162.慣れ
蠢くゾンビが蔓延し、炎が走る地獄のような戦場。
その中心に……リリーナがいた。
激しい攻防の中、カオスドラゴンが大きくダメージを受け、一呼吸置かれたタイミング。
そこで、リリーナの影が不自然に揺れる。
「来たぞォ!!」
ショーンの怒号と共に、数人が飛び出す。
アラン、オルガ、ドロシー、イーノス。
選ばれた少数精鋭だけが、この地獄へ足を踏み入れていた。
十分に距離を置いた周囲では、ロジェを始めとした別働隊がゾンビの群れを少しでも減らそうと尽力している。
中心部と周囲で戦場が分けられている状況だ。
「……」
リリーナは視線をカオスドラゴンに固定したまま、ショーン達を認識する。
「なんで来たんですか!?」
リリーナの苛立ちにも似た声が飛ぶ。
「手伝うぞ!」
ショーンが吠える。
「問題ありません。下がってください!」
ショーンには視線を合わせないまま、リリーナが答える。
「ッ!!…お前一人で抱え込むなッ!」
その言葉に、リリーナの表情が僅かに歪む。
「違ッ……!」
弾き返すように言い返す。
「これは私が……」
直後、カオスドラゴンの前脚がリリーナに向けて振り下ろされる。
「危ねぇッ!!」
ショーンが叫ぶ。
だが、その瞬間には既に、リリーナは動いていた。
その巨体に有るまじきスピード。
そして、巨体通りの人間とは比較にならない力で振るわれた前脚は地面を抉る。
衝撃が少し後方のショーン達にも伝わった。
間近で見るカオスドラゴンの攻撃に、ショーンは自身が楽観していたことを悟る。
そもそも、近接特化のネームドである自身でも、躱せるかギリギリの攻撃。
特務機関でもアランなど、精鋭のみを連れてきたつもりだった。
……十分に警戒していたはずだった。
それでも、ショーンの想像を遥かに超えたカオスドラゴンが相手では、舐めていた、そういった形になってしまった。
それはショーンだけではない、アラン以外全員同じだった。
しかし、硬直している時間はない。
ゾンビが再び近付いている。
リリーナの銃がそれを撃ち抜いたことで、我に返る。
「ッ!!揉めるのは後!」
オルガが短く告げる。
「リリーナ!ゾンビだけでもこっちで倒すよ!」
ズガンッ!
イーノスの一撃がゾンビを吹き飛ばす。
「そうだ、一人でやる必要はねぇ!おめぇはドラゴンに集中しろ!分担だ!!」
再びのショーンの声に、リリーナは息を詰まらせた。
(違う……
私は誰も巻き込みたくないだけなのに……)
だが、その想いは伝わらない。
彼らには、“気遣われている”ようにしか聞こえない。カオスドラゴンは無理だと分かった。それでもゾンビを処理する手伝いは出来る。
「……分かりました」
短く吐き出す。
「周りのゾンビは全部お願いします」
一瞬の間。
「任せろ!!」
ショーンが笑う。
「ドラゴンは任せたからな!!」
ショーンの張り上げた声。
リリーナは小さく頷く。
(ゾンビだけなら……このメンバーなら、大丈夫か……
正直、ドラゴンに集中出来るのは助かる)
「…フッ………はいッ!!
全員、ゾンビを殲滅!輪になって背中をカバーし合って!!」
「「了解!」」
「OKー!」
「おう!」
役割が決まった。
ガガガガガッ!!
銃撃が再開される。
リリーナだけ横に走り、カオスドラゴンが隠そうとする肩口へ、正確に弾丸が叩き込まれる。
ショーン達はリリーナの少し後方でゾンビを殲滅する。リリーナの周りへ向かうゾンビは、ショーンから援護が飛んでいた。
「この数相手に戦ってたなんて……」
ドロシーの声。
それでも、ゾンビの波が止まらない。
撃っても撃っても、押し寄せてくる。
「このッ!」
「リリーナの方に行かせるな!!」
「まだ、押されてる……」
冷静に状況を分析するオルガ。
まだ完全にリリーナをフリーにすることが出来ない。
そんな時、ひやり……と空気が変わる。
次の瞬間。
バキバキバキバキッ!!
凍結音。
イーノスの目の前でゾンビが氷に貫かれる。
地面から突き出る氷柱は、大きさに差異がある範囲を意識した形だった。
そんな氷の上、一部だけ平らな場所を走ってくる人物……
「私も援護しますッ!!」
シアの到着である。
「いいタイミングだぁ!」
ショーンが喜ぶ。
「エマちゃんは?」
「アッシュに預けて来ました」
アランへと答えるシア。カオスドラゴンの咆哮は城壁まで届いていた。
シアは保護したエマを信頼する者に託して、こちらへと駆け付けたのだ。
そのスラリと伸びた手が軽く振られると、氷が弾ける。
パキィンッ!!
周囲の氷はまとめて砕け散った。
「……はは、頼もしいなぁ、おい!」
ショーンが乾いた笑いを漏らす。
ほとんどネームドレベルの能力の行使。
ショーンとオルガの苦手分野となる広範囲攻撃は、今、この戦場において最も欲しかったものだった。
戦場の圧が、一気に変わる。
ゾンビの押し寄せる量を、殲滅速度が上回る。
「フフッ!……アハハッ!……
シアまで来ちゃったか…………」
「リリちゃーん!!」
シアが叫ぶ。
「こっちは任せてー!」
シアの声はカオスドラゴンと対峙するリリーナにもしっかりと届いている。
「……ホントにもう……全く……」
言葉とは裏腹に、リリーナの口元は笑っていた。
絶対に怪我をさせたくなくて遠ざけた。
それでも尚、来てしまったことに苛立ちさえ覚えたリリーナだった。
でも、今は……
仲間の頼もしさをヒシヒシと感じていた。
「陣形そのまま!ドラゴンを中心にして、時計周りに周回!ゾンビを殲滅せよ!」
リリーナの瞳孔が開く……
「ヒヒッ!楽しくなってきた……」
視界が、神経が、研ぎ澄まされる。
前世のリリーナが所属していたチームの名は【月光】。
そこでのリリーナの役割はサブアタッカー兼司令塔である。
メインアタッカーと遜色ないレベルの攻撃力は、他チームのエースを凌ぐ。
そして、指揮を取りながら攻撃するその存在は、他のチームにとって最も警戒されていた。
そう、リリーナにとってソロ攻略は慣れ親しんだものではない。
むしろ、ソロではテンションは上がりにくく、本人が真面目にやっていても、気付かぬうちに集中力は低下していた。
リリーナのパフォーマンスは仲間と共に戦闘することで、テンションが上がり、最大限発揮される。
今、仲間がゾンビを殲滅……
背中を守ってくれている。
リリーナの目の前にはカオスドラゴン。
ガガガガガッ!!
弱点へ、連続射撃。
グォォオオオオ!!
咆哮と共に暴れ、攻撃するカオスドラゴン。
爪が、尻尾が、その顎が、嵐のように振るわれる。
一撃でも受けたら死ぬ。そんな猛攻を、リリーナは紙一重で躱しながら、発砲する。
「ハハッ!オラァァ!!」
これだけ暴れるカオスドラゴンの鱗に弾かれる弾丸は少なく、大多数が弱点部位へと着弾する。
グオォォオオオ!!
的確な射撃は恐ろしいまでの精度だった。
削っていくカオスドラゴンの体力。
もし、HPゲージが見えていたのなら、1割を切った。
その時だった。
カオスドラゴンの動きが止まり、息が吸われる。
ブレスと同様の動作...
しかし、先程までのブレスと違う部分が1つ。
口元から漏れ出る炎が赤から、青く変化していること。
「来る……」
リリーナの目が細まる。
カオスドラゴンが、ゆっくりと頭を持ち上げた。
その瞳はリリーナを完全に捉えていた。
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