163.最後の攻防
カオスドラゴンの喉奥が、白く…灼けるように輝いた。
それは、これまでのブレスとは明らかに違う。
赤から青へ変化し、今はもう、全てを“消し飛ばす”ためだけの、純白の炎。
空気が震える。
いや、震えるなどという生易しいものではない。
空間そのものが悲鳴を上げていた。
「シア!!」
リリーナが叫ぶ。
言葉は、それだけだった。
だが、シアにはそれで十分である。
「りょうッ!」
リリーナが屈んでジャンプの体勢、銃口は上。
「かいッ!」
返事をしながら、生成する。
バキィッ!!
リリーナの足元から、氷柱が爆発的に隆起する。
一直線に天へと伸びる氷柱はリリーナを空へと跳ね上げる。
氷の隆起に合わせリリーナ自身もジャンプする。風を切り、カオスドラゴンの巨体より、更に高く上空へ。
一瞬の出来事。
学生時代から行っていた2人、阿吽の呼吸は今でも健在だった。
リリーナは一気に高度を稼ぎ、カオスドラゴンの頭上へと高く、高く上がる。
頂点に達した時、両者の視線が、交錯する。
落下するリリーナ。
見上げるカオスドラゴン。
一瞬の静止。
世界が、止まったかのような錯覚。
………次の瞬間。
グォォォォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!
放たれる、最大火力。
白炎。
それはもう“燃やす”のではない。
触れたもの全てを、存在ごと消し去る滅びの炎。
夜空を貫き、天へと伸びる破滅の柱。
ショーン達地上にいるもの達はその余波だけで、動けない。
その滅びの奔流の中心にリリーナはいる。
「オラァァアア!!」
シールドと青白い炎が、球状の光壁を完全に飲み込む。
バチバチバチバチッ!!
シールドが軋み、悲鳴を上げる。
リリーナは全力で魔力を練り上げる。魔力が大量にシールドへと供給され、なんとか均衡を保っていた。
「ふんぐぅぅ!!」
ゆっくりと落下しながら、撃ち続けているリリーナ。
炎の中。
視界は白。
リリーナには、正確に“見えている”。
弾丸が、一直線にカオスドラゴンの口内へ向かう。
始めは弾丸が焼失していた。
だが少しずつ、2人の距離が縮むことで……
弾丸が口内に届く…
止まる滅びの奔流。
カチッ!
ガチンッ!!
マガジンが空になると同時。
リリーナがシールドごと、その顎に挟まれた。
「ッ――!!」
カオスドラゴンがリリーナのシールドを噛み締める。
ピシッ……
ピシ、ピシッ……
大質量の城壁に巻き込まれても耐えたリリーナのシールドに亀裂が走る。
カオスドラゴンが勝利を確信した時。
「……ニヒッ」
リリーナも笑った…..
リリーナの両手はとっくに銃を持っていない。
両の手のひらを開いた指には、銀色の細いピンが2つ引っかかっているのみ。
……コンッ、コンッ。
転がって、カオスドラゴンの喉へ落ちていくのは
……フラググレネードである。
一瞬の静寂。
そして
ドォォォォォォォォォンッ!!!
内部から爆発。
カオスドラゴンの首が弾け飛んだ。
黒煙と血飛沫が、舞う。
巨体が、ぐらりと揺れ…
ズゥゥゥゥゥン……
大地を震わせながら、崩れ落ちた。
カオスドラゴン、討伐完了である。
「……はぁ……ッ……はぁ……」
カオスドラゴンの顔と共に落下したリリーナは、その口元で動けずにいた。
片膝をつき、汗が溢れる。
全身が痺れるように痛む。
城壁の崩壊時に使った時よりも、更に酷かった。
(……さすがに……使い過ぎた……)
息が荒い。
しかし……戦いはまだ終わっていなかった。
「まだだ!!来るぞ!!」
ショーンの叫び。
周囲には、まだ無数のゾンビがいる。
「リリちゃんッ!」
シアが動けないでいるリリーナを確認した。
「リリーナを守れ!」
「ッ!!」
リリーナを囲うように配置、回復能力のあるイーノスだけがリリーナに駆け寄る。
「大丈夫かッ!?」
「…ちょっと、魔力…使い過ぎた……」
「魔力欠乏か………じっとして、後は僕らに任せて!」
イーノスの手元が淡く輝き、リリーナの背に優しく触れる。
「回復しつつ、魔力を渡す。魔力譲渡は効率悪いけど、少しは楽になるはず」
心配そうにチラチラと振り返るシアに、軽く手を挙げて答えるリリーナ。
シアはホッと胸を撫で下ろす。
「ん、助かる……後は、今いるゾンビを倒すだけ……」
「そうなの!?分かった。
みんな!!後は今いるゾンビを殲滅すれば良いそうだ!!」
イーノスが叫んでショーン達に知らせた。
未だ終わりが見えない大量のゾンビ相手だが、全員の顔に希望が灯る。
「まとめて凍らせます!!」
シアが両手を広げる。
冷気が一帯を包み込む。
バキバキバキバキバキィッ!!
地面から氷柱が乱立し、正面の百を超えるゾンビが串刺しになった。
だが、これで終わらない。
パキィンッ!!
一気に砕け散る氷。
「今です!」
氷で通らなくなった射線が再び確保される。
死んでいるゾンビは倒れ、部位が欠損したゾンビは速度が低下、銃弾に倒れる。
かなりの量のゾンビを倒したが…
それでも、まだ奥からゾンビが近付いてくる。
「うそ…まだあんなにいるの?」
「ゾンビだけって言っても……」
ドロシーやアランでさえ動揺が走る。
「さっきのドラゴンに比べりゃ楽なもんだろッ!!」
ショーンが発破をかけるが、ゾンビの数に内心焦りを感じていた。
その時……
ゴォォォォォォォォォォッ!!
新たな炎。
ゾンビの群れが、一瞬で焼き払われる。
「ッ!?」
心臓が跳ねる。
誰もが驚いた…
……ドラゴンは、もう倒したはず。
「はッはっは!私が来たからには、もう大丈夫だよ!」
聞き覚えのある、調子の良い声。
「…….ったく、あの声が良く聞こえるとは」
悪態をつくショーンは笑っていた。
「待たせたようだね!!」
炎帝、デイビッドの到着である。
「すまないが、加減は出来ないよ…」
デイビッドによる広範囲への火炎攻撃は、レストデーン全域から集まっていたゾンビをまとめて火葬する。
一方で、冷気が満ち、2mを超える氷の柱が大量に伸びていた。
リリーナにいい所を見せたいと、気合いの入ったシアによる能力行使である。
デイビッドに比べれば半分程度の範囲に留まるが、銃器による殲滅速度とは比較にならない速度でゾンビを倒していく。
結果的に、デイビッドやシアの活躍により、一夜にして大部分のゾンビを駆逐することに成功したのだった。




