番外編 国際野球ワールドカップ 7
野球ワールドカップもラウンド2が始まり、会場があるパナマ市近隣は大盛り上がりとなっている。大盛り上がり過ぎて随所で交通渋滞とか事故が起きてるみたいだけど。大会運営にブライアン伯父さんが絡んでるから選手の送迎や身辺警護なんかはバッチリしてある。どうしても日本と違って治安が悪いからね。か弱い女の子である私なんかはボディーガードが居ないと食べ歩きもできないのだ。
『アマネの場合は食べ歩く時間がないよね』
『アンジーくん。アンジーくん。世の中にはね、言って良いことと悪いことがあるんだよ』
そして今のは言ってはいけない言葉だった。訴訟も辞さないし余裕で勝つぞ私は!
とはいえ、実際に食べ歩く時間がないのは本当の事なんだよね。元から忙しかったけど、ラウンド2からは更に輪をかけて忙しくなっちゃった。
というのも、ラウンド2が始まって以降も相変わらず日本の試合以外の実況中継を行っているんだけど、いつの間にか私の実況中継を参加してる各国で地上波放映されてるらしくて実況の際に読まないといけない各国のルールみたいなのまで覚えさせられてるんだよね。私はアナウンサーかと一度は断ったんだけど、大会の実行委員会の人たちが列をなして頭を下げてくるもんだからね。最後の大会ででっかい花火を打ち上げたいっていう気持ちは分からないでもないから押し切られちゃった。
まぁ流石に寝る時間も無いって程じゃないし、我がままを聞いた代わりに実況の際には必ずスイーツを用意するという契約も盛り込んだからね。1実況1スイーツと考えればね、悪くない。悪くない取引だよむふふ。
「なんて思っていた時が私にもありました……」
『? どしたの、アマネ』
『なんでもなーい!』
少し遠い目で空を見上げると、隣に座ったアンジーが尋ねてくる。なんとアンジーさん、相方役を続投となりました。泣けるぜ。
なんでも、アンジーと組んだ実況中継がぶっちぎりで面白かったとネットで話題になってるみたいでですね。ブライアン伯父さんから日本とアメリカの試合がない時はアンジーと組んでの実況が組まれちゃったんだよね。
つまりあれだ。8チームの総当たり戦で日本戦とアメリカ戦以外の試合を全力でぺら回して実況しないといけないわけだ。過労死が見えてきたかもしれない。
『わ、今の凄いねアマネ。棒球過ぎて見過ごしちゃったのかな!』
『渾身の一投! コースが甘くても中々手が出なかったのかなぁ!』
『あれ、今のワンバウンドなのにストライク……?』
『あー、あれはちょっと判断難しいね。ストライクゾーンを掠めて落ちたって判断されたかボールとストライクを言い間違えたのどっちかな』
まぁ、とはいえお仕事はお仕事だ。ブライアン伯父さん曰く、このワールドカップが始まってから彼が所持している動画配信サービスの登録者がたった1週間で前年比を超えたそうだし、株価も爆上がりしているらしい。つまり伯父さんの当初の目論見は完全に達成できたと言っていいわけだ。
そして下世話な話だが、実はこの動画配信サービス、アメリカのYOUCUBEと日本のニヨニヨ動画って会社の株は僕も持ってるんだよね。ほら、オリンピックの時にその二つ向けで仕事をした時、成功報酬として当時の1パーセント分の株を貰ったんだよね。オリンピック前はどっちも小さな規模のサイトで、それほどの値段じゃなかったから結構ポンとくれたんだ。
あれ、伯父さん曰く当時上り調子だった私を身内枠に持ってきたいかららしいんだけど、まぁ私としてもね? どうせ動画とかを取るなら自分の利益に繋がるその二つを優先するでしょ? 全部が全部そのおかげじゃもちろんないだろうけど、なにかするときはYOUCUBEとニヨニヨ動画でってのをやってたから両サービスの経営陣の考えは当たったとみるべきだろう。
ただ、両サービスの発展具合を見ると別に私要らないんじゃないかなって思うんだけどね。北埼玉デッドボール関連はコンテンツとして人気だけど。あ、伯父さん曰くそろそろ両サービスは完全に傘下に加える予定だから近々株売ってくれって言われてるんだ。今回のワールドカップでも株価が上がったなら、結構な額になるよね……ま、またお母さん銀行に入れとかないと。
さて、そんなわたくし事は良いとしてお仕事だお仕事。
「これが わたしの ぐ わ ら だあああああああ!」
『ぐわああああああああ!』
ガッキィィィン! とバットがボールを打ち抜き、遥か天高くへと白球が昇っていく。今大会3度目の場外弾。なんでも私の試合の時には場外弾を求めてグローブもってスタンド周辺をうろちょろする人たちがいるらしい。話を聞いた時はすっごい熱烈なファンかな? とちょっと照れ臭かったんだけど、その日のうちにネットオークションで私の場外弾が出品されてたのを見て真顔になったよ。
しかも結構な値段がついたというか、数万ドルとか付いてるの見て慌てて警備の人や警察に場外にも立ってもらう様にお願いした。下手しなくても奪い合いで怪我人とか、亡くなっちゃう人が出てくるレベルだからね。結構な数の警備員さんに立って貰って、暴れる人が居たら取り押さえて貰わないと。
「バカみたいに飛ばすなぁ」
「いやー。まあね? 体が! おおきく! なったから! パワーがついちゃったんだね! ふんすふんす」
「はえー。まぁアマネキは細マッチョを超えた細マッチョっスからねぇ」
ついに念願の175cmを手に入れ、それ以降のポイントは体系の維持と筋力アップに費やし続けてるからね。私の全身は鋼どころかダイヤモンドもかくやって位に磨き上げられた筋肉で覆われている。かなり苦労したよ。単に筋肉の密度を上げるだけじゃダメ。骨格と内臓もそれらに耐えられるように強化しないといけない。
でも、お陰で私の身体は数年前から比べれば1.5倍くらいの出力アップに成功したのだ。どのくらいのレベルかといわれると腕相撲でケーちゃんに勝てるレベルだね。トロ子ちゃんにはまだ勝てないけど。去年卒業した久留米さんにも結局勝てなかったけど。
あ、あれ。おかしいな。私はこの3年間必死の努力をして常人とは比べるべくもないパゥワーを手に入れたはずなのに未だに同じ女子ってカテゴリで自分より上の女が存在する……? あ、トロ子ちゃんを女子枠に入れたのが間違いか。最近、あすみちゃんもそっちに片足突っ込んでるしね。私の周囲はアンジー含めて女子? って子が多い事を失念してたよ。ふー。護心完了。
ワールドカップのラウンド2も、プエルトリコ代表がやたらめったら強いから一位通過を渡しちゃったのと、どうやらアメリカ代表がラウンド2で消えそうって以外は特に見所もなく終わりそうだしね。アンジーがいてこの結果はどうなんだと思うけど、やっぱり一線級の人が投手陣に居ないとどうにもならないってことなんだろう。悪くはないけどこれからに期待ってレベルの人が多いんだ、今回のアメリカ代表。
そのうっ憤を晴らすように実況の時に暴れ回るアンジーに私の胃が死にそうだけど、そっちもまぁ、どうにかした。なったじゃない。私が! 頑張って! どうにかした!
うん、これは修行だね、修行。若いころに金ちゃん監督がやってたっていう辻に立っての漫談に近いものだと思おう。アンジーはずっとボケてると思えば後は生かすも殺すもこちら次第。これで滑ったら全部私が悪いと思って挑んだら割と何とかなったって感じだ。
ただ、唯一無念だと言えるのは。そっちで集中しすぎて折角差し入れてもらったスイーツの味をなんも覚えてないって事かな。
……明日からの決勝ラウンド、がんばろ。ぐすん。
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