第4話 剣の教え
フォルタン亜人警戒所に戻ったアルン、ベルシュ、シモンの三人は、御者を衛生兵に任せ、ダブリス隊長の元へ向かう。
そして、街道でスケアム族との戦闘があったことを報告した。
ダブリス隊長は、報告を受けると小さく唸るような声をあげ、頭を悩ませている様子であった。
その後、アルンとベルシュは警戒所内につくられた訓練所に向かう。訓練所といっても、木に藁を巻いた木人が数体、地面に突き立てられているだけの粗末なものである。
「なんだ、さっきの戦い方は……」
ベルシュは、アルンがスケアムとの戦いで見せた、拙い戦いっぷりをなじり始めた。
カナンディラとの戦争に敗れて以降、サンクオルでは軍の規律は乱れ、優秀な戦闘指導官が不足。アルンのような戦後に入隊した若い兵は、まともな戦闘訓練を受けずに前線に派遣されることも珍しいことではなくなっていた。
ベルシュは、訓練用の木剣をかまえると、木人とにらみ合いを演じて見せる。
「いいか、まず相手の動きをよくうかがって、隙を見て攻撃に転じる」
そう言うと、木剣で木人を斬りつけた。
「ただやみくもに剣を振り回すだけじゃだめだ。おれが相手になってやる」
アルンとベルシュが、木剣をかまえ対峙する。
「いいか、相手が攻撃してくるときには、必ずその予兆がある」
アルンは、ベルシュの動きを観察した。
足……腕……顔……ベルシュの言う、攻撃の予兆を探した。
そのとき、ベルシュが大きく息を吸い込み、胸のあたりが膨らんだように見えた。
次の瞬間、ベルシュは木剣を振りかぶり、アルンに斬りかかってきた。
アルンは、かろうじてそれをかわす。
アルンが、安堵するようにはっと息を吐いた。そのとき、アルンに攻撃をかわされ、地面に飛び込むような体勢になっていたベルシュから、足が飛んできた。
アルンは腹のあたりを蹴り飛ばされ、尻餅をつく。
「攻撃をかわしたら、すぐ反撃だ。まだまだ特訓が必要だな」
ベルシュによる指導は、日が暮れるまで続いた。
翌日、アルンとベルシュはダブリス隊長の元へ呼び出された。
ふたりは、スケアム族の活動が活発になっている件で、見回りの強化を命じられるものだとばかり考えていた。
しかし……
「ふたりにはエルゼンにいってもらいたい」
ダブリス隊長の口から、予想していなかった命令がくだされる。
「エルゼンって?」
アルンが、ベルシュの顔を覗くようにして尋ねる。
「エルゼンとは、ここからそう遠くないところにある村のことだ」
ベルシュが答えるより先に、ダブリス隊長が答えた。
「エルゼン? そこでもスケアムが出たんですか?」
ベルシュが腕を組み、尋ねる。
「いや……それが、エルゼンの村で子供が失踪する事件が相次いでいてな。人さらいかはたまた亜人の仕業か……ともかく、連日そのような報告がこちらにきている」
ダブリス隊長が、こめかみに指を当てて考え込み始める。
「スケアムの活動が活発になっている以上、そちらに人手を割かなければならんが、さすがにエルゼンの件も無視するわけにはいかん」
「そこで、おれたちふたりでなんとかしてこいと……」
「もちろん、詳細がわかり人手が必要なら追って派遣しよう。ベルシュ、おまえの腕を見込んでのことだ」
エルゼンの村へ出発するため、警戒所を後にするふたり。
「人探しなんだろ? 亜人と戦うより楽そうじゃないか」
アルンが頭の後ろで手を組むと、呑気にいいはなった。
「そうだといいがな……」
警戒所から見える、ふたりの背中が遠くなっていく。




