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お決まりのクラス転移で、いきなり「罪人」認定されたので、世界を盗むことにしました  作者: 灰島 桐人
第三章 「罪人」、森で密猟技術をあげる

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第二十三話 罪人、食べられていない死体を見つける

「……何だ、これ」


グレンの声が低くなる。


僕も森狼の胸元を見た。


大きく裂けている。


血はまだ完全には乾いていない。腹も脚もほとんど残っていて、皮も大きく食い破られてはいなかった。


胸だけが、深く抉れている。


「近づいていいですか」


「待て。先に周りを見る」


グレンは森狼へ近づかず、その周囲を回り始めた。


僕も足元を見る。


森狼のものらしい足跡のほかに、もっと小さな跡もいくつか残っている。


でも、グレンが足を止めたのは死体とは少し離れた場所だった。


「こっちだ」


呼ばれて近づく。


地面が大きく沈んでいた。


「……足跡?」


僕の靴より、ずっと大きい。


丸く広がった跡の先が二つに割れている。蹄みたいに見えた。


「でかいな」


グレンがしゃがむ。


その先にも、同じ跡が続いていた。


低木が押し倒され、細い木の幹には新しい傷がついている。少し先では枝も折れ、土が大きく削れていた。


「これが森狼を?」


「まだ決めるな」


「はい」


言われると思った。


グレンは巨大な足跡と森狼の死体を交互に見た。


「ただ、ここを通ったのは確かだ」


僕たちは森狼のそばへ戻った。


血と獣の臭いがする。


朝に見た角兎の死骸と、臭いそのものが大きく違うわけじゃない。


それでも、胸の穴ばかりが目についた。


「やってみろ」


グレンに言われ、短剣を抜く。


【密猟】。


死んだ森狼の身体に線が浮かんだ。


皮。


肉。


骨。


そして胸の奥。


魔石のある場所。


そこを見て、手が止まる。


「……ない」


グレンが僕の横へしゃがんだ。


傷口から短剣を入れ、邪魔になる肉を避けていく。


森狼は何度か解体している。


魔石がある場所も覚えていた。


でも、そこには何もない。


胸の奥だけが、乱暴に抉られている。


「魔石がありません」


「ああ」


グレンも傷の中を確認した。


「誰かが取った?」


「刃物で外したようには見えん」


傷口の端に触れる。


切られたというより、引き裂かれている。


「食べられたんですかね」


「わからん」


【密猟の熟練度が上昇しました】


グレンは森狼の腹や脚も確認した。


「肉はほとんど残ってる」


「朝の角兎は、半分くらい食べられてましたよね」


「ああ」


小さな虫が何匹か、血の固まった毛の上を這っている。


グレンが少し離れた地面を指した。


「これを見ろ」


小さな足跡が森狼の方へ続いている。


途中まで。


そこから向きを変え、死体を避けるように離れていた。


別の足跡も似た動きをしている。


「近くまで来て、戻った?」


「そう見える」


「肉があるのに?」


グレンは答えなかった。


もう一度、死体を見る。


「位置を覚えとけ。先を見る」


僕たちは巨大な蹄跡が続く方へ歩き始めた。


◇


跡は、僕にも追えるくらいはっきり残っていた。


深く沈んだ蹄跡。


踏み潰された草。


折れた枝。


ところどころ、木の幹に大きく擦れた跡まである。


「かなり大きいですよね」


「ああ」


「森熊より?」


「跡だけならな」


巨大な何かは、まっすぐ進んでいるわけではなかった。


何度か方向を変えながら、森の奥へ続いている。


途中でユラが近くの木へ手をついた。


【樹脈感知】。


しばらくして北を見る。


「動いてる」


「どっちへ」


ユラの指がゆっくり南へ動いた。


「こっち」


「数は」


少し考える。


「いっぱい」


【樹脈感知の熟練度が上昇しました】


グレンは頷くだけだった。


さらに進む。


しばらくして、今度は僕が先に見つけた。


「あれ」


木と木の間に、茶色いものが見える。


動かない。


近づくと、大きな獣が横たわっていた。


鹿に似ている。


でも、これまで見た森鹿よりずっと身体が大きく、角も太い。


「これも森鹿ですか」


「違う。角大鹿だ」


グレンはすぐには死体へ近づかなかった。


周囲を見る。


僕も真似して地面を探す。


「あ」


あった。


さっきまで追っていたものと同じ、大きな蹄跡。


死体のすぐそばで地面が深く抉れ、低い木が一本折れていた。


角大鹿の身体にも大きな傷がいくつもある。


脇腹。


背中。


そして胸。


「……また」


胸元が大きく裂けていた。


グレンが周囲を確認してから頷く。


「見てみろ」


しゃがむ。


【密猟】。


知らない魔物でも線は見える。


皮。


角。


肉。


胸の奥。


魔石。


傷口から短剣を入れ、邪魔になる肉を避けていく。


森狼より身体が大きいぶん、奥まで開かなければならない。


線の先までたどり着く。


何もない。


「こっちもです」


グレンが覗き込む。


「ないな」


【技能【密猟】の熟練度が一定値に達しました】


【密猟 Lv3 → Lv4】


角大鹿の脇腹には、牙で齧られたような跡もあった。


でも、大きく食べられてはいない。


グレンは死体から少し離れたところを調べる。


「ここにもある」


小さな足跡だった。


死体へ向かって近づき、途中で向きを変えている。


「これも?」


「ああ」


僕は角大鹿を見る。


肉はかなり残っている。


それでも、近くまで来た何かは食べずに離れたらしい。


「何か嫌な臭いでもするのかな」


自分でも少し鼻を動かしてみる。


血の臭いしかわからない。


ユラも同じように鼻を動かした。


「くさい」


「それはたぶん血だと思う」


グレンはもう巨大な蹄跡を見ていた。


「進むぞ」


◇


さらに北へ進んだ。


巨大な跡は途切れない。


少し見失っても、周囲を探せば折れた枝や深く沈んだ土が見つかる。


一度、大きな木の幹に長い傷がついている場所もあった。


僕の頭より高い位置まで、樹皮が削れている。


「角ですかね」


「かもしれん」


グレンが傷へ触れる。


「新しい」


木の根元には、黒っぽい血のようなものもついていた。


「怪我してる?」


「可能性はある」


その先にも足跡は続いている。


グレンの歩く速さが少し落ちた。


僕も周囲を見る時間が増える。


森の音は聞こえていた。


鳥も鳴いている。


でも、さっきまでより獣の姿を見なくなった。


ユラが突然足を止めた。


「大きい」


「何が?」


北西を指す。


「向こう」


「動いてる?」


ユラはしばらく黙った。


「……わかんない」


グレンがそちらを見る。


巨大な蹄跡も、同じ方向へ続いていた。


「行くぞ」


少し進むと、地面が傾き始めた。


木の根を避けながら斜面を上る。


そこで、別の足跡が見えた。


僕の手よりずっと大きな爪跡。


「これ……」


「森熊だ」


グレンの声が少し低くなる。


「近くにいるなら走るな」


「はい」


短剣の柄を確認する。


ユラも僕の服の裾を掴んだ。


数十歩進む。


木の間が少し開けた。


そこに、大きな影が横たわっていた。


「……でか」


森熊だった。


立っていたら、僕よりずっと大きい。


太い前脚。


長い爪。


黒と茶色の混じった毛。


その巨体が横向きに倒れている。


グレンがしばらく周囲を確認した。


「死んでる」


近づく。


今度は、僕にも先に見つけられた。


森熊の近く。


深く沈んだ巨大な蹄跡。


倒れた低木。


土を削った跡。


森熊の背中と首には、大きな傷がついている。


そして胸には、同じような穴が開いていた。


「……これも」


「ああ」


グレンが短く答える。


僕はしゃがんだ。


【密猟】。


太い毛皮。


厚い筋肉。


骨。


その奥。


魔石があるはずの位置まで線が伸びている。


さっきまでより、どこを開けばそこへたどり着けるのかが見やすかった。


短剣を入れる。


毛と肉を避け、奥へ進める。


森狼や角大鹿よりずっと深い。


それでも、線を追えば迷わない。


そこまで開いて。


手が止まる。


「ないです」


「ああ」


【密猟の熟練度が上昇しました】


グレンは森熊の周囲を調べ始めた。


少し離れた場所でしゃがむ。


「優」


呼ばれて行く。


足跡があった。


森狼のものらしい。


何頭分か重なっている。


「ここまで来てますね」


「ああ」


足跡は森熊の方へ向かっている。


でも、途中で止まっていた。


その場で何度か足を踏み直したような跡があり、そこから引き返している。


「近づいてない」


「そうだな」


「森狼って、森熊の死体を食べるんですか」


「腹が減ってりゃな」


グレンは足跡を見る。


「だが、こいつらは近づかなかった」


僕も森熊を振り返る。


肉はある。


毛皮もある。


胸の魔石だけがない。


そして、そのすぐ近くには巨大な蹄跡がある。


森狼。


角大鹿。


森熊。


三つの死体の近くで、同じような跡を見た。


「この大きいのが通ったところ、ほかの魔物が避けてる?」


口にしてから、グレンを見る。


「……決めつけですか」


グレンは少し考えた。


「今見た三か所では、そうなってる」


それ以上は言わなかった。


なぜ避けているのかはわからない。


巨大な何かが魔石を取っているのかも、まだわからない。


ユラは少し離れた場所で地面へ手をついていた。


【樹脈感知】。


いつもより長い。


「ユラ?」


顔を上げる。


「いっぱい」


「何が?」


「動いてる」


北を指す。


そこから、ゆっくり南へ指を動かす。


「こっち」


【樹脈感知の熟練度が上昇しました】


グレンは北西を見る。


巨大な蹄跡も、その方向から続いている。


「もっと先ですか」


「ああ」


「行きます?」


グレンは空を見た。


それから僕の脚と、ユラの水袋を見る。


「今日は戻る」


「明日?」


「もっと奥まで行く」


僕はもう一度、森熊を見る。


魔石のない胸。


手をつけられていない肉。


その手前で引き返した森狼の足跡。


そして、森熊よりずっと大きな何かが残した蹄跡。


その跡は、森のさらに奥へ続いていた。


――――――――――



【現在のステータス】


榊 優 Lv.3

天職:【罪人】


【解錠 Lv.3】

【窃盗 Lv.2】

【密猟 Lv.4】

【詐欺 Lv.1】

【文書偽造 Lv.2】


ユラ Lv.2


【芽吹き Lv.2】

【樹脈感知 Lv.3】

【緑癒 Lv.2】


【今回の成長】


優

【密猟 Lv3 → Lv4】

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