいた。


「じゃあな。お転婆もほどほどにしとけよ」


煉はそう言うとその場から去っていった。


「「「あざーした!!煉の兄貴!!」」」


「だから兄貴になった覚えはねえ!!」


今度こそ去っていった煉。その背中を見ていた静音の様子がおかしいことに虎鉄が気付いた。


「姉さん?どうかしたんですか?」


「赤堂、煉……か……ふふ…」


静音は顔を赤くしながら煉の名前を呟いた。


「あ、姉、さん……?」


虎鉄は静音の様子を見て、絶句していた。

次回、いよいよ出発♪

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