●抑えられない怒り●
今回は煉以外の人の戦闘がメインになってます
大聖堂の天上。今まで気付かなかったが、外ではかなりの雨が降っていた。
分厚い雲から降り注ぎ、時折雷鳴も聞こえる。
そんな悪天候も意に介さず、煉は謎の男を睨み付けていた。
「いくぞ」
煉は天上を駆けて謎の男との距離を詰め、駆けた勢いを乗せた蹴りを土手っ腹に叩き込んだ。鈍い衝撃と共に謎の男の体が後方へ吹き飛び壁に叩き付けられる。そこに間髪入れずに接近した煉が炎を纏わせた拳で顔面を殴り飛ばした。
壁に埋まった状態で殴られた謎の男の体は壁を砕いて更に飛ばされ天上の床に落下する。謎の男は痛みに耐え起き上がろうとするが、謎の男の真上に跳んでいた煉が急降下し、鳩尾にニードロップを決める。
大聖堂の天上が蜘蛛の巣状にひび割れた。同時に謎の男の口から赤黒い血が吐き出された。
「どうだ?少しは吐く気になったか?」
煉は純粋な殺意に染まった真紅の瞳で謎の男を見る。全身はボロボロで正に満身創痍だった。
「この程度で吐くと思っているのか?甘いなぁ小僧。甘すぎる」
「そうかよ。じゃあ…」
煉は謎の男の返事を聞くと、膨大な炎を辺りに発生させた。
「半殺しにしてやるよ」
その膨大な炎を、煉は自身の右腕に集中させる。
今までのようにただ纏わせるのでは無い。エレメントを腕に溜め込むのだ。
どんどんと右腕に吸い込まれていく炎。それに伴い、煉の右腕が光輝いていくのだ。例えるのなら、炉で熱した鋼の如き輝きと熱。
全ての炎を溜め込んだ煉の右腕は、炎そのものとなっているようだった。
触れるもの全て焼き尽くす炎の腕。謎の男は煉の姿に戦慄を覚えていた。
「俺は、兄貴に1度しか修行をつけてもらえなかったんだよ」
「……は?」
「俺が使ってる技のほとんどは兄貴のパクリだし、その他は我流で作った未完成の技さ」
謎の男は煉の語りを黙って聞いていた。
「そして、これからてめぇに叩き込む技は、そのたった1度の修行で唯一教えてもらった技だ。覚悟して、受けやがれ!!」
炎と化した右腕を、煉は謎の男向けて放った。
「<火紅鎚>(かぐつち)!!!」
瞬間、巨大な爆発が辺り一帯の空気を震撼させた。
ダイナマイト数百本を爆発させたような爆音と爆圧は大聖堂を中心に広がっていく。その際に発生した衝撃波は建造物を軋ませるほどの威力であった。
<火紅鎚>という技の説明は簡単である。ただの打撃だ。体の一部に自身がコントロール出来る範囲のエレメントを溜め込み、相手にぶつける瞬間に解放するだけの至ってシンプルな技。
それ故に、膨大な破壊力が生まれるのだ。まともにくらわなくとも、かすりでもすれば重傷はもちろん。
下手すれば死ぬ。謎の男は煉の<火紅鎚>をまともにその身にくらった。原形どころか、欠片さえ残っていないだろう。しかし、煉は半殺しにすると言った。つまり威力をセーブしたのだ。謎の男は辛うじて生きているようだった。右腕と左足は消し飛んでいる。全身には大火傷を負い、とても戦える状態では無い。
「さあ、吐いてもらおうか。兄貴を起こすにはどうすればいい?」
「ククク……いいだろう。教えてやる……兄に会える方法。それは…」
謎の男はそこで言葉を切り、次の瞬間、歪な笑いを浮かべて言った。
「貴様があの世で待っていればいいのさ」
「何言って………っ!!」
煉の言葉が切れる。突然激痛が体を襲ったのだ。苦痛に顔を歪めた煉は自分の胸から生えている、黒い槍を見て絶句した。ちょうど右胸を貫いている。呼吸が辛い。口の中に血の味が広がる。煉は首を動かし、自分の後ろを睨み付けた。
そこには、さっきまで瀕死の重傷を負っていたはずの謎の男がおり、右手に握っている槍で煉を貫いていた。いつの間にか煉の前にいた謎の男は消えている。
「どういう…ことだ…」
「貴様はずっと、私の生み出した人形と戦っていただけさ」
「人形……だと…」
「<ゴーレム>と言ってな、自分のエレメントを限り無く自分に似せた人形さ。まあ、戦闘力はかなり落ちるがな。貴様には十分であったろう」
「じゃあ…てめぇが…」
「そう言えば名乗っていなかったか。ククク、冥土の土産に教えよう。
私はシヴァ。シヴァ・アゼル。暗き絶望、ダークエレメントを宿す者だ」
「ちっ…痛ぇなぁ…ちきしょうが……」
「避けるから余計に苦痛が続く。まあ、咄嗟に心臓から避けたその反応は誉めておこう。さっさとあの世で兄を待つがいいさ」
シヴァが槍に力を込めようとした瞬間、2つの影が猛然とシヴァに突っ込んできた。1人は頭にヘアバンドを装着した金髪の男。
もう1人は後ろで青髪を束ねた男。ライズと十蔵であった。2人はそれぞれのエレメントを纏わせた腕をシヴァ目掛けて振るった。
「<雷纏撃>!!」
「<激流斬>!!」
雷の打撃と水の斬撃がシヴァの顔面に叩き込まれる。完全に決まったが、そこには全く無傷のシヴァが変わり無く立っていた。
「邪魔だ餓鬼共」
「うっせぇよ!!」
「煉殿を離さぬか外道が!!」
ライズがシヴァの左腕を。十蔵が右腕を拘束する。
「リオちゃん頼む!!」
ライズが叫ぶとどこからともなく現れたリオが風を纏った右脚を振り抜き、煉を貫いている槍を切り裂いた。煉の体を抱き抱えて一気に後退する。同時にライズと十蔵もリオの元へと移動した。
「面倒な餓鬼……ん?」
シヴァはリオ達の元へと歩こうとするが、脚が動かなかった。見れば、右脚は氷付けに。左脚は土で作られた鎖で拘束されていた。
「動くなよ?」
「それ以上動くなら更にキツく縛り上げますよ?」
ウェドと美紀が怒りの表情で言い放つ。
「ふん。風に雷、水、氷、土か。そこらの雑魚よりかは腕が立つようだな?」
シヴァが品定めするような目付きでリオ達を一瞥する。
「黙れよクソ野郎。こっちは尋常じゃ無いくらいに怒ってんだよ」
「煉殿に加え多勢の者を傷付けた貴様は、ここで潰すでござる」
「友達がここまでやられて黙ってられるほど、腐っちゃいないからね」
「あたち達に手を出したことを、後悔させてあげますよ」
「皆、行くわよ!!」
リオの合図で全員が一斉に散会する。ライズは真正面、十蔵は背後。ウェドは左、美紀は右。リオは真上に跳躍した。
「<雷鳴砲>!!」
「<激流波>!!」
まずライズと十蔵が放った雷と水の砲撃がシヴァ真正面と背後を襲う。高圧電流で焦がされ、高圧水流で体を貫かれる。更に水流に電流が感電し放電を引き起こした。けたたましい爆発音が大気を振るわせる。
「<氷裂爪>!!」
「<土隆衝>!!」
間髪入れず左右のウェドと美紀が追撃に入る。
氷で作った爪でシヴァを切り裂き、大地を突き上げ発生させた衝撃波を撃ち放つ。
「<風魔断刃>!!!」
止めと言わんばかりに空にいたリオが急降下し、風のギロチンと化した踵落としをシヴァの頭蓋に叩き込んだ。鈍い衝突音と骨の砕け散る音がした。同時に呻き声が聞こえる。
「うっ……あ…!?」
「リオちゃん!!」
呻き声を上げたのはリオの方だ。脚を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。
脚の患部は紫に変色しており痛々しいうえこの上無かった。
「小賢しい。貴様等餓鬼が何匹来ようと、私には傷1つつかん」
シヴァの衣服はボロキレになっているが、体本体はまるで無傷だ。
「時間の無駄だな…」
シヴァは短く言った瞬間、右腕に闇を集め始めた。
漆黒の粒子が右腕に巻き付き、巨大な塊となる。
「<夜鴕鴉>(やたがらす)!!」
闇の塊を空へと打ち上げる。すると闇の塊は、3本の鉤爪を持った巨大な黒鳥となった。
「くたばれ」
シヴァの言葉と共に、黒鳥がリオ達へと急降下する。避ける間も無い。くらう覚悟を決め強く目を瞑る。
瞬間、大聖堂を中心に巨大な爆発が起こった。
「ぐ………痛」
爆発の衝撃波のショックで目が覚めたのは煉だった。胸にはまだ槍の残骸が突き刺さっている。
「どうなったんだ……」
煉は周りを見る。辺り一帯には瓦礫の山がいくつも形成されていた。
その中で煉の目に、倒れているリオ達の姿が写った。皆ボロボロで、意識も失っているようだった。
そのリオ達の前には、シヴァの姿が。シヴァは1番近くのリオの首を掴んで持ち上げた。
「まだ生きてるのか?弱いうえにしぶといとは、哀れな存在だなぁ?」
「リオ……!」
煉は立ち上がろうとするが、激痛がそれを許さない。動くことさえ出来ずその場に崩れ落ちる。
「ほう、目が覚めたか。赤堂煉。そこで見ていろ。
貴様の目の前で、大事な友人が死に行く様をな」
シヴァはリオの首を掴んでいる手に力を込める。
同時にリオの顔が苦痛に歪む。
「やめろ……」
「結局貴様はあの時から変わらない。貴様から大事なものを奪う私を止めることすら出来ない」
「やめろ……!」
「この3年、貴様は何をした?何が変わった?
いや、何も変わっていない。あの時のままさ」
「やめろ……!!」
「貴様は所詮何も守れないのだよ!!」
「やめろっつってんだろうがぁぁぁぁぁ!!!!!」
煉の絶叫と共に現れた爆炎が体を包み込んだ。
その瞬間、煉の体に変化が起こった。
胸の傷が一気に治癒したのだ。穿たれた穴がまるで逆再生するように塞がった。更に、髪は夜叉のように長く生え変わり、瞳は何もない純粋な真紅。爪は獣のように鋭く尖った。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
爆音のような咆哮を放った煉は一瞬で移動し、シヴァの手からリオを奪い取った。リオの体を地面に降ろしシヴァに向き直る。
「ぶっ殺す」
怒りと怨念を込めた瞳でシヴァを睨み付けた。
次回、暴走した煉の力




