157.三つ目
「え!?え??不老不死っ!?」
ロジェが慌てる。
しょうがない反応だろう。
……要するにだ。
先代皇帝が不老不死になろうとしてた、レガシーアイテムがこの【生者の柩】。
状況的にエンドが不老不死になってる可能性が高いって話だ。
場に沈黙が落ちた。
ただ、祭壇の淡い光だけが、静かに脈打っている。
「……倒せない、ってことですか?」
ロジェが当然の疑問を口にする。
「いや……絶対倒せないって、わけじゃない」
私は視線を柩へ向けたまま答える。
「この強化は、リセットできる」
二人の視線が、同時に私へ向く。
「この【生者の柩】。これを使えば強化状態は初期化できる」
「つまり……エンドの不老不死も?」
「はい。理屈上は、ですね」
本来は強化先を変更するためのリセット仕様であるが、強化を戻せるなら同じだ。
「不老不死で、ネームド殺しとも言われる程のネームド【エンド】を捕縛して、ここまで連れてくる必要があると、ははッ!」
アランさんはそう言いながら、笑えてきたようだ。大変なのは明らかだから…
「だけど、やるしかない」
私は一度、深く息を吸った。
「まずは、このゾンビ事態を終わらせる。それが最優先です」
頷きが返ってくる。
「……ん、あれ?」
アランさんがメラリア兵の後ろに視線を落とす。
視線の先、ライトで照らされた物は、黒ずんだ、乾いた塊。
それは心臓の形をしているが、干からびているうえに、穴が空いていたりと、明らかに動けるような様相をしていない見た目だった。
それでも、ドクン、ドクンと動いていた。
まさかだよ。
「【死者の心臓】です」
拾い上げながら、アランさん達にも見せる。
「マジ?このキモいのが?触って大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫ですよ……キモいですけどね!
……てか、もうあと一個じゃないですか」
一気に現実感が変わる。
「残りは【輪廻の鍵】だけです!」
「そう……なのか?」
そうなんですよ。
エンドだろうか?既に探索をして集めていた者がいたようだ。探せば輪廻の鍵もないかな?
「一気に近付いた感じしますね」
ロジェの声にも、わずかな希望が混じる。
私は周囲を見渡す。
「まだ全然確認できてないですから。探しましょう」
しかし、祭壇周りにはもうなにも見つからなかった。
そうなると、この空間は広い。
多分、東京ドームくらい広い。……きっとね。
私達はその中央の祭壇しか確認していなかった。
祭壇以外は大きな岩石が散らばっており細道が出来ている状態。岩石の高さは最大でも2m程なので、とりあえず、どこに行っても光ってる祭壇だけは分かるが、物陰は多いって感じだ。
ゾンビモードの際はこの物陰が厄介なんだけど、今は何も私の目に映らない。
マップは分かるから、とりあえず輪廻の鍵がある洞窟へ向かおう。
「こっちに行きます」
三人で頷き、歩き出す。
──────────
祭壇の光が届かない場所は、闇だ。地下のため全く光源がなく、ライトだけが頼りだった。
「……う、わッ」
少し進んだだけで見えてきたものに、ロジェが顔をしかめた。
死体が転がっていたのである。
一体、二体じゃない。
もっとたくさんの、数え切れないレベルだった。
白骨化したもの。
ミイラのような状態のもの。
ゾンビ化したであろうもの。
「……ひっどいな」
アランさんも低く呟く。
白骨化している死体は、衣服すら残っていない。
骨だけが、無造作に転がっている。
「装備も、全部持っていかれてる……」
どこの誰なのかさえ分からない。
「白骨化しているのは、先帝時代のものかな?劣化具合は同じに見えるね」
「アランさんの言う通り、先帝の時代に、ここを発見して調査を進めていたって、ことですかね?
その死体をエンドが漁った?
でも、だとしたらなんで衣服まで?」
「確かにね、分からないことが多い……」
「まぁ、後で専門家に見てもらいましょう。洞窟はこっちです」
記憶を頼りに、私は奥を指す。
本来なら、その3つのアイテムごとに各洞窟を探索し、クリアして集めるのだ。
残りの【輪廻の鍵】の洞窟があるはずだった。
だが……
「……崩れてる」
洞窟の入口は岩で完全に塞がれていた。
「確かに、ここだけ窪んでいる形跡が……」
アランさんがライトで照らしながら確認する。
私は壁に手を触れる。
洞窟はアイテムを取得したら崩壊する仕様だったはず。つまり、【輪廻の鍵】は既に取得されている可能性が高い。
「……既に誰かが取った後のようです」
「ガイアの影響じゃないのか?」
「あ……」
アランさんの指摘に言葉が詰まる。
見逃していた。確かにその可能性がある。
そうなるともう手出しできない。
最悪の可能性だ。
「それ、まずいですよ。
この洞窟を掘り起こさなきゃいけなくなります。
しかも、【輪廻の鍵】が持ち出されていたら、もう……」
沈黙が落ちる。
「もしかしたら、見逃してるだけかもしれません。祭壇付近も再度確認しましょう」
ロジェが前向きにそう話して歩きだす。
その時。
「……うおっ!?」
ロジェがなにかに足を取られ、よろめいた。
「フッ、気をつけろぉ」
アランさんがすぐに支える。
「す、すみません……なんかに躓いて……」
ライトが足元を照らす。
そこにあったのは1つの死体。
「……死体?」
一体の、白骨化した死体だった。
「……は?」
アランさんの声が、変わる。
私も軍服に目がいった。
アルステリア軍のもの。そう、この白骨死体だけは服を着ていたのだ。
頭にはバンダナまでつけており、ドックタグも残っている。
でも、アランさんにとっては、それだけじゃなかった。
「……オヤジ?」
「え……」
ロジェが息を呑む。
アランさんは、その場に膝をついていた。
「……嘘だろ」
震える手で、死体の肩に触れる。
服は年季が入っているだけではなく、銃創や鋭利なもので斬られた痕が残っており、ボロボロだった。
だが、その下に刻まれた傷が、更に異様だった。
丈夫な骨のようで、しっかりと形の残っているが、骨にまで戦闘の傷痕が残っているのだ。
あばら骨には銃弾がめり込んでいる。
腕や肩口は斬られたのだろう痕。軍服と完全に一致する。
更には背後の大岩には血痕と共に弾痕が大量に残っていた。
「……きっと、最後まで戦ったんですね」
「……そうみたいだな」
オヤジさんのドックタグを回収するアランさんは悲しそうな顔をしていた。
私はアランさんのその顔が怪訝な表情に変わるのを見た。
死体の中、正確に言えば骨の内側に何かがあった。
「……?」
光が、あった。
ほんの僅かに。
ライトを反射した、それだけのはずなのに妙に目に残る。
「……何か、ある」
アランさんの手が、ゆっくりと骨の隙間へ入る。
止まる。
一瞬、躊躇ったのが分かった。
「……ッ」
指先が何かに触れ、引き抜こうとしている。
「……引っかかってるな」
更に力を込める。
コリ、と嫌な音がした。
骨の内側から、何かが外れる。
ゆっくりと、引き抜かれるそれ。
最初に見えたのは、光る角だった。
小さい、箱状の
「……それ」
胸の奥が、ざわつく。
見覚えがある。
あり得ないはずの場所から完全に引き抜かれる。
淡く、歪な光を放つ小箱。
……確信に変わる。
「アハハッ!【輪廻の鍵】」
私は気持ちが振り切って、笑みが零れた。
これで三つ、揃った。
「ハハッ……マジか。この箱が……」
アランさんが、輪廻の鍵を見つめる。
「きっと、アランさんのお父さんが、護ったんです」
「……そうなんだろうか?」
「そうに決まってますよ。さっきの身元不明の白骨化した遺体と劣化具合が似ています。
同時期だとすると痕跡を消したかった何者かと戦闘したってのが自然です。
正体不明の集団から鍵を護ったんですよ。
明らかにゾンビと戦った痕跡じゃないですから……」
「……多分、【シャドウ】の能力ならこの箱を体内に隠すことも可能だ……
………そうか。そうだな」
その目には、さっきまでとは違う光が宿っていた。
アランさんは長い間行方不明だったであろう父の死を前にして、前を向いている。
私は、小さく頷いた。
「……うん」
三つ全部揃った。
ここからが、本番だ。




