番外編。キャシーの生い立ち
村長の娘は悪役令嬢に入るんですか?
キャシーはさる小さな村の村長の娘であった。
豪奢な金髪、卵形の綺麗な輪郭、細く貴族の令嬢のように華奢な指。
パーツごとに光る部分があった。
しかし、小さい一重の小さな瞳、低い鼻、タラコ唇…髪と輪郭に対して顔のパーツが残念だった。
幼い子供の頃は己の容姿が人より劣っているとは思わず、金髪と細い指と村長の娘の身分と親バカな親は鏡が普及していない村で彼女を美少女だと思い込ませるには十分な条件を揃えていた。
因みに両親は地味な髪色で地味な顔だったが、実はお前は貴族のお姫様なんだよという出だしで始まる定番の子供向け寝物語の嘘をキャシーは信じこんでいたので、両親と自分は全く似ていないと思っていた。
少し成長すると流石に貴族の娘は嘘だったと知るが、祖母が美人だったので自分は彼女に似ているのだろうと思っていた。
因みに祖母は祖父が美人と再婚したので血縁関係は無いがキャシーはその事実を知らない。
更に成長するとキャシーは初めて自分のコンプレックスに気付く。
足が他の娘より足首が太いのだ。
所謂下半身デブである。
農作業の為にみんな膝下丈のスカートをはいているのだが、自分の足は太い方から数えた方が圧倒的に早い。
痩せてる女の子の中では群を抜いて太いことがショックであった。
キャシーは両親にワガママを言って特別に足首までのスカートを作ってもらい誤魔化した。
次に鏡が田舎であるこの村にも普及するとキャシーは自分の顔が人より地味である事を自覚する。
しかし、地味な顔は化粧でごまかせる。
キャシーは実家の財力にものを言わせ化粧品を買い漁った。
田舎娘が自己流で何も知らずにただ塗ったくった化粧はひどい出来映えだったが、キャシーは満足していた。
しかし、婚期の早い田舎で年頃になってもキャシーには声がかからなかった。
兄、姉たちに山ほど来ていた縁談が全く来ない。
舞踏会に出ては出会いがなくごちそうを食べてばかりいたらブクブクに太ってしまった。
地元が嫌になったキャシーは都会に出るために無理矢理お金を積んでC級の冒険者ライセンスを取得した。
田舎だからこそ出来る身分を使った荒業である。
冒険者ライセンスはC級があれば都市間の移動が容易になるので、キャシーのようにある程度身分や財力があれば裏で発行される事は珍しくなかった。
都会では遠い親戚の貴族を頼り、そこで正しい化粧を覚えた。
パーティーのドレスはコンプレックスの足首を隠す丈のがあり、実は足も短いのだが、ドレスのウエストを高めに作ってそれも誤魔化せた。
1年ほど貴族の令嬢たちに揉まれて過ごした事でキャシーは貴族の令嬢のように振る舞えるようになったが、恋には恵まれなかった。
失意のままコネで取得した冒険者ライセンスを使って使用人と共にクエストを受け始めた。
冒険者は意外にもキャシーには適職で、やがて彼女は単独でもクエストをこなせるようになる。
ふくよかだった体は引き締まり。
冒険者向けのブーツは彼女の足首をごまかしてくれる。
さらに都会には整形手術という技術があった。
彼女の細い目は小さいけれど二重にする事でパッチリした。
田舎の村の村長の娘ではなく、経歴も作り替えた。
途中で自分についていけなくなった使用人を見捨てたり、その後しれっとクエスト中に使用人が亡くなり困り果てている貴族の令嬢のフリをして、とあるC級冒険者のパーティに加わったりしながら荒稼ぎしては美容にお金を注ぎ込む。
そしてさるダンジョンのモンスター討伐イベントでゲストに呼ばれたS級冒険者パーティーを見て、彼女は恋に落ちた。
その後、時は流れパーティを抜けて故郷に帰ったキャシーは、そこで勇者となった彼に再会した。
あっさり振られた彼女はやがて勇者を憎むようになるのだが、それはまた別の話。