166.理由
side:参謀本部スティーブン・ウルフ
「はい……
先程のお話、リリーナ・ランドルフ中佐は嘘をついています」
『……そうか』
私の上司であり、参謀本部を束ねる参謀総長である、ダニエル・ヴォーン大将が静かに頷く。
そこには、そうであって欲しくはなかったという感情がはっきりと伝わってくる。
『それは本当になのかっ!?』
思わずといった声が割って入る。
特務機関の長官、テレーズ・アルノー大将だ。
彼女お墨付きのリリーナさんのことだ、私の情報は聞き捨てならないだろう。
「アルノー長官、落ち着いてください。
リリーナさんの嘘はマリー博士から聞いたと言っている部分だけです」
『ん?情報源が違うと?』
「はい、何か隠しているのは間違いないかと。
ただ、その後の被害が出なかった部分は本気で嬉しいと感じていますし、仲間を守るといった主旨の話は間違いなく本心で言っています。
敵対心がないのは明らかです」
本当に、能力を使うまでもなく…
誰が見ても分かるくらいに嬉しそうにしていた。
『そ、そうか……
では、何故嘘なんか』
『当時は先帝とかなり近しい者しか、レガシーアイテムを知らなかったはずだ。
そもそも情報が少なく、存在するのかすら怪しかった。終ぞ、見つからなかったのだ。
マリー博士とて現物もなく、調べることすら出来ていないはず……』
そこだ。それが私にも分からない。
先帝の内通者がまだいる?
いや、しかし、リリーナさんがこのゾンビパニックを引き起こしたとは思えない。
この惨事の引き金は間違いなく、メラリアの者だ。
ただ、何故嘘を?
「先帝の手の者がまだ生きていて、リリーナさんを利用しようとしている?」
それならばまだ辻褄が合うかもしれない。
その者を庇うために嘘をついているのでは?
『なるほど……それならば、リリーナ自身は我らの味方であるという部分とも整合性がとれる』
『そうだね。スティーブン君と違って僕のはただの直感だけど、リリーナちゃんは間違いなく善性の子だよ』
ッ!?
皇帝陛下まで聞いていたとは。
しかし、陛下の直感は信じるに足る。それだけの実績がある。
「はい。私も彼女のことは信じて良いかと存じます」
『小さい頃から知っている私も、そこは問題ないと改めて言わせて貰おう』
長官は心做しか嬉しそうだ。
『ふむ、では先帝の手の者がまだいる可能性を視野に入れて行動するように。それとスティーブンはこの件をオルガにも共有すること。
オルガ以外の者には他言無用だ』
参謀本部直属の秘密裏諜報部隊【月】、そのリーダーであるオルガさんの諜報能力は凄い。
間者がいれば分かるだろう。
「承知しました」
奪還した、レストデーンの復興とメラリア共和国への防衛線構築。
未だルンドバード連邦国の支配下にあるクウィントン。
レストデーン奪還作戦での損耗も大きく、クウィントンの奪還作戦に動くには、まだまだ時間が必要だ。
問題は山積み。
ふぅ、まずはガイアの尋問ですね。
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side:エンド
広く豪華な部屋に相応しい1人掛けソファに座る1人の男。
メラリア共和国、ネームドの【エンド】である。
レストデーンの戦闘から早5日が経っていた。
しかし、ソファに体重を預け、ゆったりとしたエンドの目は虚ろだった。
右手にはウィスキーのボトルを持ち、そのまま呑んでいる。
左手には1枚の写真。
写真には髪の長い女性と3歳くらいの子供を抱きかかえたエンドが映っていた。
それをジッと眺め、また、視線は虚空を彷徨う。
「なぜ、こうなった……」
誰に向けたものでもない呟き。
エンドは思い出す。
【生者の柩】についての情報を得た時のことだ。
────────────
〈13年前〉
豪華な装飾が施された部屋にエンドが通される。
迎える机に座るのは、ルンドバード軍の軍務卿ソロモン・エリオット。
実質的なルンドバードの支配者である。
そして、その周りには若くして前線で活躍しているネームド達が並んでいる。
【ギャップ】、【ガル】、【ライトニング】。
そして、エンドの後ろにも【クラッシュ】。
(ネームドが4人……
万が一にも俺に何もさせないためか?それとも俺を測っているのか?
ここまでされると下手なことは出来ねぇな)
「それで、持ってきたのか?」
ソロモンによる問いかけ。
「もちろんだ。これがそのメモリだ」
エンドがソロモンに見えるようにSSDを取り出す。
「だが……渡す前にきちんと聞かせて貰おうか」
(このために、危険を犯してアルステリアの技術を数世紀進めたとも言われる天才のPCを手に入れたんだ)
「それが本物だと言う証拠もないのだが、まぁいいだろう。
連れてこなかった所を見ると、拿捕には失敗したようだが、最低限のことはしたのだろうな?」
ソロモンのニヤリとした顔にエンドは険しい表情を変えない。
(この古狸め……
どうせ、そのくらいはスパイ共から情報を得ているだろうが)
「あぁ、脅威なのはメラリアとしても同じこと。
レッドイーグルと共に始末した」
「ふむ。レッドイーグルまで始末した礼だ。
教えてやろう。
お前の知りたかった、死者蘇生の方法は終わったばかりの大戦の原因。
そのレガシーアイテムと同じものだ」
「っ!?それは不老不死だろう?」
怪訝な表情のエンド。
「ふっはっは。
それは少し違うのだ。
生きている者は不老不死にし、死んだ者は甦らせる!
それがアルステリアの皇帝とお主のところのトップ共が企んだレガシーアイテム【生者の柩】なのだよ!」
上機嫌に話すソロモン。
(なにか引っかかるが、嘘にも聞こえねぇ……)
「在処は!?」
「レストデーン。アルステリア帝国のレストデーンにあるようだ」
(レストデーンだとッ!?
アルステリア帝国領土じゃねぇか!
今回侵入するのにどれだけ苦労したと思ってる!?同じ手は使えない。どうする!?)
「運が良ければ君達の戦争のお陰で、贄が溜まっているかもしれんな」
(そうだ。例え見つけても生贄が必要だからこそ、戦争が起きたのだ。
だが!だが!!
生き返らせるにはそれしか……)
ソロモンは邪悪な笑みを浮かべていた。
そして、一言。
「ギャップ」
瞬時にエンドの手に握られていたSSDがギャップの能力により奪われ、ソロモンの元へと渡される。
(チッ……もう少し聞き出したかったが……)
「ほう、これは、これは……
どうやら本物のようだ」
中身を確認したソロモンがもういいと手を振る。
「さぁ、取引成立だ。我らがアルステリアに侵攻すれば、お主らもレストデーンへ侵攻できるかもしれんな」
エンドが帰路についてすぐ、クラッシュがニヤニヤと口を開く。
「軍務卿も人が悪い……」
「フッ……
嘘はついていないのだがな」
ここまで上機嫌なソロモンをネームド達もあまり見た事はなかった。
しかし、上機嫌になるのも分かる理由がある。
それほどに計画は上手くいっている。
「既に貴方が生贄を消費しておりますでしょう?」
クラッシュの話にニヤリと笑うソロモン。
「彼は実に有能だよ……
皇帝崩御の混乱の中潜入するのも大変だったのだ。
戦後の混乱が落ち着いた今、アルステリアに侵入してこうして目標を達成したのだから。
……そんな彼にはもう少し夢を見せてあげようと思ってね」
「アルステリアとメラリアの戦争、かなりの死者を出してなお、軍務卿お1人分の贄しか溜まっていませんでした。
しかも……」
(エンドにはヒントすらない……)
ギャップはそう言って壁に並べられた調度品の1つに目を向ける。
最後の言葉はソロモンの機嫌を損ねるかもしれないと、飲み込んだ。
「真実ほど、人を容易く操るのだよ」
ギャップが目を向けた先。
それは黄金でできた石盤。
そこには生者の柩のヒントが刻まれている。
そう、後にリリーナが祭壇を見つけた時にはもう無くなっていた石盤。
その石盤はこの時、既にソロモン軍務卿の元に飾られていた。
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