第120話・神聖国の刺客
聖剣を構えるラディウスと、馬脚を現した老人。
部屋の中で、二人の気迫が真っ向からぶつかっていた。
もう老人の顔に、商人としての仮面はない。
そこにあるのは、ただ怒りと殺意だけだった。
長年、礼節と損得勘定の奥に押し隠してきたものが、一気に噴き出している。特にその怒りは、ラディウスの手によって破り捨てられた、あの神聖国の聖印へ向けられていた。
否――その聖印を、ためらいもなく踏みにじったラディウス本人へ、だ。
ラディウスは一切油断せぬまま、内心で苦笑する。
冒険者ギルドの個室で交わされた会話。あの紋章を破れば、神聖国の人間なら怒り狂って襲いかかってくるだろう――そう、あの胡散臭い商人は平然と言っていた。
半ば冗談めかしてさえ聞こえたその言葉が、今、目の前の現実として形を持っていた。
老人は、ラディウスの口元に浮かんだ僅かな苦笑を、何か勘違いしたのかもしれない。
血走った眼を見開き、喉の奥から獣じみた怒号を絞り出す。
「何を嗤っている――海神の使徒ごときがぁ!!」
両腕を振り上げる。
次の瞬間、光が弾けた。
光弾。
光矢。
光槍。
白熱した光が、豪雨のようにラディウスへ降り注いだ。
部屋の中が一瞬で昼間のように明るくなり、壁も床も眩い光に塗り潰される。もし凡百の兵であれば、その一撃目で目を灼かれ、二撃目で心臓を射抜かれていたかもしれない。
だがラディウスは動じない。
聖剣がひと振りされるたび、飛来した光が斬り払われる。
ただ打ち払うのではない。弾き、逸らし、断ち切る。まるで最初からそこへ飛んでくると知っていたかのように、迷いなく刃が走る。
海神の加護と、聖剣を振るう聖騎士としての資質。
百年に一人の神器所有者。
そう呼ばれる重みが、その一挙手一投足に宿っていた。
老人の魔法は決して弱くない。
商人の皮を被って長く生きてきたとはいえ、それなりの威力と練度を保っている。
だがラディウスから見れば、その怒り任せの連打は子供の駄々に近かった。
もし老人に今なお全盛期の戦闘勘があり、冷静さを残していたなら、話はもう少し違ったかもしれない。
だが現実には、彼は老い、長く商人として生き、戦うより騙すことに慣れすぎていた。
全ての光を斬り払ったあと――そこに居たのは、荒い息をついている老人だけ。
「……くそっ!」
勝ち目がない。
流石にそれは理解したのだろう。
怒りに身を震わせながらも、老人は即座に判断を切り替える。身を翻し、部屋の壁際へ――ずらりと並んだ本棚の傍へ駆け寄った。
そこで片手を突き出し、魔力を流す。
ごうん、と鈍い音がした。
本棚が横へずれ、その裏に隠されていた扉が姿を現す。
隠し通路。
いざという時の逃げ道。
老獪な商人にして、闇ギルドの一員らしい備えだった。
老人は一切振り返らず、その扉に手をかける。
だが、次の瞬間。
「港の誓約」
静かな声とともに、ラディウスが聖剣を床へ突き立てた。
音もなく、見えない潮の気配が広がる。
剣を中心に、部屋の空気そのものが変質した。
そこはもはや、ただの密室ではない。
港だった。
港――すなわち、出入りは許可制。
入港も出港も、管理者の認可なくしては成らぬ場所。
その概念を一室に押し込め、強引に現実へと落とし込む。
海神サルマリエの神威を借りる結界術。
老人が扉を引く。
開かない。
押す。
びくともしない。
その顔に、憤怒に加えて焦りが浮かんだ。
「こ、この……低俗な海神の使徒如きが……っ!!」
「――それで?」
ラディウスは一歩も焦らず、剣を構え直した。
「その低俗相手に、手も足も出ないあなたは何なのかな?」
淡々とした口調だった。
挑発であることを隠しもしない。
神を侮辱されても、感情を表へ出さない。
信仰を軽んじられても、それで剣筋を乱したりはしない。
侮辱への返礼は、揺るがぬ一刀で足りる。
「……ふ、ふふふ……」
突然、老人が顔を伏せた。
低く、含み笑いが漏れる。
追い詰められて気でも触れたのか。
それともまだ策があるのか。
ラディウスは動じず、純白の聖剣を構えたまま見据える。
だがその静かな構えが、ほんの少しだけ対応を遅らせた。
「――炎の球」
老人の掌に、火球が生まれた。
だがその放つ先は、ラディウスではない。
――老人自身の足元。
「――っ」
次の瞬間、炎が爆ぜた。
床板を舐め、絨毯を走り、書棚へ飛び火し、天井へと這い上がる。
閉ざされた結界の内部で、熱が一気に膨れ上がった。
空気が焼け、喉に刺さる。紙が焦げ、木が悲鳴を上げる。
そして老人自身もまた、逃げもせずその火の中に立っていた。
「残念だったな?」
炎に包まれながら、老人は笑う。
皮膚が焼け、衣が燃え、声すらひび割れているのに、その目だけは異様な光を湛えていた。
「貴様たちには何も渡さん。渡さんよ」
この程度の炎でラディウスは死なない。
海神の結界と加護は、中級程度の火属性魔法で破れるような代物ではない。
だが問題はそこではなかった。
老人だ。
そして部屋の中身だ。
書類。
帳簿。
隠し通路の先に積んであるであろう、闇ギルド関連の証拠。
この部屋にある全てを、老人は自分ごと焼き払うつもりなのだ。
「我等が神の威光は絶対だ!」
燃えながらなお、老人は叫ぶ。
「精々、仮初めの勝利を喜ぶがいい!! 既に我が祖国の計画は動いている! この大陸に光の神が君臨する日は、そう遠い未来ではないのだ!!」
狂信者の絶叫。
それは最早、商人の仮面の残滓すらない。
ラディウスは一瞬、逡巡した。
ここで老人を生け捕りにするには無理がある。
結界を解くか、この炎の中へ踏み込むか、いずれにせよ危険が大きい。
老人はもう死兵だ。ここまできた以上、死ぬ直前まで抵抗するのは目に見えている。
(だが、ここで死なせれば情報が途切れる)
この老人を倒しただけでは終わらない。
神聖国の工作員である以上、その背後、連絡網、金の流れ、闇ギルド上層との結びつき――得られるものは全て吐かせねばならない。
ここで焼かれて死なれれば、今後全てが後手に回る。
(やるしかないか――)
覚悟を決め、ラディウスが一歩踏み出そうとした――その時。
「――負債吸引」
別の声が、背後から落ちた。
次の瞬間――部屋中を舐め回っていた炎が、吸われた。
燃え盛る火が、音もなく、だが凄まじい勢いで一方向へ引き剥がされていく。
熱が痩せ、赤が消え、空気の中に漂っていた焦げた魔力までもが一つの中心へ収束していく。
ラディウスは思わず目を見開く。
自分の背後。
いつの間にそこに立っていたのか。
白い髪のニクスが、部屋の炎を片端から奪い尽くしていた。
(……馬鹿な)
驚愕したのは、炎を吸う術の異常さだけではない。
なによりも――この結界内に、平然と足を踏み入れていること。
港の誓約。
海神サルマリエの力を借りた神威の結界。
並の者なら出ることも入ることも叶わない空間だ。
それを、ニクスは破壊したわけでも、強引にこじ開けたわけでもなく、まるで普通に扉を開けて部屋に入るような自然さで突破してきた。
考えられる可能性は少ない。
少なくとも微加護――昨今神聖国がばら撒いている安い加護の類では到底不可能。
大加護。
あるいは、ラディウス自身と同じく神器級の庇護を得ているのか。
「おい、聖騎士さん」
「――な、何かな?」
「何かなじゃなくて」
ニクスは、炎を奪い尽くした手をぶらりと下げたまま、呆れた顔で言った。
「はやくあいつふん縛った方がいいぞ。傷も深ぇし、ほっとくと死ぬぞアレ」
「あ」
情けないくらい素の声が出た。
我に返る。
老人はまだ立っていたが、焼け爛れた身体を支えきれずにふらついていた。
自害は止まった。
だが、止まっただけだ。このままでは普通に焼傷で死ぬ。
ラディウスは即座に床を蹴った。
老人の元へ一気に踏み込む。
決死の自害を止められたせいで呆然としたのか、老人は一瞬だけ反応が遅れた。
何かを言おうと口を開く。呪詛か、あるいは最後の虚勢か。
だがもう遅い。
ラディウスは老人の懐へ滑り込み、その鳩尾へ剣柄を叩き込んだ。
「ぐっ――!」
鈍い音。
老人の身体がくの字に折れる。
瞳が白く剥かれ、そのまま力を失って崩れ落ちた。
部屋に残るのは、焼け焦げた匂いと、熱の名残と、気絶した神聖国の工作員。
そして、結界の中へ平然と入り込んだ白い青年。
ラディウスは剣を下げきらぬまま、振り返る。
ニクスは心底面倒くさそうな顔で立っていた。
「……君は、本当に何者なんだい?」
「長くなるから今はやめとけ」
白髪の青年は、焦げた床を見下ろしながら言った。
「それより、そのジジイ死なせんなよ。まだ吐かせること山ほどあるんだろ」
「……その通りだね」
ラディウスは短く頷く。
そう。驚いている場合ではない。
今必要なのは、ニクスの正体の詮索ではなく、目の前の工作員を生かして口を割らせること。
神聖国の計画は既に動いている。
老人はそう言った。
ならば今ここで止まる訳にはいかない。
海神の結界の内側で、火は消えた。
しかし事態そのものは、ようやく本格的に燃え始めたばかりだった。
◇◇◇
レジーナのいる貴賓館の一室は、夕暮れの色に染まり始めていた。
窓の外では、リュムノワールの鍛冶場から立ちのぼる煙が、空へ細く伸びている。昼の喧噪がそのまま夜へ流れ込んでいくような時間帯だったが、この部屋の空気だけは妙に静かだった。
静かで――だからこそ、扉を叩く音がひどく大きく響く。
「失礼いたします」
入室してきたのは、レジーナ配下の騎士だった。
歩幅は乱れていない。顔色も平静を装っている。だが、よく見れば呼吸は浅く、報告内容の重さを抱えているのが解った。
騎士はレジーナの前で膝を折り、頭を垂れる。
「ご報告いたします。件の商人を捕縛しました」
「……そう」
レジーナの声音は低く、よく抑えられていた。
だが次の一言で、彼女の片眉が僅かに上がる。
「ただし、相手は重傷を負っております。現在、命はどうにか繋いでおりますが……治療が続いております」
「重傷?」
レジーナは、思わず問い返した。
「あの人が加減できないほど相手は強かったの?」
「いえ、それが……」
騎士は、一瞬言葉を選ぶように口をつぐんだ。
そして、慎重に続ける。
「どうも、勝ち目も逃げ場も無いと悟った後、自ら焼身自殺を図ったようでして。ラディウス卿が追い詰めたところ、老人は室内ごと焼き払い証拠を消すつもりだったようです」
「……焼身」
「ニクス殿の助けもあり、どうにか阻止。現在は生け捕りに成功しております」
それを聞いた瞬間、レジーナは息を呑んだ。
冷たいものが背中を這い上がる。
「焼身なんて手段を選ぶの……?」
レジーナは、そこでようやく息を吐いた。
驚きというより、冷たいものが背骨を伝ったような顔だった。
「そんなものを躊躇なく選ぶなんて……本当に神聖国の工作員だったのね……」
作戦に乗ると決めた時点で、もちろん覚悟はしていた。
神鉄という反則みたいな札まで切って、街の荒くれ者ごと事態をひっくり返すような真似をした以上、ただでは済まないだろうとも思っていた。
それでも、実際に「あの老商人」が、自ら焼かれることまで厭わぬ狂信者だったと聞かされると、寒気の質が変わる。
五年前から街の発展に関わってきた功労者。
利に聡く、大局を見て街へ投資できる胆力を持った、名うての老商人。
そう見えていた男がその実、神聖国の手先。
少し間違えば、レジーナ自身も――。
「長年の協力者、という情報が王女殿下の思考を曇らせてしまったのでしょうね。いやぁ、恐ろしいことです」
穏やかな声が、卓の向こうから滑り込んできた。
レジーナのこめかみが、ぴくりと動く。
向かいには――例の胡散臭い商人が座り、相変わらず笑みを崩していなかった。
にこやかで、穏やかで、礼儀正しい姿。
見る者が見れば「実に感じのいい商人」だと評価しそうな顔。
だがレジーナは、その笑みに対する警戒を一瞬たりとも緩めない。
この男と知り合ってから、まだ一日も経っていない。
それなのに、話せば話すほど、直感が危機感を高まらせる。
話は通じる。
頭の回転もいい。
有益な情報も出す。
けれど、それら全部が「だからこそ危ない」と告げてくる。
この胡散臭い商人は今、「保護」の名目で貴賓館に滞在させている。
正確に言えば、保護というより監視に近い。
いや、監視というより――レジーナが自分の視界の外へ出したくなかったのだ。
レジーナは、鋭く商人を見据えたまま言う。
「私の思考が曇った、ですって?」
「ええ」
商人は柔らかく頷いた。
「逆に私は、例の商家に対する前情報がありませんでしたからね。だからこそ、あの老人が浮かび上がったとも言えます。裏を返せば――あの老人くらいしかいないんですよ、この街で怪しまれずに暗躍できる実力者は」
「……いつから企んでいたというの」
レジーナの声は低い。
「五年前と言えば、まだ条約が結ばれたばかりの不安定な時期よ。狙うなら、むしろあの時期こそ最適だったはず」
「それでは意味が無かったんでしょう」
商人はすぐに答えた。
まるで、あらかじめ用意されていた答えのように淀みがない。
「神聖国の者の狙いは、光輝神の威光を世界に広めること。過去のあの時点で街を壊したところで、ただ街がひとつ滅びる程度で終わってしまう」
「……それで?」
「いつでも動けるように。いつでも応えられるように。じっくり年月をかけて手を伸ばしたのですよ」
商人の声音は、相変わらず穏やかだった。
街が滅びる話を、まるで夕飯の献立を語るみたいな調子で言う。
「実に気の長い話です。光輝神が、いつか必ず外界へ手を伸ばすと信じていなければ、こんな策は立てません」
「……五年前にこの街へ来たのは、今回のためだというの?」
「少し違いますね」
商人は、軽く肩を竦めた。
「おそらくタイミングを待っていたのです。神聖国の侵攻に合わせて動く、その時を」
その言葉の意味を、レジーナはすぐに理解した。
理解してしまったからこそ、ぞわりと肌が粟立つ。
五年。
五年も、祖国を離れて。
他国の発展に貢献し、笑顔を見せ、友好の仮面を被り続ける。
いつ来るか分からない好機のため、ただ待ち続ける。
そこまでしてなお信仰を捨てないというなら、それはもはや常識では計れない。
「私とニクスさんは「実物」を目にしていますからね」
商人が、少しだけ目を細めた。
「いやぁ、凄いですよあの国。真っ白な雪の大地で――連中の信心は、火山よりも熱く危険です」
「……信仰のためなら女子供も容赦なく殺す、って話も?」
「女子供どころか、自国の王家まで皆殺しにしましたから。正論なんか通じませんよ」
商人は肩をすくめる。
「そもそもの正論が、彼らにとっては「神の信仰」だけです。それ以外はすべて異端。邪教徒。切って捨てて当然のゴミ。あの国では、そういう世界で生きている」
「その話……やはり本当なのね」
「王女殿下も魔国で聞いたのでしょう?」
「一応はね。意識を取り戻した亡命者たちの話は聞いていたわ」
レジーナは、ゆっくりと指を組んだ。
「けれど、改めて聞かされると……正気じゃないわね、連中は」
「その言葉、言うのが百年以上遅いですよ」
そこで商人は、ほんの少しだけ笑みを消した。
怒りでもない。嫌悪でもない。
――つまらないモノを眺めた時のような、淡々とした無表情。
「連中に狂気や正気を問うても、そもそもの土台が常人と違いすぎる」
レジーナは、その顔をじっと見た。
その間に、報告を終えた騎士は静かに退出していく。扉が閉まり、再び部屋の中には、レジーナと商人。そして数名の侍女だけが残る。
沈黙の中で、商人は再び口を開いた。
「そして」
商人は、再び胡散臭い笑みを貼り付けた。
「この街の事件と、闇ギルドの情報を聞いて、私はひとつ確信しました」
「……何を?」
「闇ギルドの創始者ですよ」
何でもない顔で、男はあまりにも平然と告げる。
「おそらく、神聖国が全ての始まりです」
「――――」
流石に、レジーナは絶句した。
闇ギルド。
それは百年どころではない。何百年も前から世界各地に巣食い、国家という国家を悩ませ続けてきた裏組織。
密輸、奴隷売買、危険薬、武具横流し、暗殺請負――時代によって形を変えながらも、必ずどこかに存在する「闇」の総称。
その大本が、神聖国?
「冗談で言っていませんよ?」
商人は、レジーナの沈黙を見て続ける。
「一応、理由はあります。その中でも、一番分かりやすいのはですね――神聖国に居ないんですよ、闇ギルド。どこにも、あの裏組織の気配がない」
「……にわかには信じがたいわね」
「でしょうね。こればかりは実際に見ないと、なかなか同意は得られません」
商人は平然と言う。
「ですが、可能性はかなり高いと思います。本当に居ないんですよ、裏の人間。むしろ生まれそうな環境なのに」
「生まれそうな環境?」
「教義と信仰で雁字搦めに縛られた国でしょう? ああいう国ほど、はみ出し者や抜け道を使う連中が湧きそうなものです。なのにゼロだ」
「……光輝神の信徒たちが、徹底的に潰している?」
「可能性のひとつですね。ですが、それにしたって不自然だ。異常なんですよ、あの国は」
ゼロ。
その言葉が重い。
悪が少ない国ではなく、悪が表の信仰に統合されている国なのか。
それとも――こちらにとって悪なだけで、彼らにとっては正義なのか。
「……まあ、そういう異常な状況を知ってしまった訳で」
商人は、こともなげに言う。
「ニクスさんは、森の賢者さんへ情報を届けに向かっている訳です」
「……そこが正直、一番分からないのよ」
レジーナは、そこではっきりと顔をしかめた。
「神聖国が危険で異常なのは分かった。けれど、それと賢者様に何の因果関係があるの? 彼は関係ないでしょう」
「ところが」
商人の笑みが、また元の深さを取り戻した。
穏やかで。
柔らかくて。
どこまでも底の見えない笑み。
「関係あるんですよ、それが」
ゆっくりと、彼は言う。
「王女殿下」
穏やかな――底無しの笑みを携えながら。
「魔境の森の番人について、どこまで知っています?」
その問いが落ちた瞬間、部屋の空気はまた別の意味で冷えた。
リュムノワールの事件は、まだ入口に立ったに過ぎない。
レジーナは、ようやくそれをはっきりと思い知る。
話は続く。
いや――本当の意味で、ようやく始まりかけていた。




