165.灰色の脳細胞
『リリーナ、母であるマリー博士から聞いたとのことだが、具体的にどんな話を聞いていたんだ?』
テレーズ長官の声が、静かに響き、視線が私に集まる。
私はドッキドキである。
き、き、き、来ちゃったよぉー!
頑張れー!私の灰色の脳細胞!
私は一度だけ視線を落とし、ゆっくりと息を吐く。
「……母から、直接聞いたわけではありません」
ここを何とか乗り切らなきゃ。
「えっと。
昔、母の仕事部屋に入ってしまったことがあって……
その時に、記録を見てしまったんです。
当時は意味が分かりませんでした。
でも……
今回の件で思い出したんです。
この件ってあの時のやつじゃないかって...」
『……その記録内容に祭壇の記載が?』
ダニエル・ヴォーン大将の低い声。
私は小さく頷く。
「はい。
【生者の柩】と呼ばれるレガシーアイテムについての記述がありました」
何とか捻りだす、言い訳。
「死者を動かす…ゾンビ。あるいは、生者に不死性を与える柩であると。
ゾンビ化した現状とその祭壇が【生者の柩】であることは明らかでした。
それで、記憶に残っていたやり方を試した形です」
『なるほど、先帝の件で調べていたのか?』
「たぶん。……そうだと思いますが、正確なところは分かりません」
『ふむ、その記録は残っているかな?』
「おそらく、襲撃された時に失われたかと」
……
な、なにかおかしかったかな?
ちょっとした沈黙が怖い。
『それは残念だな。マリー博士の記録があれば調査がかなり前進しそうだったのだがな』
そういう沈黙だったのか。
テレーズ長官が少し悔しそうに言う。
『安全が確認出来たら、研究チームを送る。後で知ってる部分は共有してもらうぞ』
「了解ですっ!」
よ、ヨッシャ。私はやりきったぞ。
凄い!
というか、これで通せる母さんが凄い!
『では、祭壇の件は後の調査に委ねるとしよう。
状況としてはメラリアによる起動とみて間違いないか?』
「おそらくメラリアで間違いないかと。
祭壇近くに数時間以内にやられたと思われるメラリア軍の死体が2体。
丁寧に並べられていました。」
それはスラスラ答えられる。
「それに関連して、私から続報が…」
スティーブンさんが話し出す。
何かあったのかな?
「つい先程、メラリア軍幹部を1名捕らえました。その者からある程度の話が聞けるかと」
おぉ…
誰か捕まえたんか。
ゾンビで追撃とか全然出来てなかったはずなのに…
メラリアの幹部とか、私どうせ知らないなぁー。
『それは朗報だな。誰を捕らえた?』
「はい。ネームド【ガイア】です」
っ!?
凄い!私でも知ってた!!
私だけでなく、皆驚いている。
本当についさっきなのだろう。
通信先ではなく、ここにいるメンバーでも知らなかった人は驚いているようだ。
私も本物のガイア見たいなぁ。
「ランドルフ中佐によるシーランの爆撃から、土壁の生成を繰り返して、ギリギリ耐えたようですが……
今は憔悴しきっていますので、聞き取りはもう少し回復してからになりそうです」
「あれを耐えたのか、すげぇな……」
ショーンさんが小さく呟いている。
『それは快挙だ!』
ヴォーン大将も声色が明らかに上がっていた。
これまでにない戦果なんだろう。
『普通、対ネームドは死闘になる可能性が高いのだがな…』
テレーズ長官の一言で何となく私に視線が向いた気がする。
「……シーランまた撃ちたいなぁ」
「っ!?」
私の呟きにショーンさんが過剰に反応する。
ショーンさん動きがうるさいよ……
『…ククッ。レガシーウェポンは国家の管理となる。陛下の許可が下れば、また使うことになるだろう』
「はいっ!」
私の呟きは向こうにも届いたようで、テレーズ長官に反応されてしまった。
流石に私の物には出来ないか……
使えればそれでいいと割り切ろう。
『では、ガイアの聴取は分かり次第頼むぞ』
「はい」
『追って交代部隊が到着する。引き継ぎ後、帰路に着いてくれ。改めて。みな、今回はよくやってくれた』
ザザッ……
敬礼して、通信が切れる。
張り詰めていた空気が、一気に緩んだ。
何とかなったようで、肩の荷がおりた。
「リリーナ、腹減ったろ。飯は向こうだぞ」
ショーンさんが腹減ったーと言いながら歩き出す。
私もお腹空いたよ。
歩き出そうとした時、肩にポンっと手が置かれた。
「ランドルフ中佐」
スティーブンさんの声。
私はそちらを見る。
堅苦しい感じの呼び方、真面目なスティーブンさんらしい。
私が呼ばれ慣れなくて、手を置かれなければ気付かなかったかも。
なんだろう?
「ランドルフ中佐は、祭壇やドラゴンの事をマリー博士から聞いて、ご存知だったのですよね?」
真っ直ぐな視線。
さっきの説明を確認され、私の心臓が跳ねる。
私は一瞬だけ、間を置いて...
「…はい」
さっきと同じ答え。
「ありがとうございます。また命を助けられましたね」
スティーブンさんが肩をすくめて、笑う。
手を握られ握手する。
疑われたのかと思った。びっくりしたよ。
「あ、ハハッ。良かったです。皆に被害がなくて」
本当に良かったよ。ゾンビとかドラゴンとかもう勘弁して欲しいね。
「リリーナさんがいれば私達も心強いですよ」
「任せて下さい!これしか出来ませんが、仲間は守りますよぉ!」
私は空いていた手で力こぶを作る。
「ふふっ。頼りにしてます。
すいません、呼び止めてしまって。ご飯これからですよね?たくさん召し上がって英気を養って下さい」
手を振って送り出してくれるスティーブンさん。
「ありがとうございます!あれ?スティーブンさんは行かないんですか?」
「えぇ、私はちょっと仕事があるので、終わってから……」
「うわっ。大変ですね!では、お先に失礼します!」
スティーブンさんは大変だなぁ。
でも、見るからに仕事出来る人だもんな。
ガイアから話を聞かなきゃいけないだろうし。
そういえばガイア見たいって言えば良かった。
明日言ってみよーっと。
今はご飯を食べなければ。
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side:参謀本部スティーブン・ウルフ
ザザッ……
私は通信を繋ぐ。
『して、分かったか?』
連絡した上司であるダニエル・ヴォーン大将が出る。
この問いはガイアの話ではない。
先程の通信中、ヴォーン大将から確認するように、合図があった。
それが無くても、私自身もやっておこうと思ったこと。
私の能力は直接触れていなければ分からない、戦闘にも不向きな力。
だが、精度は確実だ。
「はい……
先程のお話、リリーナ・ランドルフ中佐は嘘をついています」
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