第5話 消えた子供たち
ちょうど、エルゼンの村が目視できるところまできたアルンとベルシュ。
エルゼンの村への道のりは、あたり一面の花畑の間を縫うようにして進むことになる。
カーキナと呼ばれる、薄紫の花が見渡す限りを埋め尽くすその光景は、壮観であった。
「エルゼン染め」と呼ばれるカーキナの花を使った染め物で有名なこの村は、戦争に負けて以降、政治の腐敗、亜人、盗賊などさまざまな理由により陰鬱としたサンクオルにあって、珍しく活気に満ちていた。
村に到着したふたり。
「兵隊だー!」
村の子供たちが、少し離れたところからこちらを見ている。よそものが珍しいらしい。
村は一見すると、子供の数も多く賑やかな雰囲気である。
本当にこの村で失踪事件など起きているのだろうか……そうふたりが考えていたところ、村の男が声をかけてきた。
「おお! やっと人を送ってきたか! さあ、こっちへ来てくれよ」
村の男の案内で、ふたりはギルソンという、この村の自警団の団長を務める男に引き合わされることとなった。
ギルソンのいる自警団の詰め所に入るふたり。
「なんだ、本当に兵士を呼びやがったのか」
ギルソンは、二人の格好を見るや否や、そうつぶやいた。
ベルシュよりも大きな体に、剃髪された頭。眉はなく、威圧感が漂う。
確かに、この小さな、しかし豊かな村を亜人や盗賊から守るためには、これくらいの男が必要だろう、とベルシュは思った。
「子供の連続失踪事件……亜人か、盗賊か、何か心当たりはないのか?」
小さな椅子に、体を投げ出すように座り、腕を組んでいるギルソンに、ベルシュが尋ねた。
ギルソンはベルシュを睨みつける。
「そんなものはない。この村はおれたち自警団が守ってきた。それも、そもそもおまえたちが頼りにならないからそうしているんだ!」
ギルソンは、鋭い眼差しでふたりを見つめる。
アルンが、すがりつくような表情でベルシュのほうを向いた。
「亜人も盗賊も、この村には近づかせていない。こちらとしても、子供たちがいなくなった理由には検討もつかん」
自警団の詰め所を後にしたふたりは、村を見てまわる。
「あの男、おれたちのことを嫌っていたね。よそ者だからかな?」
アルンは、村の外に広がる花畑を眺めながら、つぶやいた。
「あの様子だと、自警団の連中の協力は期待できないな……」
ベルシュが、呆れたように言葉を吐き出した。
「とにかく、情報収集だ。村の連中から話を聞くぞ。二人で聞いてまわってもしょうがないから、手分けをしよう。おれは酒場にいく。アルン、おまえは子供たちから話を聞くんだ」
ベルシュの提案に、アルンは驚きの表情を見せる。
「まさか、酒を飲みにいくつもりじゃないだろうな!」
「馬鹿言え! 人が集まるところといえば酒場だろう」
「じゃあなんでおれは子供のところなんだよ」
アルンが眉をひそめる。
「子供がいなくなってるんだ。子供に聞くのが一番だろう」
「なら、逆でもいいだろ? おれが酒場にいくよ」
しばらくの沈黙の後、ベルシュが口を開いた。
「……おれは子供の相手をするのが苦手なんだ」
渋々とベルシュの提案を受け入れ、子供たちから話を聞くことにしたアルン。
村の中央にある井戸の周りで遊ぶ子供たちの元へ向かった。
「みんな、最近君たちの友達がいなくなる事件があっただろう? 何か知っていることはないかい?」
アルンは子供たちに警戒されないよう、努めてもの柔らかに質問した。
すると、生意気そうな少年が答えた。
「知らないよ、なにも」
「あっちで遊ぼうぜ」
子供たちは、アルンの元から離れていってしまった。
アルンは、ある種の違和感を覚えた。それは、よそ者であるアルンが警戒された、あるいは子供たちが人見知りであったということではなく、子供たちはなにかを隠している、そう直感に訴えるものがあったからだ。
連続子供失踪事件の解決、その緒を見つけたかに思えたアルン。しかし、子供たちからそれを聞き出す手段が思い浮かばなかった。
そのとき、アルンは視線を感じた。辺りを見まわすと、少し離れたところから、ひとりの少女がこちらを見ている。
なにかもの言いたげな、そんな雰囲気を感じたアルンは、少女のほうへ歩を進めた。




