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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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第146話 一人だけ魔球が投げれるってのも意外としんどい

――最高の魔球、思いつかなかったんですね?



 私の問いかけに女神様はそっと目を逸らした。魔球権藤あまねってなんだよ。私は魔球じゃねーぞと目元に力を入れて睨みつけると、女神様はぷるぷると肩を震わせ始める。



【そそそそそそんな事はありませんよ!? 女神は女神の最も愛し子たる権藤あまねさんこそが最も最高の魔球だというだけでして! ええ、もちろん他の意図なんてあろうはずが!】


――あー。まぁ良いですけど。なんでおかーさんの顔してるんです? あ、あと“僕”っていうのに違和感があって勝手に私って言っちゃうんですけど


【それはですね。女神が大昔に地上に遊びに行ったとき、熱心に口説いてきた青年がいまして。それが山田家の家祖となるのです。若気の至りですね。あの頃女神は若かったので!】


――え……め、女神様じゃなくてご先祖様……? ちなみにどんな具合に口説かれたんです?


【えー、それ聞いちゃう? 女神に聞いちゃう? えへへーあの方凄いんですよぉ女神の足首くらいの大きさなのにもう情熱的で! 女神の手のひらの上で一生懸命女神がどう美しいのかを語って!】


――それはマジで凄いなご先祖様



 これは完ぺきに思いつかなかったな、と矛先を変えるのと合わせて聞きたい事を尋ねたら、女神様はぺらぺらと聞いてもない自身の恋愛事情を話してきた。う、ううん。コイバナは好きだけど、1000年前の口説き方なんて詳しくなりたくはないんだけどなぁ。ところでその方、もしかして水鳥先生に似てるとか? と聞いてみると女神様はキャーキャー言って顔をぶんぶん振り出した。うん、言わなくていいです。


 ちなみに“僕”と言いづらいのは、26歳になった権藤あまねは一人称が私になっているかららしい。なんでも高校卒業を機に僕から私に一人称を変えたみたいだね。そこまで聞いたうえで、僕はもう一度女神様に質問をした。



――あの。じゃあ、この身体って実際に26歳の権藤あまねって事です……よね? 僕の16歳の身体はどこに


【26歳の権藤あまねさんに許可を貰って一時的に交換している状態です。そろそろ来るかなって思ってたらしくてちゃんとスケジュールを空けていてくれましたよ! 権藤あまねさんは10年後も女神の誇らしい信徒です!】


――話が早い流石は私。ところで女神様、そういえば私、女神様の名前を聞いたことが――


【おおっと! もうこんな時間ですね! 女神は信徒との語らいを大事にする方ですが今はそんな事よりも! 大きな戦いを制した仲間たちとの語らいを優先すべきですよ! 校歌斉唱!】



 まぁ26歳になったら16歳の“僕”と予め体を交換するって知ってるわけだからさもありなん、か? 10年先で借金を返さないといけないって気持ちになって絶妙に気が重いけど、まぁ、そっちの私が気軽に答えてるっぽいから特に問題はないんだろう。うん。なんか気軽に体だけタイムトリップしてるっぽいけど。


 ともあれこの機会に聞けることは根掘り葉掘り聞こう、と質問をしていたら急に灰色の世界が解除されて世界に色が戻ってきた。逃げられちゃったか。



「ス、スットラアアアァァイッ! バッターアウッ!!」



 どよめく球場の中。コーちゃんと一緒に倒れていた球審さんが倒れたまま、大きく声を張り上げた。最後の一球で止まっていた両チームの時間が動き始める。


 最初に動いたのは、球審と一緒にぶっ倒れていたコーちゃんだった。球審のコールと共に立ち上がったコーちゃんは、キャッチャーマスクを脱ぎ捨て、両腕を広げてマウンドの私へと走り出す。おお、あれだね! ピッチャーとキャッチャーが抱き合ってぐるぐるマウンドで回るアレ! いいねぇ優勝のだいご味だよ! 


 と両腕を広げてコーちゃんを待ってたんだけど、コーちゃんはマウンド手前まで来ると途端に足を緩めていき、直前でピタリと立ち止まってしまった。あれ? マウンドの上での抱き合いは?



「ええと。その。あまね……だよな。うん、アリス叔母さんにしか見えないけど」


「権藤権藤あまね権藤ですけど」


「ああうんあまねだ。胸、胸……」



 そういってコーちゃんは顔を真っ赤にしながら僕の胸元を遠慮がちに指さした。その様子につられて視線を下げると、シャツの胸元が大きく破けてスポブラが目に入ってくる。おお、26歳の私結構なダイナマイツだね。そういえば投げる瞬間なんかビリビリ聞こえた気がするから、あん時かなぁ。


 コーちゃんはプロテクターの前掛けを外すと、僕の方にずいっと手渡してくる。これで前を隠せって事だろう。ありがたく使わせてもらうけど、まぁやっぱり胸のあたりがキッツい。元から男向けだからってのもあるけど、プロテクターが浮き上がっちゃってるよ。これスポブラまで破けなくてよかった。



「あまねええぇぇぇ……」


「あまねきいぃぃぃ……」



 そうこうしている内に守備に就いていた野手陣が、ベンチから控えのメンバーが、そして監督もマウンドに駆けてきたんだけど、皆が皆マウンドの手前で急激に減速して立ち止まる。な、なんだい皆して。優勝投手様の胴上げとかマウンド上でわちゃわちゃ喜びを分かち合う瞬間じゃないのかい!?



「いや、あの。俺たちが触って良いのかちょっと自信が持てなくて……」


「今のあ、あ、あ、あまねさんに触ったらそれだけでまっすぐ立てなくなりそうで」


「近くに居るだけで思春期のリビドーがヤバイです」



 私は淫魔かなにかと勘違いされてるのかな。いや、まぁ世界一可愛い野球選手である権藤あまねさんの10年後なわけだから可愛さから美しさまで備えた究極のぼでぃなのは分かり切ったことだからね。思春期の男の子たちには辛いか―。しょうがないなぁ。


 とはいえ折角優勝したのに胴上げをしないのは片手落ちにも程がある。



「という事でこういう時は大人にしっかり責任を取ってもらうという事で、星監督の胴上げじゃぁい!」


「おぉ! それならなんとか……!」


「あ、あまね……ごほん。権藤さんは後生なんでちょっとだけ風下の方に立っててもらえます?」


「すごく良い匂いで正直溜まらんのです」


「えぇ……ま、まぁ分かりました」



 なんだか大変しょうもない理由で結局胴上げをしてもらう事も胴上げをすることもできなくなった私は、コーちゃんのプロテクターを身に着けたまま皆が星監督を胴上げして、誰も袖を掴まず2mくらい星監督が上空にぶん投げられるのを眺める事となった。さ、参加してぇ……けど参加するなって言われたからなぁ。



「権藤……さんでええよな?」


「網走くん」



 一人寂しく腰を強打してチームメイトに怒鳴り散らす星監督を眺めていると、コーラ瓶を持った網走くんが声をかけてきた。コーラ瓶に土詰めて持って帰るようだ。いや、まぁ瓶だし蓋をすればこぼれないんだろうけどそれでいいんだろうか。


 疑問に思っていると、網走くんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。



「負ける気無かったから、持って帰らんでもええと思って用意せんかったんよ。ほら、土持って帰るって負けた後ってイメージがあるやん?」


「ああ、まぁそうだね。涙ながらに土かき集めてるシーンが全国放送されるから」


「あれ、俺、嫌いやねんな。折角このでっかい舞台で、強い相手と戦って。それで負けたんやから堂々と帰ればええやろ」


「うん。まぁ言いたい事は分かるよ。でも、じゃあなんでコーラ瓶なんかにいれて持って帰るの?」



 顔を赤らめたままそう口にする網走くんに、私はそう尋ねた。その言葉通りなら、ここで瓶に土を入れて帰るのは矛盾してるんじゃないかと思ったからだ。


 私の言葉に彼は顔を赤らめたままこっちに視線を向け、チラチラと下に行きそうになる視線をなんとか私の顔に固定した網走くんは、口を開いた。



「今日の負け方は、正直、完ぺきな力負けやったから。二度と忘れんように、今日の負けを思い出すために土を持って帰ろうと思ってな」


「……うん」


「次に会う時。もしくは、その次。いつになるか分からんけど、君のソレを最初に打つのは俺や。それだけ」



 大きく息を吸って、吐き出し。網走くんはキッと私を睨みつけ、ついでバックスクリーンの電光掲示板に視線を向ける。球速表示の欄に描かれた170km/hの数字に視線を向ける。


 最後の一球。ただただこの体の出力に任せて投じられた球は、人類の最高速に限りなく近いレベルの直球だった。この球を打つには、網走くんはまだまだ色々と足りてないのが現状だ。けれども、彼はきっと言葉通りにいつか。この球に手が届くのだろう。



「うん。その時を待ってるね」


「……おう。ああ、それと権藤さん……いいや。あまねさん」



 網走くんは僕の名前を口にして、一つ大きく息を吸い、そして叫んだ。



「俺があの球を打ったら。俺と、お付き合いをしてください!!!」


「え。あー、で。デートくらいならまぁ」


「ッッッシャアアアア!」



 私の返答に網走くんはこの世全ての喜びを手に入れたかのように大きなガッツポーズをした。そ、そこまで喜ばれると嬉しいんだけどもね。流石に気恥ずかしいかな。



「キサン網走いぃぃぃぃ! あ、あ、あ、あまねさんと付き合うじゃとぉ!? あ、あ、あ、あまねさんはワシと先にデートしてくれるんじゃぁ!」


「アマネ、デートハキアイ! キアイデガンバヨ!」


「おい、あまね……お前、また安請け合いを」


「一遍痛い目見た方がいいんじゃない?」


「あまねきは魔性の女っスねぇ。見た目もそうなっちゃったし、これはこの後酷い事になりそうっスよ。いやマジで」


「おい幼馴染どもー。こいつそろそろ刺されるから教育しとけー」



 網走くんに襲い掛かる久留米さんと的外れなアンジーを尻目に、薄情な幼馴染どもが好き放題に口を開き、呆れたような顔でトロ子ちゃんが私の末路を口にする。なんて酷い連中だろう。私は……“僕”は必死で野球をやってるだけだっていうのに!


 なぜかアナウンスで『権藤あまねさん。権藤あまねさん。閉会式後にお話がありますので絶対に帰らないでください』なんて明らかな脅し文句まで聞こえてくるし、ああ。なんて僕は可哀そうな野球美少女なんだろう。


 一人だけ魔球が投げれるってのも意外としんどいよねぇ。


 まぁ、なんだかんだ楽しんではいるけどさ。なんだかんだね?


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新作書き始めましたのでこちらもぜひよろしくお願いします。

ラーメンが食べたくて 異世界転生ハードモードとんこつ味

https://kakuyomu.jp/works/822139838101426836

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