第2話 役目と祟り目
「あんたみたいな地味でキモいおじさんと違って、リオンは凄いんだから」
「.........」
「有名な企業のトップでとにかく凄いんだから。あんたみたいなキモいのとは違うんだから」
このプリシラ嬢は、図書館で仕事をしているルクスのところまで来て、何かわけがわからないことを言ってきた。
プリシラは社交界からの回覧板をルクスに持ってくる役目を押し付けられたらしい。
それで、面倒くさい仕事を押し付けられたイライラを何となく普段から嫌っている、ルクスにぶつけているようだった。
「あの、忙しいからごめんなさい」
すっと、立ち上がってその場から逃げるルクスの後をわーわー言いながら、プリシラがついてきた。
面倒なのでパーティに置いていこうと思い、ルクスはそのまま足をパーティに向ける。
「ちょっと待ちなさいよルクス」
プリシラがルクスの後を追いかけてパーティにはいると、ファニー嬢が声をかけてきた。
「あらー、プリシラさんじゃない」
「うっ、ファニー。そう、あんたも来てたの」
プリシラの顔が思わず引きつっているのが見える。
「ええ、ちょうどリオンと待ち合わせをしていて」
「うっ、何よそれ、リオンってどういうこと?」
リオンの名前に反応して、プリシラが食い気味に聞いた。
「貴女には、関係ないでしょう。リオンさんは私が好きなんだから」
「誰が!?リオンが好きなのは、私。あんたじゃない」
ザワザワと、周りが二人のただ事じゃない様子に気が付き始めた。
その時、誰かが入ってくる様子に、二人は、はっと気がついてそちらへ走っていった。
リオンだった。
ニヤついた彼の笑顔が奇妙だが、女性には素敵に見えるらしい。女性たちがうっとりした視線でリオンを見つめている。
リオンとプリシラとファニーの三人で、遠くのテーブルへ行き、続きの話をするらしい。
周囲は、少しホッとした様子でパーティを再開した。
□
パーティをぼんやり眺めていると、女性たちが代わる代わる、休みなくルクスに声をかけているようだった。
(なるほど、たしかに人気者なんだろうな)
ぼんやりとその様子を眺めていて、気がついた事がある。ファニー嬢が、色んな女性と話しているとリオンを後ろから睨みつけていた。
牽制なのだろうか。女性たちが、ファニー嬢の様子を見て、逃げたり、逆に嫌味を言いに行ったりしているようだった。
「何よ、あんたなんて愛人のクセに!!」
「私が、本当の正妻です!!」
本格的に喧嘩が始まったらしい。
ああ、これは。と、ルクスは思い出した。
先日、広告につられて読んだ女性向けの悪役令嬢モノっぽい展開ってやつだ。
何か聞いたことがある決めゼリフを目の前が展開していて、ルクスは少し興味深く思った。
□
ルクスはパーティの食べ物を少しもらって満足したので、図書館に戻ってきた。
そして少し前に言っていたセイラの言葉を思い出した。
(リオンが主役のコミックか...)
ルクスが少し気になって図書館のサーチ機械を使ってリオンという名前の主役がいる少女漫画を調べた。
すると、かなりの件数がヒットした。
そしてそのキャッチコピーに、御曹司やエリート、カリスマなど様々な褒め言葉が飛び交っていた。
ルクスは、ふと気がついた。
もしかして、女性人気ってこういう作品があって、それで優秀なリオンというイメージが作られていったのかもしれない。
□
ルクスは会議室へ、未返却の本を回収に向かった。
そこでは、数名の男性貴族たちが会議中だった。
「それで...リオンに関して現状維持ということですか?」
「それしかあるまい」
「異議なし」
「まあ、言いにくいが...嫌な悪徳貴族という役目、リオンしか出来ないだろう」
「......」
「......」
(悪徳貴族の役目か...)
そんな役目があるなんて、ルクスは知らなかった。
なるほど、それでリオンを色々、悪い噂があっても放置していたのだな、とルクスは納得した。
とりあえず、このまま会議を立ち聞きするわけにもいかないので、退散することにした。本は後で取りに来ることにしよう。
ルクスは出来るだけ静かに廊下を歩いた。ふと上を見ると、遠くに腕を組んで歩いているリオンとファニー嬢が見える。
こうやって見ると問題が無さそうなふたりだったが。
リオンは、浮気を年中しているというのは有名な話だった。
ふとリオンがこちらを見た気がしたが、気にしない事にした。
□
階段を降りて、玄関を通り別館へ向かう最中、突然、魔法攻撃を受けた。
グラッと、ルクスは目眩を起こしバランスを崩した。
(何だ...!?)
その場に倒れ込むルクス。朦朧とする視線を前に向ける。
その先に、リオンが居た。
「敵を倒した」
「ありがとう、リオン!」
ファニー嬢のリオンを褒め称える声が聞こえる。
「リオンどうしたんだよ」
「今、襲われそうになったんだ」
「そうだったのか」
「酷い奴だなルクスは」
(何でだよ...)
ルクスは、納得できない気持ちだったが、その場は重い身体を引きずって逃げることにした。




