第4話 虚栄の崩壊
「クロア嬢を殺したのは、お前なのか」
朝、医務室で目が覚め、まだ眠い顔をして外へ出るなり、突然、屋敷の管理人にそんなことを言われた。
「えっ」
あまりのことに、ルクスは言葉が出なかった。
ルクスが、困惑していると屋敷の管理人は、ふうとため息をついた。
「いや、俺は犯人は別にいると思うけどさ。一応、聞いておきたかったんだ」
「どういうこと。一体、何が起こってるの?」
「今朝のニュースで見たんだよ。クロアが殺された。犯人はルクスだと」
しかし、警察がルクスを捕まえにくる様子はない。
一体、何が起こった。携帯を確認すると示談するためのメールが既に届いていた。
ルクスはあまりの急展開についていけなかった。呆然としていると、屋敷の管理人は、今日は家から出るな忠告して、ルクスの前を立ち去った。
□
医務室で、震える手を押さえながら、ゆっくり深呼吸する。慌てても仕方がない。
クロア嬢が殺されたらしい。これは事実だろう。
それから、ルクスにクロア嬢を殺した記憶はない。
これも事実だ。つまりクロア嬢を殺した真犯人が、ルクスに罪をなすりつけようとしている。
そう、簡単な話だ。
そして、そこまで名声を守ることに、こだわっているのも社交界では、リオン一人しか思い浮かばなかったが...。
ブブッと携帯が震えた。おじさん同盟からメールが届いたらしい。
そこにはグループチャットの正体だった。
チャットを開くと、誰が書いたかわからないメッセージが並んでいて今回の殺人事件の考察がされていた。
「本当の犯人は、捕まらない。事件はきっと揉み消される」
「僕も、濡れ衣きせられた事あるし、今回も同じパターン」
「犯人っていつもの人?」
「多分ね」
なるほど。ルクスは、驚いたが、いつものパターンらしい。
ルクスは示談メールをもう一度、読み返してみる。
これに返信すべきか。それとも...。
□
クロア嬢か...。
そういえば、先日、クロア嬢とドミンゴ氏とパトリック氏の三人で、グループ活動していたのを見た。
二人は事件について知っているのだろうか。そして、その三人と一緒に行動していたのがリオンだった。
何故、知っているかって。
彼らは、人目が少ない場所として図書館近くを選んだのかもしれない。しかし、その人目がつかない場所で仕事してる奴も居るのだよ、私みたいな。
犯人が、リオンと言い切るのは理由がある。私は、犯行の瞬間を目撃したからだ。多分。
その時は、リオンと誰かわからなかったが。今わかった。あれは、クロア嬢だったのだ。
しかし、濡れ衣を着せられて犯人扱いされている人間がリオンを告発できるだろうか。
いや、多分、無理だろう。それに、リオンを罪から守ろうとして、ますますルクスの方が追い込まれるか。
いずれにしても、逃げ場は無さそうだ。
おじさん同盟に、今回は示談にしてみると告げた。
頑張れよ、といういい加減な答えが帰ってきた。
□
事件はスムーズに解決した、ように見えた。
しかし、あの事件からすっかりルクスが、危険人物として警戒されて目立つようになってしまった。
影ように過ごしていたのに、思いがけず注目されてしまった。危険人物として。
撮影でも、何か恐ろしい人扱いされて、優先的にインタビューされるようになってしまった。
こうなると、面白くないのは、リオンだった。
注目されるはずなのは、俺だったのにと言い出しかねない。
それで、実際リオンが取った行動は、何だったって。
彼は数カ月、この街から消えていた。何か、別の女を追いかけていたとか、風のうわさで聞いたが実際は、わからない。
どこかへ移住したのかもしれない。悪事がバレたと察したのかも。さっぱり理解できなかった。
□
ルクスは休んでいた2階の窓から、ゆっくりと外を眺める。秋の風が、ふわりと舞い込んでくる。
ルクス殺人事件の濡れ衣を着せられたことなど、些細なことのように扱われ始めている。
そんなことよりも、気になる問題があるからだ。
最近、撮影所の人たちの出入りはほとんどなくなってしまった。確か、資金繰りがうまくいっていないとか。
代わりに、小さな小規模のライターが出入りするようになったが、貴族たちの不満は大きかった。
目立ちたがり屋が多い貴族たちにとって、現在の環境はとにかく我慢ならないものだった。
資金繰りなんて彼らには関係ない。とにかく、目立って注目されることだけが生きがいだから。
屋敷の運営を手伝っているルクスも頭が痛い問題だった。以前よりも、資金繰りが悪化している。不満が多い。
実際に、貴族同士の喧嘩も増え、撮影の仕事の質も悪くなっていて、どうにもならない状況だった。
どう考えても、答えなんてない。
赤字は赤字だ。続けられない。
虚栄の舞台が音を立てて崩れ始めていた。




