第3話 撮影者と傍観者
「おじさん同盟作らない?」
ルクスは医務室で手当てを受けていると、突然声をかけられた。彼は確か...社交界のメンバーにいたようないないような。
他の人にも声をかけるから、とバタバタと部屋を出ていった。一体何だったのだろう。
医務室で休んでいるが、ルクスは、まだ調子が戻らなかった。何となく、まだ全身がだるい。
ルクスが、ぼーっとしていると、外からわあわあと人々の話声聞こえてきた。あれは、ファニー嬢だろうか。
医務室から出て、ベランダから外を遠くから眺めて見る。
ファニー嬢と他の数名が、動いて何か撮影をしているようだった。
ルクスは、またいつもの取材だろうと思った。
いつもの取材とは、貴族の屋敷に出入りして、その生活ぶりを番組として報道していることをいう。
ルクスに声はかからなかった。
こんな地味なおじさんに、世間は興味を示さない。人気があるのは、若いイケメンか美女なのだ。
というわけで、一度もそういった、華やかな社交界とは縁遠い生活をしていたわけだが。
遠くから見つめるのが慣れすぎて、すっかり傍観者になっていたから、襲撃の際に防御するのを忘れてしまっていた。
今度から気をつけよう、とルクスは思った。
□
「おじさん同盟のメンバーが集まったよ」
メールが来た。先ほどの謎の青年は、思ったよりも仕事が早かった。
ルクスは、メンバーを確認する。ハイツ氏、パトリック氏、ホームキン氏、後はレース氏か。結構、錚々たる面子が集まったらしい。
どうやら社交界に居場所がないのは、自分だけでは無かったらしい。
外では、わあわあと未だに撮影続いているらしい。遠くから、金属音やら、スタッフが掛け声をかけるやら、ずっと忙しいそうだ。
暑いのに、大変だな。なんて、涼しい医務室の中で考え事をする。ひんやりとした空気が、ルクスの傷を癒やしてくれた。この時間は貴重だ。
おじさん同盟か。
案外悪くないかもしれない。
社交界は、本当に仕事がないおじさんにとって退屈で仕方がない場所だ。
仕事がないのは、ずっと。前から、20年前から、ずっと。退屈過ぎて、忙しい貴族の手伝いに回されていたほどだった。
時間が溶けていく。何があっただろう、今まで。何も無かった。思い出すのが、ひとつふたつ。それぐらいだった。
他の、おじさん同盟の人たちも同じなのだろう。ルクスと。何もないんだ。
□
夏の日差しが地面を照りつけている。
暑い。やる気は全く無い。医務室で、今日の仕事はサボってしまおう。そう決めて、ルクスは、ベッドに横たわった。
そう、これは役目なんだ。
どうでもいい、おじさんたちがいるからこそイケメンが目立つ。そういう役目なんだ。
ルクスは、とにかく今は、泥のように眠りたかった。眠って、そのまま面倒な人間関係から逃げ出したかった。
医務室に扇風機の音が鳴り響いている。ルクスは何となく退屈に感じて携帯を確認すると、社交界メンバー限定で撮影の動画がシェアされていた。
ルクスは、少し退屈だったので、ライブ配信を見てみることにした。
「ほら、リオンは今回は...」
「ええ...」
何だろう。トラブルだろうか。
ファニー嬢のふて腐れた様子がライブ映像に流れていた。
「違うんだよ」
「......そんな、だって...。今までは」
「だからルクスがさ」
「わかったルクスがリオンのものを盗ったんでしょ」
何やら自分の噂話をしている。しかも、濡れ衣を着せられそうになっている。
さっぱり意味がわからないが、また面倒な事に巻き込まれそうだ。
「だって、嫌、私が、ダメだって言いたいの...!?」
ファニー嬢が明らかに動揺した場面でライブ配信が、プツリと切れた。
またトラブルか...。
ルクスは、気が遠くなる気がした。
□
「ちょっとルクス!」
あたりはすっかり暗くなった後、ファニー嬢が医務室ぼんやりと眠っていたルクスを叩き起こした。ルクスは、まだ眠りから覚めない。
撮影スタッフがファニー嬢の後を追って医務室に入ってきた。すっかり、大渋滞になった。
「貴方がリオンの名前を盗ったんでしょう!」
(名前?何のことだ)
「どうせ、羨ましいかったんでしょリオンが。ルクスなんて、ぜんぜん地味な役立たずじゃない」
「ちょっと、ちょっと、ファニーちゃん」
撮影スタッフも困惑している。
ルクスは、何のことわからなかったが、とにかくヤバいことだけは察した。
「名前盗るって?どうやって...」
「それは...」
ファニー嬢は何かを言いかけて、黙った。
周りの不穏な空気を察したのかもしれない。
そのまま、黙ってファニー嬢は医務室を出ていった。撮影スタッフも一度、ルクスに会釈してファニー嬢の後を追った。
大事にならないと良いけど。
空は、雨雲が覆っていた。




