第一章 君の名は 二
「なんだ今の音は・・・」
ウィルは急いで窓から外を見る。
すると暗闇の向こうが少し明るくなっていた。松明を持って続々と村人が集まってくる。
「―――ッ!!!!」
村中に威厳を示す様に、雄叫びをあげる何か。
ウィルは立てかけてあった剣を手に、部屋を後にしようとする。ドアを開け部屋の外へ一歩足を踏み出したところで、少女の事を思いだし、様子を見る。
幸いにも、さっきの音で起きてはいない様だった。確認した後、ウィルは完全に部屋から出ていった。
「・・・・・・ウィル」
***
外には松明を持つ物、武器を持つ物、不安そうに部屋の窓から様子を伺っているものもいた。
外に宿屋の主人を見つけ、肩を掴む。
「おお、ウィルか・・・」
その表情からは不安を感じる。
「主人、何があった?」
「それが・・・」
宿屋の主人は暗闇の方へと指を差し、
「獣が畑を荒らしているみたいなんだ。村の若者は武器を持っていったが、かなり大きいらしい・・・立ち向かえるかどうか」
ウィルは暗闇の先を見据える、本当に戦っているのだろうか、音が全く聞こえない。
「解った、俺も行く」
「お、おい」
心配する声を無視し、暗闇の方へと歩く。
―昼間に戦ったヤツの仲間か。
畑まで着くと、目を疑う光景が広がっていた。
音がしなかったのは、此処に辿り着いていた若者たちは、早々に戦闘不能に陥っていたからだ。
近くに転がっている村人の口元に手をやると、息をしていた。急げばまだ助かる筈だ。
「ウィルさん」
か細い声で何処かから呼び止められ、声の方へ振り返る。するとむくりと起き上がり、痛む体を我慢している若者が居た。ウィルは、急いで駆け寄る。
「ウィルさん・・・昼間のヤツとは・・・比べ物にならないです・・・・・・あなたにも倒せるか・・・どうか・・・うっ」
「大丈夫だ、俺が仕留める」
ウィルはそういうと、村人の手を力強く握りしめた。村人はゆっくりと立ち上がり、
「俺、村に居るウンディーネを呼んできます。治療してもらわないと、皆死んでしまう」
「解った、頼んだぞ」
村人は一瞬笑顔を見せ、足を引きずりながらこの場を後にした。
また静かになった、暗闇の方へと歩みを進める。
「ブルル・・・ブルル…」
獲物に近づいているのか、段々と獣の息の音が大きくなっていく。
ウィルは剣を両手で握りしめなおした。
「・・・でかいな」
月明かりに照らされたヤツは、昼間に倒したヤツより二倍はあった。
「でも、倒さなきゃ…なッ!!!!」
ウィルは地面を力強く蹴る。
相手の額へと狙いを定め、切っ先を相手に向けながら、スピードを速めていった。
***
「ウンディーネの方!!ウンディーネの方に力を貸していただきたい!!」
村の中心へと戻った村人が、大声で呼びかけると、恐る恐るとウンディーネと思わしき、水色の髪を持つ者達が集まってくる。三人くらいだろうか。
「怪我人がたくさんいる、どうか治癒の力を使って我々を助けてほしい」
「あの怪物は倒せたの?」
「否、今ウィルが戦っている」
「一人で!?」
村人がざわめく。
「他にも、ウィルの邪魔にならない様、怪我人を運ぶのに男手も借りたい、宜しく頼む」
村人たちは、お互い顔を見合わせながらも、こくりと頷いて、畑の方へと向かって行く。
「・・・ウィル」
村人達の中には、紅い髪を持つ者もいた。
***
「ハァ・・・ハァ・・・やっぱり手強いな、さっきのヤツとは比べ物にならない」
先程の攻撃は当たったものの、それだけではやはり倒れない獣。あれからも何度か刃を食らわせていたが、軽い傷が着く程度で、相手の命には届かない。
「ウィル―!!」
遠くから声が聞こえ、村人が増援をひきつれて来た事を察する。
しかし、
「ウィル―!!!!」
「ッ!?」
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこにはイフリートの少女の姿があった。
「なんでここに・・・」
「ウィル危ない!!!!」
気を逸らしている時に獣が突進してきていた、ウィルは忠告で気付いたが、時は既に遅く、なんとか剣を自分の身体に翳す、その時。
爆発音、ウィルと獣の間で突然爆発が起き、獣は驚いてよろめきながら後ずさりする。ウィル自身も何が起こったのか解らず、戸惑ってしまう。しかし、それが誰が起こした爆発だったのかは、その後すぐ解った。
「ウィルに手を出すな!!!!」
ウィルと獣の間に立ちはだかったのは、紅い髪のイフリートの少女だった。
少女の身体は、紅く光が揺らめいていた。
少女に狙いを変えた獣は、すぐさま突進してくる。しかし、少女の手から炎の渦が巻き起こり、手を動かすと少女が操った通り渦が鞭の様に動く。
凄まじい音と、獣の悲鳴が村中に響き渡る。獣は火だるまになって身体に纏わりつく炎を振り払おうとしている。それを見ていた少女が、ウィルの方へと向きを変え、ウィルの手を取る。
「ウィル、私と契約してほしいの、私の力で貴方を護りたいの」
突然の事にウィルは動揺する。
「だ、だけど・・・」
真っ直ぐとウィルに視線を送る少女。しかし、ウィルは視線を外してしまう。
「ウィル、私を信じて。もう貴方の前から居なくなったりしない」
そう静かに、しかし強く言う少女の言葉に、ウィルは驚きを隠せずにいた。
少女とウィルの周りを、橙色の光の粒子が飛ぶ。
「創造主ゼロよ、我は此処に宣言する。我はこの者の力となり、心の炎となる事を誓う。契約を交わすは、名をウィル。そして我、モニカ」
光の粒子は、ウィルの持っているクリスタルに入っていく。
「・・・身体が熱い」
「私との契約が完了したの。ウィル、貴方の力であの獣に、止めを」
ウィルの手をとり、立ち上がらせる少女。ウィルは少女が一体何者なのかが気になって仕方がなかった。
―だって、その名は。
ウィルは剣を握り返す。すると、剣は炎に包まれた。
「これが、精霊イフリート族の力・・・」
剣に力を込め、地面を蹴る。そして、剣の切っ先は、炎で動揺している獣の頭へと深く突き刺さった。その瞬間、ウィルが今まで付けた傷口から、炎が溢れ出し、獣は力尽きて地響きを立てて倒れる。
「………」
村中から歓声が響き渡る。
しかし、ウィルの耳には届かず。ウィルの視界がどんどん白くなっていき、そのまま―
***
「此処は」
目を開いた。否、瞬きを一度した瞬間に、場面が変わった様に思えていた。
何処かで見た天井。ウィル自身が少し世話になっていた宿屋の部屋の天井。ウィルの身体は、鉛の様に重く、瞬きと、小さく喋る事しか出来なかった。
「ウィル」
何処かで聞いた声、誰かがウィルの手の優しく包んでいた。その手はとても暖かい。
「君は、モニカというんだね」
ウィルの目線の先には、イフリートの少女がいた。少し哀しそうな表情をみせている。
「ウィルを、護りたいと思ったの。気付いたら、この宿屋から出てて・・・もう大切な人を無くしたくないって必死だった」
「それは、イフリートの里が襲われた時の事を言っているのか・・・?」
少女はゆっくりと、頷いた。
「あの日、謎の組織にイフリートの里は襲われた。皆、皆死んでいった。皆バラバラになったわ。私自身も死んだから・・・」
「生まれ変わったのか・・・大精霊、モニカ・イフリート」
大精霊とは、それぞれの精霊の里で、一番力を持つ精霊の事を示す。
イフリートの里が襲われた時、大精霊は死んだと、風の噂で聞いていた。
「生まれ変わっても、記憶は受け継がれるんだな。最初のは演技だったのか?」
「いいえ、獣の声が聞こえた時から、次々と思い出していたわ。だから、演技というわけではなかったの」
二人の間に沈黙が流れた。
しかし、沈黙はウィルの一筋の涙によって終わる。
「モニカ・・・もう一度会えて・・・・・・よかった」
第一章 終わり
モニカとウィルが、実は関係があった!?みたいな感じで終わるんですが、自分でも怒涛の展開だなって思いつつ、今後いろいろ解ってくるんじゃないだろうかと楽しみにしていてもらいたいです。宜しくお願いいたします。




