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異世界転霊  作者: 日曜花田
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縄上特訓

 木やら屋根やらに綱を結んで、歪な蜘蛛の巣のような物が出来ている。

 小麦色で強靱な太腿が走ってゆく。

 身に付けているのは、白いパンツとブラジャーで、ヤブヘビの皮から作った物だ。

 ヤブヘビの皮を三枚ほど重ねてあるので丈夫なのだが、一応下着だし、貴族で伯爵家の御令嬢が脚を、それも太腿までもあらわにしているのは、とても・はしたない・行動である。

 彼女の足・脛・太腿・臀部・脇腹には、縄の痕が赤く残っている。

 蛸が帝都を襲った次の日から、縄を張って、その上を走っているのだ。

 縄の上をいきなり勢いよく走り出した時は肝を冷やした。

 あっさり縄から足を踏み外した。

 縄の上のわずかな足場ではろくに受け身もとれずに、縄に弾かれて地面に落ちた。

 縄に登っては落ちることを繰り返していた。

 それでも常に全力で走り出す。

 私はともかく、ゼロアだったらどうしているだろう。

 いきなり走り出すことが出来るだろうか?

 最初はゆっくり歩くことから始めるだろう。

 だがそれでは、なかなか上達しないだろう。

 エビルハンド家は筋肉でものを考えると言われているし、当人たちも胸を張ってそれを誇っている。

 おもいきりの良さが、エビルハンド家の強さを支えているのかもしれない。

 蛸が襲って来たあの日の夜。

 「父上だったら勝てたかな・・・ 」

 そう訊ねてきたリノス嬢に『無理』と答えた。

 「勝つっていうのは倒して無事帰って来ることだ、倒すのは可能でも帰って来るのは・・・ 」

 人間は、高い所から落ちるだけで簡単に死ぬ。

 「触手を駆け上がって蛸を倒せるかもしれない。」

 蛸の目と目の間に急所がある。

 生前、テレビで蛸に針を刺して動かなくなるのを見たことがある。

 どんなに大きくても、動けなくなれば敵ではない。

 しかし、そんな高さから空を飛べない人間が生還するのは難しい。

 パラシュートは知っていても、布の大きさや紐の付け方も畳み方も知らない。

 短期間では作れない。

 風の魔法で持ち上げることも考えたが、風量の調節が難しい。

 持てる魔力を全て風に変えて吹き飛ばそうとするのとは違うのだ。

 地球の技術を再現するのは難しいし、時間もかかる。

 帝都にエビルハンド卿がいなくて良かった。

 もし居れば、死ねと命じるのが大公の役割となる。

 一人の犠牲であの巨大魔獣を倒せるなら、倒せというのが主家としての責任となる。

 リノス嬢は毎日縄の張り方を変えて走っている。

 幾つも痣を作って『次』に備えているのだ。

 その姿は・・・

 「リっちゃあん、そんなかっこでえ

 なぁにをしてるのぉ~ ? 」

 白いパンツとブラジャーしか付けていないリノス嬢。

 「おうっ! 特訓だ特訓!

 あたしは強くなるんだ! 」

 「強くなるのはべつにいいけどぉ~ 

 そんなかっこしてちゃだめよね~

 女の子なんだから~ 」

 「え~ 今日はちゃんと着てるぞ。」

 まっぱで特訓してるのを、先日カルミアさんに見つかって縫わされたのがこのパンツとブラジャーです。

 縫い物の苦手なリノス嬢は、もちろんミシンを使わず泣きながら手縫いでパンツとブラジャー三セットと指を十四箇所縫ったのでした。

 「さ~て、こんどわぁ なぁにをしてもらおっかな~ 」

 逃げようとするリノス嬢を拘束しながら、微笑むカルミアさんでした。

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