●現れた災厄●
現在に話が戻ります
エレメント学園大聖堂。
この施設は、全校集会や何かの集まり事の際に人を集める場所である。簡単に外見を表すなら、ノートラダムの教会を思い浮かべてくれればいいだろう。
その大聖堂に今回、エレメント学園の第2学年が集まっていた。煉の所属する選抜クラスの他に一般クラス合わせて全5クラスの生徒が集合している。
理由は、今度ある【異世界修学旅行】についてだ。
【異世界修学旅行】とは文字通り、アスタニア界以外の世界。つまり地球界に皆で行こうというやつだ。
今日はそれの行き先発表と注意事項についてだ。
前方のステージでシンディが話すらしい。ステージから正面に座っている煉が盛大に欠伸をしていた。
「ふあぁ~あ」
「どったの煉?夜更かしでもしたのか」
右に座っているライズが聞いてくる。
「まあ寝不足っちゃあ寝不足だな…」
あの男が近くにいる。
それを考えただけで、煉の体には緊張と殺気が混じったような雰囲気が漂っているのだ。寝ようと思ってもまるで寝れずに、結局徹夜してしまった。
「大丈夫でござるか煉殿?何か悩みでも?」
今度は左に座っている十蔵が会話に参加する。
「ああ大丈夫だ。心配ねえよ。それより…」
煉は自分の後ろに視線を向ける。そこには、まだ集会が始まっていないのにもかかわらず、すでに夢の中へトリップしているリオがいた。鼻から膨らむ鼻提灯は呼吸に合わせて上下している。
「すでに爆睡してるこいつを起こした方がいいぞ」
「それは言えてる…」
「リオ殿は授業中9割は寝てるでござるからなぁ」
苦笑いを浮かべながらライズと十蔵がリオを見る。
見かねた煉がリオを起こそうとすると、リオの右にいたウェドが先に動いた。
気配を察知されないように顔をリオの耳に近付け、
一言。
「起きないと悪戯しちゃうよ、子猫ちゃん?」
色気をふんだんに纏わせた甘い声をリオの耳に吹き掛ける。
「「「きゃああああああああああ!!」」」
すると反応したのは回りの女子達だった。瞳をハートにして歓喜の悲鳴を上げる女子にウェドは笑顔を振り撒く。ウェドの特殊スキル、イケメンスマイル(煉命名)。効果、大抵の女子は落ちる。
「相変わらず女子に人気だなぁ、ウェド」
「そうかなぁ?」
「そうだろ。あとウェド……」
「ん?どうしたの」
煉が不意に言葉を切り、ウェドの背後に視線を向ける。
「戒名を用意した方がいいと思うぞ」
「戒名?何でまたそんなも……」
「これから必要になるからだけどねぇ」
冷たく、鋭利な刃物を思わせるその声に、ウェドは背骨が飛び出るくらいに背筋が伸びた。ぎこちない動きで首を後ろに回せば、あら不思議。鬼になったリオが仁王立ちしているよ。
「悪戯って、何するつもりだったのかなぁ?ねぇ、ウェド?」
「やややだなぁ!リオちゃん、そそそんな事するわけ無いじゃじゃじゃん!!」
「ふ~ん。で、あたしの耳に吹き掛けた気持ち悪い言葉は?」
「自分です!!」
嘘ついたら殺られる。リオの威圧に圧倒されたウェドは即答する。
「そう。じゃあ…」
リオは右手に風を纏わせ
「反省しなさい!!」
フルスイングのビンタをウェドの頬に叩き付けた。
ウェドの体はきりもみ状に回転しながら宙を舞い、やがて自分の座席に落下した。頬を赤く貼らして。
そんなやり取りを見ながら、リオの左に座っている美紀は、人知れずため息をついた。そんなこんなで時間を潰していると、注目を促す放送がスピーカーから流れてきた。
『まもなく集会を開始します。席についていない生徒は、速やかに席についてください』
スピーカーの声に従い、生徒が席についていく。
全員が座ると、ステージわきからシンディが現れた。それに伴い、数名の生徒が色めき立った。
まあ確かに、ビジュアルは良し。スタイル抜群。カリスマ性あり。更にはエレメントの達人。ここの生徒からしたら崇拝に値する人物だろう。ステージ中央についたシンディは、清んだ声で集会の開始を告げた。
「皆さん、おはようございます。もうわかってる人もいると思うけど、今日は【異世界修学旅行】についての話をします。ま、焦らしてもしょうがないから場所を先に発表します」
シンディの話のスピードに戸惑いつつも、生徒達は一斉に耳を傾ける。
「今年の【異世界修学旅行】の行き先は、日本国の沖縄県です!!」
日本国沖縄県。至極鉄板な行き先だが、ここの生徒からしたら狂喜乱舞するほどのものである。現に集会とか関係無しに騒ぎまくっている生徒多数。
「沖縄きたぁぁぁ!!」
「青い海!白い雲!広大な海でござる!」
「十蔵!大事な事を忘れてる!1番は水着でしょ!!」
「「同意!!」」
回復したウェドの意見にライズと十蔵が寸分狂わぬタイミングで賛同した。
それを汚物を見るような目で見ているリオ&美紀。
「でも、いいよねぇ。沖縄」
「うん。水着も買わなきゃいけないし」
「あれ、去年のは無いの?」
「いや、胸のサイズが」
「ああ…また大きくなったんだ…」
美紀は赤面して、リオは何故か白くなっていた。
美紀は元々ボリュームがあるが、リオは中々寂しい胸なため嫉妬していた。
「はいはい、盛り上がりもほどほどに。注意事項を説明するから、全員注目しなさ……」
そこでシンディの言葉が止まる。シンディ自身は、何やら険しい表情を浮かべて辺りを見回していた。
異変に気付き、生徒達がどよめき始める。
するとライズが、ステージ上の一点を見ながら呟いた。
「誰だ、あれ?」
「誰かいんのか?」
ライズの声に煉が即座に反応する。ただ事では無い気配のせいか、表情は真剣そのものだった。
「ほら、あそこ。ステージわきの」
「……確かに、何者だろうな」
煉が確認しようと動く前にステージ上に2人の騎士が現れ、シンディと謎の人物の間に立った。
銀に輝く西洋の鎧に身を包んだ騎士は、それぞれが握っている両手剣の切っ先を謎の人物へと向ける。
「何者だ貴様は!どうやってここに侵入した?」
「…………」
「答えろ!!侵入した目的は何だ?」
「…………」
謎の人物はまるで聞こえてないように騎士の質問を無視する。
「まあいい。尋問室で話を聞かせてもらおう」
騎士の1人が謎の人物へと近付き、その手に拘束具を掛けようとした瞬間、騎士の体が紙屑のように吹っ飛ばされた。大聖堂内の時間が止まる。騎士の体がやけにスローに見えた。そして騎士が床に叩き付けられた瞬間、大聖堂内が蜂の巣をつついたように大混乱になった。
「ぐっ……貴様ぁ!!」
吹っ飛ばされた騎士が痛みに耐えて立ち上がり、両手剣を握って謎の人物へと突進していく。しかし、騎士の体は謎の人物に到達する前に、まるで床に縫い付けられたように制止した。
意識はあるが体が動かない様子だった。
「何を……した…!」
謎の人物は答えず、騎士を指さし、聞き取れないほどの声で言った。
「…………死ね」
次の瞬間、騎士の心臓部分に穴が穿たれた。拳大の穴からは向こうの景色が見える。溢れ出す鮮血が床を濡らす。騎士は物言わず、床に倒れた。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
誰かの絶叫が口火となり、大聖堂内がパニックに陥る。我先にと扉へ向かい外へと逃げようとするが、扉が開かない。鍵はかかっていないのに、扉はピクリとも動く気配を見せない。
「どいてろ!!」
すると1人の生徒が自身のエレメントであろう、岩を纏わせた拳を扉へ叩き付ける。が、砕け散るどころかひび1つ入らない。
「結界か…?」
煉が声を低くして呻いたと同時にステージから悲鳴が響き渡る。見れば、謎の人物が、もう1人の騎士の前に立っていたのだ。
謎の人物の手には、先ほど殺した騎士の両手剣が握られていた。
「騎士よ……選択権をやろう」
「せ、選択権…?」
謎の人物はそう言い、残酷な言葉を告げる。
「心臓を抉られて死ぬか。剣でバラバラにされて死ぬか。その身が弾けて死ぬか。好きなものを選べ」
「そ、そんなの…選べるわけないだろ!!」
「ふむ。選ばないか。では……最も苦痛を伴う死を与えよう」
「最も苦痛を…伴う…」
「その身を、引きちぎろう。剣で切り裂きなどしないさ。私が引きちぎるのさ。足からどんどんと上にいく。どうだ、苦痛だろ」
表情を変えずに恐ろしい言葉を吐く謎の人物に騎士だけでなく、生徒達も戦慄する。
「さて、恨むなら、選択をしなかった過去の自分を恨むことだな」
謎の人物が騎士の足に手を掛けようとした瞬間、謎の人物の体が、席側からの飛来物に突然吹き飛ばされた。まともにくらった謎の人物はステージの壁に全身を強く打ち付け、そのまま床に落ちる。
「これ以上の好き勝手は許さねぇぞ、クソ野郎」
赤髪を靡かせ、真紅の瞳に強い怒りの色を浮かべた煉がそこにいた。
「そこの騎士さん。ばあさんを連れて離れてろ」
「え……」
「早くしろ!!死にたいのか!?」
「わ、わかった」
騎士は急いで立ち上がり、シンディと共に席側へと逃げる。誰もいなくなったステージ。煉は謎の人物へと質問を投げ掛ける。
「まず3つ聞く。1つ目、てめぇは誰だ?2つ目、どうやってここに侵入した?3つ目、目的は何だ?」
しかし謎の人物からは返事は返ってこない。未だ床に伏せており動きを見せようとしない。
「何とか言ったらどうだ?」
煉は謎の人物との距離を一気に詰め、拳を謎の人物の顔面へと振り抜く。
が、拳が砕いたのはステージの壁。謎の人物はそこにおらず、いつの間にか煉の真後ろに立っていた。
全身を漆黒のローブに包んだ人物。体格的には男であるとわかる。
煉は謎の人物の姿を見た瞬間、3年前の光景が蘇っていた。両親を殺し、兄を眠らせている男を。
似ている。煉は警戒を強めた。
「答えろ。てめぇは誰だ?」
「………」
謎の人物は答えず、不意打ちで煉に向かって突進してきた。
「なっ…!」
自分に向かって放たれる上段蹴りに対して煉も上段蹴りで対抗する。威力は互角。煉は脚を振り抜き謎の人物の体制を崩した後、謎の人物の顎を横から肘で撃ち抜いた。脳震盪を強制的に発生させ動きを止める。
ぐらついた隙を逃さず、謎の人物の胸へと掌を叩き付ける。
「<火爆掌>!!」
煉の掌から放たれた爆炎が謎の人物の全身を包み込んだ。火だるまになり床に転がる謎の人物。そのまま燃え尽きると思われたが、突然炎が消し飛ばされた。
謎の人物から強制的に引き剥がされたように炎が消滅したのだ。
「……マジかよ」
驚きを隠せない煉。それを見た謎の人物は狂ったような笑い声を発した。
「いい。これほどの奴がいるとは。来て正解のようだったなぁ」
同時に露になる謎の人物の顔を見て、煉は固まった。灰色の髪に紫の瞳を持つ男。重なった。あの時の男と。煉は興奮を抑えながら、男へ質問を投げ掛ける。
「おい、あんた…」
「何だ小僧?」
「赤堂爛。この名前に覚えはあるか?」
「ほう。何故貴様がその名を知っている?」
「知ってるんだな」
煉の体から陽炎が噴き上がる。
「知っているさ。何せ、私が倒したからな」
「そして同時に、俺の両親を殺した」
「……何?」
「兄貴も未だに眠ってる。てめぇの呪いのせいで」
「小僧…まさか貴様…」
「やっと思い出したか」
煉は殺意に染まった瞳で男を睨み付けた。
「俺は赤堂煉。3年前、てめぇから全てを奪われたあの時の小僧だよ!!」
煉の言葉に、生徒達にどよめきがはしった。
それも無理は無い。エレメント学園の伝説的存在。
赤堂爛の現状を知ったうえ、更にはその弟がここにいたとなれば騒ぎが起こってもおかしくないだろう。
「やっぱし俺の推測はビンゴだったわけね」
ライズが真剣な面持ちで呟いた。
「あんたの推測も当たるもんなのね…」
「まさか煉殿が赤堂先輩の弟だったとは…」
「それならあの強さも納得できるね」
「でも煉君、辛い過去を生きてきたんだね」
リオ、十蔵、ウェド、美紀がそれぞれの反応を見せるなか、ステージ上では、煉と男が対峙していた。
「小僧、かかってこないのか?」
「先に聞いておきたい。兄貴はどうやったら起きるかだ」
「ククク……それをすんなり吐くと思うのか?」
「思ってねぇよ。だから、徹底的に痛め付けて吐かせてやらぁ!!」
煉は男の胸ぐらを掴み、大聖堂の天上目掛けて投げ飛ばす。更に煉自身も跳躍し、下に掌を向ける。
「<火爆掌>!!」
掌から放たれた爆炎の推進力を生かし、男共々天上突き破って外へと出た。
男が大聖堂からでた瞬間、扉の結界が解け、生徒達が一斉に外へと避難した。
「ちょ…あんた何してんのよライズ!?」
見るとライズが煉を追おうと跳躍しかけているのをリオが止めていた。
「何って、煉を追うんだよ。何か嫌な予感するし」
「いやいや、扉が開いたんだから避難するよう指示あったでしょうが!!」
「聞いてないもん」
「聞きなさいよ!!」
「も~……あっ!!」
「えっ!?何々!?」
ライズが突然リオの後ろを指さして声を上げる。
それに反応してリオは後ろを見るが、何もない。
「ちょっとライズ!何もないじゃな……っていない!?」
リオが少し目を話した隙にライズが姿を消していた。しかも、十蔵、ウェド、美紀までもいなくなっていた。全員煉を追ったのだろう。
「あーもう!あたしもいってやるわよー!!」
リオも煉を追うように天上に開けられた穴へと跳躍した。
次回、煉にとって最大の危機!?




