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●双角の魔竜●

シヴァに引き続き強敵出現!どうなる平和な学園生活!?

「ぐっ……つぅ…」


どこからか射し込んだ光が瞼を照らし、それと同時に煉は目を覚ました。

視界には真っ白な天上。どうやらベッドの上らしい。首を回すとすぐ隣に多くの機材が置かれていた。

煉は、3年前も同じような体験をしたなと、自虐的に呟いた。上半身をお越し、目の前の鏡で自分の姿を確認する。全身を包帯で巻かれている。いたる箇所に傷があった。

煉は、目を覚ます前の記憶を思い出していた。

まだ、勝てなかった。

また、大事な人を傷つけてしまった。あの時誓ったはずなのに。結局、俺は…


「まだ、弱いままだ…」


込み上げる悔しさを拳に乗せて、ベッドを殴り付けた。鈍い金属音と共にベッドが軋む。


「……あいつ等は、大丈夫かな?」


煉はベッドを降りて、病室から出る。歩く度に全身が痛む。しかし、皆のことを確認しないと、落ち着かないのだ。長い廊下を歩き、ようやく1つの病室に到着した。

【集中治療室・(ライズ・ブルーム。海上十蔵。ウェド・エルトゥーガ。】

煉は扉に手を懸けて静かに開いた。中には3つのベッドが置かれており、そのベッドの上で、ライズ達は普通に話していた。


「あ、煉!!良かった、起きたんだな」


「体はもう大丈夫でござるか?」


「良かったよ。あれから3日経つのに、煉だけが起きなかったから」


「お前等は、大丈夫なのか?」


煉は案外元気そうなライズ達に聞いた。


「うん。治療は退屈だったけど、何とかね」


「あとは、軽いリハビリがある程度でござる」


「だから、心配はいらないよ」


「そっか。良かった。リオと美紀は?」


「リオちゃんと美紀ちゃんは、もう起きて今リハビリ中だよ」


ライズが煉の疑問に答えた。起きてると聞いて少し安心した。


「わかった。サンキュ。

俺はちょいとばあさんの所に行くわ」


「わかった。じゃ、またあとで」


「おう」


そう言って部屋を後にした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ばあさん、いるか?」


煉はノックせずに理事長室に入室した。すると、煉の正面、上、左右から何かが飛んできた。


「…!」


一瞬反応が遅れて、上から来る物を避けきれずに頭へ直撃してしまう。

痛さに頭を抱えてうずくまる。


「痛ぇ……」


「まだ完治してないのに、ここで何してるの?」


声と共に、シンディが姿を現した。表情がいつもゆり険しいのは気のせいだろうか。


「話があるからだよ」


「そう。まあ、あたしもあんたに話があったから。ちょうどいいわ」


シンディはそう言って煉に近付き、


パンッ!


頬を叩いた。一瞬何が起こったかわからなかった。

後になって痛みが頬を熱くする。


「……何すんだよ…?」


「あんた、<バーサーク>を使ったらしいわね?」


「……まあな」


「あんた、あたしが3年前に教えたこと、忘れたわけなの?」


3年前という言葉が煉の胸を刺した。


「憎しみのままにエレメントを使えば、どうなるかわかってるはずよ…?」


「わかってるよ……ただ、あの時はああでもしねぇと、あいつ等が死んでたかもしれねぇんだよ…」


「……あんたの気持ちはわかる。その憎しみも、全部を否定するわけじゃない。でも、あんたが死んだら、元も子も無いのよ!?」


シンディの語尾に力がこもる。微かに声が震えてるのもわかった。


「それでも……」


煉は静かに口を開く。


「それでも俺は、嫌なんだよ。目の前で誰かが死ぬのを見るのは…」


「………」


「怖いんだよ……誰かをまた失うのは…」


「………もう、無理はしないでね。あんたまで、あたしも失いたくないから」


「……ああ」


煉は静かに頷いた。すると、それを見計らったように1人の騎士が理事長室に飛び込んできた。仮面をしていてもその息の粗さがわかるほどだ。


「ほ、報告します!!エレメント学園から北に約3kmの地点に、正体不明の生命体の反応が確認されました!!」


「正体不明の生命体?」


「ここ、これを見てください!!」


騎士は右手にはめている、万能通信端末、コールブレスのモニターの画面を理事長室の壁に投影した。

写された映像は、どこかの荒れ地のようだった。

その荒れ地の中心には、1つの黒い影。遠いせいか画質が荒い。


「拡大できるかしら?」


「はい」


コールブレスをいじくると、映像が拡大された。

そして、黒い影の正体がやっと鮮明に確認できた。

体長は約10メートル。漆黒の鱗を全身を持つ、二足歩行の巨大な竜。その頭には一対の角が生えている。


「嘘でしょ……これは」


「魔竜種か……」


震える声で煉が呟いた。

魔竜種とは竜の一種だ。

普通の竜とは違い知能がまるで無い。しかし力は普通の竜を遥かに凌駕する。

気性が非常に荒く、たった1体で国1つを滅ぼすほど。今回現れた魔竜は双角が特徴の“双角魔竜(ディアブルス)”と呼ばれるものだ。気性の荒らさは魔竜の中でも上位だ。


「どうしてあんな化け物が…?」


「わからないわ。魔竜なんて、滅多に現れるわけないし……この魔竜がここまで来た経路はわかるかしら?」


シンディが騎士へと質問する。


「それが、魔竜は移動してきて無いのですよ」


「…?どう言うこと?」


「この魔竜は、何かしらの方法でエレメント学園に召喚されたんです」


「召喚……?」


「ばあさん、こいつの召喚された理由わかった」


煉が唐突に口を開いた。


「大方、シヴァの野郎の仕業だろ。それ以外考えがつかねぇ」


「根拠は…?」


「俺の勘だ」


なるほど、とシンディも納得した様子で頷いた。


「た、大変です!!」

突然騎士が大声を上げて震え出した。


「魔竜が、エレメント学園に……こちらへと向かってきてます!!」


「何だと……!?」


「到達時間は?」


「約……1時間後にエレメント学園に到達する計算です!!」


シンディは苦々しく表情を歪め、コールブレスから全校生徒へ放送を流した。

内容は当然避難勧告。

生徒教員関係無しにエレメント学園の体育館へと避難させるためだ。魔竜の撃退は学園内の手練れを差し向けておくと言うのがシンディの考えだ。


「ばあさん、魔竜の撃退は俺が行く」


しかし、その考えを覆すように煉が言った。当然、シンディは猛反対する。


「駄目に決まってるでしょ!!ただでさえシヴァとの戦いの怪我が完治してないのに。今行くようならただの犬死になるだけよ!?」


「悪いけど、ばあさんが用意する手練れよりかは働けると思う。それに、怪我を完治させるなら簡単だ」


「…どうするつもり?」


「ばあさんのエレメントで、俺の体の時間を巻き戻せばいいんだよ」


「…!!あんた…」


つまり煉の言葉の意味は、シンディのエレメント。

タイムエレメント(時属性)の力を使って、自分の体が怪我する前に巻き戻そうと言う考えだ。

しかしシンディは有無を言わさずに反対した。


「馬鹿!!確かに出来ないことは無いけど、巻き戻したとしても、あんたの怪我が消えるわけじゃ無いの!!そんな状態で魔竜から一撃くらえば、今までの怪我に更に上乗せでダメージがくるの。時間を戻せば、あんたの体は砕け散ってもおかしくないのよ!?」


そう。この方法はリスクが高すぎるのだ。今の怪我を一時的に完治させ、魔竜と戦う。しかし、時間を戻せば今までの怪我が一斉に体へ戻り、更に新しくくらったダメージがまた体へ刻まれる。つまり、確実に死ぬのである。


「危険すぎる……悪いけど、許可は出来ないわ」


「そうか……じゃあいいや…」


煉はそう言うと部屋を出ていこうと扉の取っ手に手を掛けた。


「どこに行く気…?」


「治してもらえないをなら、このままで行く。時間稼ぎくらいなら出来る」


「何言ってるの!?」


「悪いけど、止めても行くぜ?どのみち、時間がもう無い」


煉の言う通り、すでに30分経過していた。到達予想時間はあと30分。


「じゃ、行くぜ」


「煉、こっち向いて」


シンディの呼び掛けに煉が振り返る。


「<リバース>(逆再生)」


するとシンディが煉の胸に手を当て、エレメントを発動させた。タイムエレメントの力により、煉の体の傷が、全て戻っていく。

やがて煉は、元の健康そのものの体へと戻った。


「絶対に……生きて帰ってきなさい…」


「安心しろ。俺は約束は、絶対に守る」


決意を込めた言葉と共に、煉は部屋を飛び出した。煉が出ていった扉をしばらく眺めていると、再び1人の騎士が理事長室に飛び込んできた。


「た、大変です!!」


「今度はどうしたの?」


「今、集中治療室から、

リオ・ハーマス含む6名が脱走しました!」


報告を聞いたシンディは額に手を当て天を仰いだ。

おそらく煉のことを追ったのだろう。


「わかったわ。報告御苦労様」


「はっ!!」


騎士が踵を返して理事長室から出ていった。


「無事に帰ってきなさいよ、皆…」


祈るように、シンディは手をくんで呟いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


理事長室を出た後、煉はポケットから笛を取り出した。十字の中心に赤い宝石が埋め込まれた造りだ。

それに息を吹き込んで、煉は自分の契約獣を呼び出した。笛の音に呼ばれて現れたのは、純白の体に炎の鬣を生やし、ルビーのような赤い角を持つ一角獣だ。

一角炎獣バーンズ。この契約獣の名前だ。


「『よう煉。久しぶりじゃあねぇか』」


「ああ、だが悪いな。久しぶりの挨拶は後にしなきゃならねぇ」


「『そうとう、厄介な事態か?』」


「正解。急いで北の方に運んでくれ。魔竜がこっちに来てる」


「『まじか!?わかった、超特急で行くぜ!』」


「頼む!」


煉を乗せたバーンズは一気に加速し、地上から空を駆け始めた。なお加速する姿はまるで炎の流星。

煉とバーンズがいなくなった後、5人の男女がどこからか現れた。


「北に魔竜がいるってことね?」


「今の話では間違いないよ」


「久々に強敵とやりあえるでござる」


「それより、抜け出した後が怖いんだけど…」


「やってしまってからでは遅いですよ」


当然ながら、リオ達だ。


「そうよ。どうせ今戻ろうと後に戻ろうと怒られるのは一緒なんだから」


「こんな一大事にじっとしてられないし」


「なにより、煉殿に助太刀せねばなるまい」


「だよね」


「じゃあ急ぎましょう」


リオ達もまた、契約獣を呼び出し煉の跡を追った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「じゃ、サンキュな。バーンズ」


「『おう。しかし、手伝わなくていいか?』」


「心配無用だ」


「『そうか。死ぬんじゃねえぞ!!』」


「ああ」


魔竜に気付かれないギリギリの位置で、バーンズを戻した。距離はおよそ100メートル。煉は体を十分に解して魔竜へと歩き始める。すると後ろから、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ちょっ!?あれが魔竜なの!?」


「いやー、でっけー!!」


「相手にとって不足無しでござる!!」


「しっかしいざ近くで見るとビビっちゃうね…!」


「とりあえず頑張りましょう!!」


契約獣にまたがったリオ達が向かってきていた。


「何やってんだお前らはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


予想だにしない乱入者に煉は魔竜がいることを忘れてシャウトした。


「おーい煉!加勢にきたよー!」


ライズは煉に向かって呑気に手を振っていた。


「おーい!じゃねえよ!?

お前ら怪我はどうした。まだ入院中だろ!?」


「うん。だから脱走しました!!」


自慢気にgooポーズを決めるライズに煉が怒濤のツッコミを叩き込む。


「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「まあまあ。もう来ちゃったからさ?なぁ、ブリッツ?」


反省の色を見せず、自分の契約獣である金色の牛に同意を求めていた。


「…お前の契約獣か?」


「そだよー。“雷獣のブリッツ”。俺の相棒」


ブリッツと呼ばれた牛が丁寧に頭を下げた。

ライズの契約獣紹介に便乗して、他の4人も紹介を始めた。騒がしくしているが、魔竜はまだ感付いていないようだ。


「この子は、“風獣のウィン”。あたしのパートナーよ」


リオの契約獣は薄緑のペガサスだった。翼を広げるとかなりのサイズがある。


「こっちは拙者の契約獣、“水獣のアグル”でござる」


十蔵の契約獣は青い体と鋭い牙を持つ肉食魚だ。


「こいつは僕のバディ、

“氷獣のヴァイア”。かっこいいでしょ?」


ウェドの紹介で前に出たのは、白銀の毛並みを持つ(いぬ)であった。


「この子は、“土獣のスクリュー”。ちょっとシャイですけど…」


美紀の声で現れたのは、両手に鋭い爪を持ち合わせたモグラだった。


「……全員個性的だな……」


煉は素直な意見を口にした。その後、全員契約獣を戻し、臨戦態勢へと移行した。目の前の魔竜へと視線を移す。


「本当に、大丈夫なんだな?お前ら」


「大丈夫だって言ってるでしょ?」


「少しは信用してよ」


「信じてくれでござる」


「これでも選抜クラスなんだからさ」


「勝ちましょう、絶対」


リオ達の覚悟を聞いた煉は息を吐いて、言った。


「行くぞ、皆!!」


煉の合図を口火に全員、魔竜へと突っ込んだ。双角魔竜は煉達の存在に気付いたらしく、頭をこちらへと向けて煉達を確認した。すると双角魔竜は周囲の空気を吸い込み、巨大な咆哮で大気を震わせた。


「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


あまりの音量に煉達は耳を塞いでその場に膝を着いた。頭が割れるような振動が容赦無く襲い掛かる。

双角魔竜は動けなくなっている煉達へと、双角を向けて突進してきた。脚で大地をとらえるたびに大地が抉れていく。とんでもない威圧感を纏い、煉達にまっすぐ向かってくる。


「ちっ……なめんじゃねえぞこらぁぁぁっ!!」


突進してくる双角魔竜の双角を、煉は両手で掴んで受け止めた。しかし突進の勢いは衰えず、煉を持ったまま走り続けていた。


「くそっ……!らぁっ!」


煉は両肘から炎を噴射して、双角魔竜の突進力を相殺した。押すことも、押されることも無くなり均衡を保っていたが、双角魔竜が突然頭を下げた。


「何……!?」


それと同時に力の方向をずらされた煉が体制を崩した。双角魔竜はそれを狙い、今度は勢い良く頭を振り上げた。煉の体は軽く空へと投げ出された。空中では身動きが取れない。次の案を考える前に、双角魔竜が振り抜いた尻尾が煉の脇腹に直撃した。


「ぐぅっ!!」


尻尾の一撃で煉の体は吹き飛ばされた。周囲にある岩をいくつも貫通して5個目の岩にめり込んで止まった。口からは大量の血を吐いてることから内臓を損傷したのだろう。


「この野郎っ!!」


「潰すでござる!!」


完全にぶちギレたライズと十蔵が双角魔竜に向かってダッシュした。リオはそれを見た後すぐに指示を出した。


「ライズ!十蔵!なるべく時間を稼いで!!」


「言われずとも!!」


「承知したぁ!!」


「ウェド!あんたもライズ達の方に行って!」


「オーケー!!」


「美紀!あんたは煉をお願い。岩から救出しておいて!!」


「わかりました!!」


全員に指示を出し終えたリオは、双角魔竜の下へと走った。


「<落雷脚>!!」


「<斬雨>(きりさめ)!!」


「<氷仙花>」


ライズの雷を纏った踵落としが双角魔竜の眉間に直撃し、十蔵が空へ打ち上げた水が刃の雨となって双角魔竜に降り注ぎ、ウェドが作り上げた氷の刺が双角魔竜を真下から貫いた。


「ギオオオオォッ!!」


怒りのせいか、それとも痛みのせいか。双角魔竜は悲鳴を上げる。


「あんたらぁ!時間稼ぎ出来た!?」


リオが後ろから超足ダッシュでやってきた。


「もちろん!!」


「問題ないでござる!!」


「いつでもいーよ!!」


「よし!!あたしに合わせなさいよ!!」


言い終わると同時にリオが双角魔竜に向けて巨大な旋風を放った。その旋風に、ライズの雷、十蔵の水、ウェドの氷がミックスされた。


「<暴風雨>(すとーむ)!!!」荒れ狂う竜巻が双角魔竜の顔面に直撃した。風刃、雷、激流、吹雪が一斉に叩き込まれ、双角魔竜は仰け反った。リオ達は威力を落とすことなく<暴風雨>を放ち続けている。やがて力負けした双角魔竜は弾き飛ばされ背中から地面に落下した。


「どんなもんよ!!」


「俺達もやるよねぇ?」


「ライズ殿、油断は禁物でござる」


「十蔵の言う通りかもよ、皆…」


ウェドの言葉と共に、怒り狂った双角魔竜が立ち上がった。


「ゴアァァァァッ!!!」


先程と比にならない咆哮でリオ達の動きを封じた。

双角魔竜は巨体からは想像できないスピードで、目の前にいたライズを殴り飛ばした。


「ライズ殿!!…ぐぅ!?」


突然の出来事に反応出来ず、十蔵も同じく殴り飛ばされた。


「この野郎……!!」


ウェドが双角魔竜の足下を氷結させて動きを封じたが、簡単に砕かれた。

拘束を解いた双角魔竜は右脚を後ろに振り上げ、ウェドに向けて振り抜いた。


「がっ……はっ……!!」


咄嗟に氷壁を作り出して防御するが、双角魔竜の前には意味を持たず砕かれ、ウェドの体は後方へと飛ばされた。


「あんた達!!………うあぁぁぁっ!!」


リオは体に風を纏って双角魔竜に突進した。体に纏わせた風が刃となり、双角魔竜の表皮を切り裂く。しかし致命傷には至らない。

双角魔竜は腕を振り抜き、その際に発生させた暴風でリオを吹き飛ばした。

たった数分で、4人が戦闘不能になってしまった。

地面に倒れた状態で双角魔竜を睨み付ける。しかし、双角魔竜は構わずリオ達へと歩を進めた。

全員が死を覚悟した。

だが、それは突然現れた、2体の影によって阻止された。どちらも双角魔竜と同じくらいの大きさだ。

1体は巨大な斧を携えた筋骨隆々の人間の体に、牛の頭を持った、俗に言う牛頭(ごず)だ。

もう1体は、巨大な槍を携えた同じく筋骨隆々の人間の体に、馬の頭を持った、俗に言う馬頭(めず)だ。

この2体が双角魔竜の体を抑えていた。


「皆!!大丈夫ですか!?」


そしてリオ達の後ろから、美紀が走ってきた。


「美紀、煉は…?」


「ごめんなさい。皆が危なかったから、こっちに来ちゃいました…」


「ううん、いいの。ありがとう」


「はい。ここは任せて下さい!!お願い牛頭!馬頭!」


美紀の指示で2体が動き始めた。


「相変わらず凄いねぇ……美紀ちゃんの力は…」


ライズが感嘆の声を漏らす。美紀が契約しているのは、ランドエレメント。

土属性である。基本的な能力は土を意のままに操る力だ。攻守で言えば、守の方になる。しかし美紀は独学で土属性を学び、繊細なコントロールによって新しい力を発見したのだ。


「<土傀儡・牛頭馬頭>」


大地に形を与えて人形として操る力だ。エレメント学園内では、エレメントコントロールに関して美紀に勝てる人間はいない。指示を受けた牛頭と馬頭はそれぞれの武器で双角魔竜に襲い掛かった。

牛頭は斧で体を切り裂き、馬頭は槍で体を貫いた。

サイズと質量が大きいおかげで双角魔竜の体に中々のダメージを蓄積することが出来た。


「止めです!!行け!!」


美紀の指示で、牛頭は斧を高く振り上げ、馬頭は槍を構えて体勢を低くした。

そして、双角魔竜に向けて武器を一気に放った。

しかし、それぞれの武器は双角魔竜に当たる寸前で動きを止めた。


「…!?どうして……コントロールがきかない…!」


美紀が動かそうとするが、牛頭と馬頭はピクリとも動かない。やがて双角魔竜は、その双角で牛頭と馬頭の体を貫き、破壊した。土傀儡は形を失いただの土となって大地に降り注いだ。


「そんな……何で…」


呆然とする美紀に、双角魔竜は巨大な顎を開く。

口の中には鋭く光る無数の牙があった。目前に迫る牙に恐怖した美紀はその場に立ち竦んでいた。


「美紀!!逃げて!!」


リオが必死に叫ぶが、美紀は動かない。いや、動けなかった。あと数十センチの距離感。息がかかる距離はもう逃げても無駄だ。

美紀は固く目を閉じた。

その時、大声と共に誰かが突っ込んでくるのがわかった。


「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


目を開くと、炎を纏わせた蹴りを双角魔竜の顎に叩き込んだ煉の姿が写った。

もろに蹴りをくらった双角魔竜は牙を数本へし折られていた。顎に衝撃を受けたせいか、足下がふらついていた。脳震盪でも起こしているのだろう。

煉は肩で息をしながら双角魔竜に鋭い視線を向けていた。先程尻尾の一撃をくらった脇腹は痛々しく出血していた。呼吸をするたびに煉が苦痛に表情を歪めているのがわかる。


「……大丈夫か、お前ら……?」


「あんたが……大丈夫なの?」


「問題ねえよ……」


強がりを言っても傷は治らない。脇腹への一撃で骨折、内臓破裂、筋繊維断裂が起こっていた。この満身創痍で双角魔竜に蹴りを叩き込めたのは、最早気合いである。


「(ばあさんの<リバース>が切れかけてやがる…早々にケリつけねえと…)」


「煉殿、大丈夫でござるか?」


「え……あ、ああ大丈夫だ。さっさと片付ける………ん?」


煉が双角魔竜に視線を移すと、双角魔竜が目を閉じていたのだ。別に寝ているわけでは無い。むしろ寝てるのならどれだけありがたいか。煉は双角魔竜が目を閉じているのを見て、すぐにリオ達に叫んだ。


「お前ら!!あの野郎の目を見るな!!!」


しかし遅かった。リオ達は反応が遅れて、双角魔竜の開かれた目を直視してしまった。


「あれ……」


「何だよ…これ…」


「くっ……体が…!」


「動かない……」


「どうして……」


リオ達の体の自由が奪われたのだ。動くことが出来ない。その場に縫い付けられたようになってしまったのだ。


「ちっ…!目を見ちまったか…!!」


「煉……これって、どうなってんのよ?」


「魔竜種が持つ固有能力。<威圧の竜眼>だ。その目を見た者の自由を無条件に剥奪する」


「どういうことでござるか!?」


「ようするにあの野郎の目を見たら動けないってわけだ」


煉の説明に、リオ達の顔が一気に青ざめた。


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」」」


5人の絶叫が荒野に響き渡る。

次回、力だけでは無い何か…

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