番外編 国際野球ワールドカップ 8
決勝リーグ、といっても順位決定戦になるんだけども、第3ラウンドは第2ラウンドの順位によって対戦相手が決定する。同率1位のオランダと日本が優勝決定戦を行い、3位のアメリカと4位のキューバが3位決定戦って感じだね。
アメリカは惜しかったんだよねぇ。ようやく投打がかみ合いだしてオランダに勝ったのに日本に負けちゃって5勝2敗になっちゃった。アンジーが毎試合1点以上叩きだしてるから、点が取られなきゃ負けなかったんだけどね。
日本はケーちゃんがオランダとカナダのトラウマになって三くんが打てそうで打てないギリギリラインを攻めて4勝を取ったんだけど、後の3試合で結構バカ試合をやっちゃった。キューバに1敗して単独首位の座を取る事は出来なかった。
まぁ、あくまで第2ラウンドの順位だからね。大事なことは優勝決定戦で勝つ事だ。という訳で今回もオランダ最大の天敵、ケーちゃんのご登場! と行きたい所なんだけども。
「いやー、流石に一昨日先発したんで」
「まぁ、球数制限に引っかかるわな」
そう。国際野球大会あるあるの球数制限でケーちゃんは今大会、もう投げられないんだよね。同じく三くんも投げられないから必然的に他の先発投手が立つことになるんだけども、オランダって今大会めっちゃめちゃ強いチームで基本的に打ちまくって勝つチームなんだよね。ケーちゃん以外は。
社会人の先輩たちも決して悪いピッチャーじゃないんだけどね。ケーちゃんに打たれたトラウマからか日本のユニフォームを見ると脂汗を流すくらいにメンタルをやられたオランダ選手たちも、マウンドに立ってるのがケーちゃんじゃないと分かると全てのうっ憤を晴らすかのようにフルスイングをしまくった。そしてガンガンスタンドに放り込んだ。
5回が終わるころには12対8とかいう立派なバカ試合だ。先輩たちも余りに鬼気迫るオランダ選手たちにすっかり委縮しちゃってるよ……なんでこんなことに!!!
「恐らく田中リアリティショックで一時的にバーサクしたんやろなぁ」
「間違いないね。ベンチにケーちゃんが居るだけで1塁のオランダ選手が肩ビクッてなってたから」
「いやー、流石にこれは俺のせいじゃないっしょ」
「「「いや、絶対に田中(ケーちゃん、兄貴)のせいだ」」」
「コー太、お前……」
「おら、お前ら。田中兄の責任問題は後で追及すんだから、今は声出せ声」
「監督までっスか!?」
暗くなりそうだったベンチで網走くんやコーちゃんと一緒にケーちゃんを弄っていると、周囲に座っていた先輩方が苦笑してベンチの空気が少し柔らかくなった。うん、ケーちゃんを犠牲にした甲斐があったかな? さっきまでのお通夜みたいな空気だと勝てるものも勝てないからね。
さて、試合はこれから6回表になるタイミング。すでに中継ぎは4人目を投入しているけど、旗色はあんまりよくないみたいでアウトが取れずにランナーが2塁に来ちゃった。今マウンドに居る富田林さんは某土方のクラウンでおなじみのハ○エースを作ってる会社の野球部所属で、今回の大会で野球部を引退するらしい。年齢も30近いし、ここからプロになるよりはそのまま会社でお勤めする方が将来設計の目途は建てやすいんだろうね。
つまりこの試合が引退試合になる。だから先発が早々と崩れて中継ぎも支えきれないこんな状況で手を上げての志願登板をしたんだけども。やっぱりオランダ打線の重圧はとんでもないんだろうね。かなーり空気に飲まれちゃってるように見える。
こういう時は気心しれたキャッチャーがサポートするもんだけどね。今大会メインでマスクを被ってるコーちゃんはまだ高校生で、社会人の投手陣はどうにも頼り切れないというか男のプライド的なものが邪魔をしてしまうみたいなんだ。
とはいえそれで痛打されてちゃ話にならない。投手ってのはマウンドの王様だけどね、勝ち負けの責任を負うからこその王様なんだよ。打たれた投手は裸の王様みたいなもんなんだ。
「富田林さーーーーーん! 奥さんとお子さんが見てるんでしょーーーーー! もっとふんばってーーーーーーー!!」
故に私のこの行動も悪くない(キリッ)
いきなり球場に響き渡るほどの大音量で激励を受けた富田林さんは最初何が起きたか分からないって顔でこっちを振り向いて、数秒して周囲を見渡した後に顔を真っ赤にして叫び返してきた。
「じゃかましい!!!!」
お、ちゃんと腹から声出てんじゃん。いいよいいよそれで行こう。その気合を球に乗せるんだよ!
私の発破が利いたからか富田林さんはランナーを背負ったまま半ば投げやりな感じの投球術でランナーを3塁に進めるも、ホームベースは踏ませずに6回を乗り切った。そして3個目のアウトを取った後に私に向かって突撃してきたのでもちろん私は逃げ出した。
「お前! お前なぁ!」
「死人みたいな顔でマウンドに立ってるからじゃん! それにあわばホームランボールになる所を残念そこは権藤だで助けたんだからイーブンでしょ! イーブン!」
「う、うぐぐぐ!!」
詰め寄ってくる富田林さんの猛攻を事実陳列で躱すと、富田林さんは言葉が続けられないのか唸り声を上げて黙り込んだ。フェンス登ってボールキャッチなんてしたんだから2点分の失点を消したってことになる。後輩の身で先輩を煽った罪くらいは帳消しになるでしょ。
この段階で+2点はちょっと追いつけないかもしれないからね。4点差ならうちのチームの打撃陣なら何とか追いつける可能性はある。でも6点差は流石に追いつけない可能性が高い。
6回裏の攻撃。あと4回で4点取らないと負けるし、5点とらないと勝てない。結構なビハインドだけど、ここからひっくり返したら最高に楽しいだろうな!
「という訳で監督。そろそろケーちゃんを代打に出した方が良いです」
「田中兄のバッティングは買ってるが、ファーストの飯田を変えるほどかというとなぁ」
「飯田さん今日2タコで全然当たってないですから。どっちにしろ変えてあげないとそろそろ今後に響きますよ?」
私がそう口にすると、監督とあと耳を立てていたファーストの飯田さんがぎょっとした顔を向けてくる。いや、そりゃちょっと考えれば分かるじゃない。これ国際試合の決勝でしかも地上波中継も入ってるんだよ? こんな試合でずっと不調な人を使ってたら間違いなく後々色々言われるに決まってるじゃん。飯田さんだってここまでは好調だったのに最後の決勝で打線ストッパーになってたらその印象しか残んないから、これ以降の事。例えばスカウトなんかにものすっごく不利になる可能性がある。
もちろん次の打席で汚名返上する可能性もあるけど、見る感じ今日のバッティングはほんっとーに調子が悪いというかバットが振れてない。オランダの投手とも微妙にタイミング合ってないみたいだし、替えるタイミングは今じゃないかな。
私の分析に監督は少し考え込んだ後に飯田さんを見る。飯田さんは私の分析になんと言ったらいいのか分からないって複雑そうな表情を浮かべているが、怒っている風には見えない。自分の調子は飯田さんが一番分かってるだろうしね。
監督はそんな飯田さんの顔を見て決心したらしく、ケーちゃんに顔を向ける。
「分かった。次の打席から田中兄を出そう。ケー太、イケるな?」
「もちっス」
監督の言葉にケーちゃんが軽い調子で答えた。相変わらず気合が入ってるのか入ってないのか良く分からない口調だけど、基本的にケーちゃんはやる事はどんなことでもいつもの調子でやっちゃう子だからね。1アウトで迎えた打席で、震えるオランダ選手が投げた外角ギリギリのボールをポーンとスタンドに弾き返して点差を3点に縮めてくれた。
でも、あれだね。近くを通る内野陣が震えてケーちゃんから距離を取ってる姿は勝負事とはいえなんかすっごい悪い事をした気分になっちゃうよ。どんだけ怖がられてるんだろうね、ケーちゃん。
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