#8 自習と昼寝と早弁
翌日、自習の時間に俺が課題を進めている横で小林は昼寝をしていて、西園は早弁をしていた。
最近気付いたが、特待生に度々与えられる自習の時間は勉強をする時間ではなく、朝練の疲れを誤魔化して放課後の部活動に備える時間だ。だから、小林と西園が正しい。
なのに俺は、学校に言われた通りに課題をやっている。
この無駄な几帳面さが、自分でも少し嫌になる。
「お、りっくんの右と左じゃん」
購買のパンを食べていた西園が窓の外を見下ろして言った。
校庭では、女子クラスの体育の授業が行われている。そこにセリカと輪廻がいた。
競技のグループ分けをしているらしく、生徒たちが声をかけ合ってグループに分かれていく。
その中で、セリカだけがぽつんと立っていた。
上から見ているとピンクの髪が一人だけ離れた所にいるのが目立つ。
他の子は既にグループを作っていて、セリカに声をかける様子がない。
そして、セリカはグループに声をかけようと口を開きかけて、また閉じる。
誰かに話しかけようとして、やめる。また笑顔に戻る。
それを繰り返していた。
すぐに輪廻がセリカに気付いて、すたすたとセリカの元に歩いていった。
セリカの腕を掴んで、自分のグループに引き込む。他の子が何かを言おうとしたが、輪廻の迫力に全員が黙る。
「ハブられてるし……ッ」
西園は顔を隠しながらひいひいと笑っていた。
笑い事じゃない、とは言わなかった。俺が言う立場でもないからだ。
小林が目を覚まして、西園を呆れたように眺める。
「性格の悪い奴やなぁ」
「だって、りっくんの隣のギャルい子。あの髪で意外と謙虚なのウケるだろ」
「髪の色で人を判断したらあかんよ」
「小林、いいこと言うじゃん。でもピンクだぞ」
「色差別。ピンクでも黒でも茶色でも一緒」
セリカは、誰とでも話せそうに見えるし隣人の俺にもぐいぐい来るけれど、同性の中では自分から踏み込んでいくタイプではないのかもしれない。
確かに、あの賑やかなキャラが嫌いな女子も少なくなさそうだ。
「雨宮は、あの子たちと仲良くなった?」
「普通。近所の他人」
「冷たっ!せっかく女子と一つ屋根の下なのに」
「語弊がある言い方はやめろ」
西園に何を言っても無駄だから、俺は無視をして課題に戻った。
しかし、昼寝から完全に目を覚ました小林がふうとため息をついた。
「なあなあ、雨宮、俺も寮に入ろうかなぁ……」
俺が「好きにしたらいいんじゃないか」と答える前に、西園が話に参加してくる。
「でも、雨宮みたいなマンションだとほぼ一人暮らしだろ。小林にできるのか?」
「だって、雨宮ができてるなら、俺でも何とかなるやろ」
「なんで?雨宮って家事できねーの?」
小林の俺を舐め切った言い方に、少しムッとして俺は言い換えした。
「一通りできる」
「料理とか出来んの?全部外食?」
「自炊。弁当持って来てるだろ」
「弁当……?そんなん持って来てたか?」
「ああ、おにぎりとか簡単な物だけど」
「雨宮のはおにぎりじゃなくて、圧縮した米やん」
小林が横から余計なことを言って、西園が納得して頷く。
「ああ、あの堅くて丸いの、おにぎりだったのか。落とした時に床に穴が空きそうになってたやつ」
「なー?俺、絶対、雨宮よりかはできるわ」
そう言いながら、小林は鞄から弁当箱を出して食べ始めた。
中身はちゃんとした弁当だ。今住んでいる家の親戚の人が作ったらしく、卵焼きとプチトマトと唐揚げと、弁当の見本のようなおかずが綺麗に詰まっている。
「唐揚げ」
昨日のことを思い出して、無意識に口に出ていた。
「何?お腹空いたん?」
俺が答える前に、小林が俺の口に唐揚げを突っ込んでくる。
普通に美味しい。でも、昨夜の唐揚げの方が俺は好きだった。
別に好物でもないのに、そんなことをなんで覚えてるんだ。と自分でも不思議に思う。
そんなことを考えつつ、課題が終わったことだし俺も昼寝をすることにした。
眠る前に窓から校庭を見下ろすと、セリカと輪廻が集団と離れたところにいで、2人だけで何か話して笑っているのが見えた。




