158.顕現
私達は祭壇に戻り、最終手順を行う。
【死者の心臓】
【生者の心臓】
そして、【輪廻の鍵】
必要なアイテムが全てある。
「それでは儀式を行って、ゾンビの出現を止めますね」
「頼む」
「はいッ!」
私は記憶を呼び覚ます。
「えーと、まずあそこを撃ちます」
私は銃を構え、頭上を照らす。遠くて分かりにくいが、洞窟の天井を覆うように鎖が伸びている。
その鎖の付け根は祭壇四隅の柱の真上だ。
そこを全て撃ち抜く。
バキンッ!
なにかロックが外れた音が鳴り響いた。
ズズズズズ……
祭壇四隅の柱が地面から更にせり上がってくる。それ以外にも、2つの台座も地面から上がってくる。
ゲームでやっていたとはいえ、現実に起こると凄い。
古代の遺跡を調査している気分になる。
知っている私でさえこうなのだ。
アランさんやロジェは開いた口が塞がらない。
地面から上がってきた柱は、黄金に輝いていた。全て純金でできたそれに彫られた紋様は変わらず何故か発光している。
売ればとんでもない価値だろうなぁ。
「【死者の心臓】を、ここに」
新たな台座の1つに今なお鼓動を鳴らす心臓を置く。
「【生者の心臓】は、こっち」
もう1つの台座には今は動いていない心臓を置く。
ゲームだとここでゾンビが大量に湧いて来るんだけど、私の目に敵は映らない。やっぱり現実である以上、無から有は作れないようだ。
なら、あとは簡単だ。
「仕上げです!準備はいいですね?」
「了解ッ」
「はいッ」
私は【輪廻の鍵】の片側をクルッと捻る。連動してもう片側が開き、出てくる歪な突起。
星型のようだが、角は凸凹している。
鍵の中からは、紫紺の煙が中に収められた水晶が見える。
これが本来の【輪廻の鍵】の姿。これが【生者の柩】にある窪みにピッタリと嵌る。
そこでロジェが疑問を口にした。
「あ、あの、その強化とかって俺達もできないんですか?」
そういえば、あんまり説明してなかったね。
「強化には必要なものがあるんだよ」
「忘れたのか?先帝が何故戦争を起こしたのか」
アランさんの言葉にロジェも話が繋がったようだ。ハッとした顔をしている。
「そう、強化に必要なのは大量の生贄。ここ周辺で死亡した人がカウントされていく。
だから先帝は戦争を起こしたんだね。
でもね。生贄が必要数溜まっていれば強化されるけど、生贄が足りないとペナルティが発生するの。
ゾンビが大量発生するって、ペナ……ル…………?」
ん?
あれ?
そもそも、今、レストデーンで起きているこの現象は、もしかしてペナルティなのでは?
ゾンビモードって最初からゾンビばっかり出てくるから勘違いしていたけど、あの紫紺の煙はペナルティのものだ。
ペナルティなんて生贄の確認方法が判明してからは、無縁なもの過ぎて忘れていた。
か、か、か、完全に勘違いしてた!!
今はボスを倒してゾンビモードをクリアするんじゃなくて、ゾンビを全滅させるだけでよかったじゃん!
ガコンッ
「あッ!?」
それに気付いた時にはもう遅かった。
ゴゴゴゴゴ……
地鳴りが響き、柩の蓋がゆっくりスライドしていく。
柩の中はタールのような黒い液体が波打ち、緑の閃光が走る。
すると今度は柩の真上の岩盤が崩れる。
「下がって!」
「危ねぇ、下がれ下がれ!!」
落石から逃れるために下がる。
「ちょっと、これは想定外ですね……」
ヤバイ……
やらかしちゃった……
「予想外はしょうがないさ。
リリーナも聞いただけの知識だろ?こんなに出来るだけで上出来さ」
アランさんの言葉が私に刺さる。
ごめんなさい。そうじゃないんです、すいません。
今いるゾンビを殲滅すれば事態は収まるんです。
あのボス必要ありません!
「凄い、あの煙が吸い込まれて行きます!」
穴の空いた岩盤からは空を覆っていた紫紺の煙が【生者の柩】に吸い込まれていっていた。
ごめん。
嬉しそうに話すロジェに、私はいたたまれない。
い、言い訳させて貰えるとだ。
私、マルチがメインなので、ゾンビモードはあんまり記憶に無いと言いますか……
なんと言いますか……
そんなことを考えている間に、地上から吸い込まれていた紫紺の煙が途切れる。
全て吸い込んだのだ。
一瞬の静寂。
しかし、静かに柩の黒い液体が空中に浮かんでいく。
瞬く間に20m程の球体に膨らんだ液体は、風船のように破裂する。
グオオォォオオ!!!
大音量の咆哮。
ゾンビモードにおけるラスボスの顕現である。
ラスボスの口は大きく裂け、涎が垂れ、その瞳はこちらを認識していた。
……×3
記憶と同じ。
正にドラゴンと呼ぶべき顔が3つ伸びていた。
右の顔は漆黒の鱗に覆われ、圧倒的捕食者の圧を感じる。
左の顔は何故動いているのか分からない。鱗どころか皮膚さえも変質して、腐敗している。
ゾンビモードのラスボスとして納得の光景。
そして、中央の顔は2つを併せ持つ。
右は健全だが、左は腐敗し始めていた。
顔と同様にその身体もまた腐敗が進み、広げた左の翼は黒い皮膚が水分を失い、翼膜は干からびて穴が空いている。
その巨大な体躯、異様な姿、放たれる殺気は目の前のボスが尋常ならざる存在ということを感じさせる。
「ひゅ、ヒュドラ……」
「あ!そう!それだヒュドラ!
【カオスヒュドラ】ってやつ!
それじゃあ、ご一緒に!せーの!
腐ってやがる!!」
私の精一杯。
みんなでコイツに挑む時に言ってた言葉は、私の予想通り、私だけが言っていた。
2人ともゾンビモードのラスボスである【カオスヒュドラ】の存在感に飲まれていた。
確かに現実で見るコイツは凄いけど、私は今、それどころではない。
別に倒す必要のなかったボスだから……
「……ど、ど、どうしましょう?」
後退るロジェ。
本当に、どうしましょうね?
今やる必要のなかったボス戦。
私が忘れてたせいで、被害を出す訳にはいかない。
切り替えて、私は気合いを入れ直す。
「本気でやる」
私の知識を総動員し、現実となった今の私ならどこまでやれるか予測する。
失敗は許されないし、誰一人として死なせない。
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side:アラン
とんでもない事が目の前で起きている。
柩から三つ首のヒュドラが顕現した。その眼光は俺達を獲物として見据えている。
こんな奴が出るとは聞いてない!
いや、三つ首のドラゴンとは聞いた。
聞いたがあんな適当な説明で良いレベルのモンスターではない。
落ちる涎は、岩を溶かしていた。
どう考えてもこれは3人で相手にしていい敵じゃない。
世界の危機である。
「本気でやる」
呟くような一言。
リリーナの雰囲気が変わったのを感じ取る。
歳相応の態度から、戦闘モードに切り替わった。
「アラン、ロジェを連れて入口階段まで下がれ!」
「了解ッ!」
ほら、呼び捨てになった。
必要な指示を的確に下す。俺はすぐに従う。
能力を使って、ロジェと共に入口まで戻る。
俺はもう分かってる。
この状態のリリーナも十分に化け物だ。
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