2.今日の夕食はお前で決まりですわ!
「グギャオオオオオオオオオ」
目の前のワイバーンが、天を向いて咆哮する。
大気が震える。
「あの、ローザリンデお嬢様。食べられるのはワイバーンではなく、私たちだと思いますが……」
ローザリンデは、マリーに向かって親指をグッと立てた。
にこりとして、白い歯を見せる。
次の瞬間。
ローザリンデの姿が消えた。
土埃を立てながら、ローザリンデはまっすぐにワイバーンに向かって走っていく。
「お、お嬢様ーーーー!!!!!」
天を見ていたワイバーンの目が、大きく丸くなった。
ワイバーンがローザリンデの方を向き、口を大きく開く。
まるで、獲物が自分から口の中に入ってきてくれると言わんばかりの態度だ。
鋭い牙に蛇のように蠢く舌が見える。
マリーが「ヒッ」と悲鳴をあげている。
走り続けるローザリンデ。
ワイバーンがニヤリと目を細めた。
「ローザリンデ様! やめて! 逃げて!」
次の瞬間、ローザリンデが飛び上がった。
ワイバーンの口を越え、頭上までふわりと浮かぶ。
ワイバーンの目が、また大きく開いた。
瞳がローザリンデを追うので精一杯だ。
ローザリンデはニヤリと笑った。
そして拳を振り上げ握りしめた。
「おりゃああああですわああああああああ」
思いっきり振り下ろす。
ガツン!
金属が凹んだような音がする。
頭部の鱗がバキバキに割れている。
どん!
殴られた勢いでワイバーンの頭が勢いよく地面に叩きつけられ、轟音と共に土埃が立つ。
ふわりとドレスの裾が広がる中、ローザリンデはワイバーンの首の辺りに着地する。
マリーは口をぽかんと開けている。
ローザリンデは、ワイバーンの上でカーテシーをする。
そして顔を上げた。
獰猛な笑みが張り付いている。
「今日の夕食はお前で決まりですわ!」
そう言って、手刀を作ると、一気に首元に振り下ろした。
その日、死の森から一頭のワイバーンの命が消えた。
軽やかにワイバーンの遺体の背中から飛び降りて、地面に降り立つローザリンデ。
「お嬢様〜!!! 今回ばかりは無理だと思いましたよ!!!」
マリーが泣きながら、ローザリンデの元に駆け寄ってくる。
ローザリンデの傍には、首が胴体と離れたワイバーンの死体が横たわっている。
「くさっ!!」
マリーが、ローザリンデの手前でピタッと止まる。
鼻を手で摘み、もう片方の手を前に出して近づかないでと伝えてくる。
「ちょっと! 淑女に失礼じゃない?」
「やめて! お嬢様! 近づかないで! 血の匂いがひどい!」
マリーがくるりと後ろを向いて、逃げ出す。
「こら〜! 待て〜!」
ローザリンデはマリーを追いかけ始めた。
「あの、殺人犯にしか見えないです! 怖い! 臭い! 来ないで!」
「ガハハ! 待て〜!!」
「待ちません!!」
そうしてしばらく二人で、かけっこをしていた後。
マリーがぴたりと止まった。
「お嬢様!」
「つーかまえた!」
「あの、臭いので離れてください。それよりちょっと音を聞いてください」
「どうしたの?」
ローザリンデは首を傾げた。
「なんか人っぽい声が聞こえません?」
ローザリンデは耳を澄ませた。
広場のはるか先から、何かと戦っているような、怒声が聞こえてくる。
「どうします?」
「……まずは様子を見に行ってみましょう。私たちを追っている人間のようだったら、申し訳ないけど逃げましょう」
マリーが頷く。
「じゃあ、行くわよ!」
ローザリンデが駆け出した。




