【☆<√R>第70話:浜風さんのテンションがおかしい】
「ホントは聞こえてるよね浜風さん?」
俺が『好きだ』と二度も言ったのに、彼女は『聞こえなかったからもう一回』言えと言った。いや、明らかに嘘でしょ。
「ふぁい。ごめんなさい、聞こえてました」
珍しく神妙に肩をすくめるハーフ美少女。
しまった。しゅんとさせてしまった。
「あ、えっと……大丈夫だよ。あはは」
「うん。でも雄飛君もあたしを好きだってわかって、ホッとするやら嬉しいやらだよ!」
さっき落ち込んだ少女がもう笑った。
ホント表情が豊かだな。そういうところ好きなんだよなぁ。
「あたしたち、相思相愛なんだねぇ」
「うん、まあそういうことかな」
あまりに照れ臭くて、ちょっと遠回しな言い方をしてしまった。
ホントは『そうだよ!』って力強く言うべきなんだろうけど、恥ずかしくて無理だ。
こういうことをさらりと言えてしまう浜風さんってすごい。
単にコミュ力強者なんて言葉じゃ言い表せないなにかがある。
……そうだ。この子は、自分の気持ちを素直に口に出せるんだ。
浜風さんのこういうところ、めっちゃいいよな。
「あたし、雄飛君の彼女かぁ。嬉しいな」
「え?」
突然浜風さんの口から飛び出た『彼女』という言葉。
俺の彼女だって?
……そうだよな。浜風さんは、俺の『彼女』なんだよな。
今まで自分には縁遠いと思っていた言葉。存在。
それがはっきりとした実感を伴って、俺の胸の中に入ってきた。
なんだかとても不思議な感じ。
「うっわ、彼女だって! ぎゃぁ~っ!」
突然、浜風さんが顔を真っ赤にして悶絶してる。今度はいったいなに? 忙しい人だな。
「どうしたんだ?」
「だってだってだって、彼女だよ?」
「うん、そうだね」
──自分で言ったんでしょ。
「彼女だなんてヤバくない?」
「別にヤバくはないでしょ。悪いことはしてないんだし」
「いや、そういうことじゃなくて。『あたしが雄飛君の彼女』って、口にするだけでめっちゃアガる! 嬉しい! ──って意味でヤバすぎ!」
確かに。俺だって『俺が浜風さんの彼氏』って口にしたら悶絶できる自信がある。
「ううう……ぐすっ」
「え? どした?」
浜風さんが、今度は突然鼻をすすった。
目が潤んでる。もしかして泣いてる?
「ごめんね。今日のあたし、感情がジェットコースターだ」
「ホントにどうしたの?」
「心配かけてごめんね。カラオケルームでよかったよ。他の人に見られたら、雄飛君が変なことをしてるのかと誤解されるとこだった」
「あ、ああそうだね。大丈夫?」
確かによかった。ナイスチョイスだった。
「うん。大丈夫。……って言うか、雄飛君と相思相愛になれて、マジ嬉しくて泣きそうになってるんだ」
上目遣いで浜風さんはえへへと笑って、そしてぺろりと舌を出した。
セリフも仕草も衝撃的な可愛さ。なにこれ。ハートをぶち抜かれた。
「あ、ありがとう。俺もめっちゃ嬉しい」
「ホント?」
「うん、めっちゃ嬉しい」
「やったぁ~っ!」
ブロンドヘアの美少女は、両手を万歳するように挙げた。
そしてその両手は、そのまま俺の方に向かってくる。
「え?」
浜風さんの細い腕が俺の首に回って、そして彼女の整った顔が近づいてくる。
それが俺には、まるでスローモーションのように見えた。
何が起ころうとしているのか、まったく頭が回らなかった。
「嬉しい!」
浜風さんの腕に、ぐっと力が入る。俺の顔が彼女の顔近くに引き寄せられる。
もう少しで唇同士が触れてしまう……その寸前で止まった。
「嬉しすぎてキスしちゃいそうになったよ……ごめんね」
びっくりした。マジでキスしてしまうのかとビビった。
ヤバい。彼女もテンションが上がり過ぎて、自分で自分を制御できていない。
「いや、いいよ。まったく問題ない。問題ない。問題ない」
こんなに顔が近づいて、浜風さんの吐息が鼻にかかってる。
問題ないはずはない。頭の中はパニックだし、下半身は熱くなってる。
だけど問題ないと答えるしかない。
キスするのはもちろん嫌じゃない。それどころか嬉しい。
好きな人と距離感がゼロになる感覚。嬉しすぎる
心臓がバクバクと期待に脈打つ。
だけどふと現実的なことが頭をよぎる。
「でも……お店の人は大丈夫かな? 見られてたりしない?」
カラオケルームって監視カメラがあるって話を聞いたりもする。
「大丈夫。この店はそんなのないって、ここでバイトしてた友達が言ってた」
「なるほど。それは安心だ」
なにが安心なのだかよくわからないが。
「あのさ雄飛君」
抱きついたまま、顔が近い態勢のまま、浜風さんは耳元で囁いてきた。
「なに?」
「ごめん。やっぱり止まらない」
学年一の美少女が、切なげな声を上げたかと思うと、再び顔を寄せてきた。
「へ?」
「やっぱやっちゃお」
「なんですと!?」
──ぷちゅ。
柔らかい。温かい。
まぎれもなく、唇が触れ合った。それどころか押し付けた。
うわ、どうしよう。頭がぐるぐる回る。心臓が張り裂けそう。
だけどそれ以上に、幸せな気持ちが胸の奥からあふれて全身を駆け巡ってる。
今まで生きてきた中で果たして、こんなに幸せを感じたことがあっただろうか。いや、ない。
しばらくして唇を離した浜風さんは、俺の耳元で囁いた。
「ごめんね、我慢できなくて」
「謝ることはないよ。俺、めちゃくちゃ幸せだ。ありがとう」
「よかった。あたしも超絶幸せ」
あまりに可愛くて、つい両腕にぐっと力を入れた。
応えるように浜風さんもぎゅっとしがみついてくる。
そのまましばらく二人で抱き合っていた。
永遠に感じる長い時間。あっという間の刹那な時間。
どっちなのだろうか。どっちでもあるようにも思う。
そんな幸せな時間だが、やがてどちらからともなく身体を離した。
「ありがとう浜風さん」
「こちらこそありがとう雄飛君。そしてこれからもよろしく」
浜風さんが突然、ぴょこんと頭を下げた。
「こちらこそ、よろしく」
俺も頭を下げた。再び頭を上げると、ちょうど彼女も顔を上げたところで目が合った。
「うふふふふ」
「あはははは」
なんだかとてもおかしくて、二人揃って笑い声をあげた。
「やっぱあたし、幸せだぁ~っ!」
そう言って拳を突き挙げる浜風さん。
ここでガッツポーズ?
やっぱりこの子は、ホントに感情を素直に表す人だ。
「カラオケルーム選んでよかった!」
そうだね。カラオケルームのおかげで二人きりで本音で話せたし、浜風さんは素直な感情を大声で言えたし、何よりもキスできた。
「よしっ、歌おう!」
浜風さんがハイテンションな曲を入れた。
「また急だな」
「いいでしょ! 歌いたい気分なんだ!」
「うん、わかる」
今までの生きてきて、歌いたい気分なんてそうあるもんじゃなかった。
でも今は確かに歌いたい気分。
それから俺たち二人は、ノリノリな曲を中心に何曲か歌った。
……と言っても、歌ったのはほとんど浜風さんだけど。
それにしても楽しかった。めちゃくちゃ楽しかった。
こうして俺と浜風さんの「初めてのデート」は、とても楽しく幸せな時間を過ごすことができた。




