巨蛸始末
蛸との戦いで三百を超える死者が出た。
帝都での戦いだけで、その前に襲われた村々の被害者は数千と考えられているが、正確には解らない。
人別(戸籍)があるのは街の、それも税金を払っている者についてのみで、あとは貴族ぐらいだろう。
税金は城壁や兵士、警備のための巡回を行う家人などに払うという建前のもとに集められるので、街の外にある村については領地ごとに違っている。
帝都の北、蛸の進路上には二十程の村があり、そのさらに北には北渓山脈を越えて樹海がある。
樹海は帝国の領土ではなく、エルフが住んでいる。
人族には使えないという精霊魔法を操ると言われていて、集団による魔法戦闘と弓術や体術、森林での隠密行動に優れるという。
人族と関わることは殆ど無く、ファイアーアントによって大陸が蹂躙された時が、唯一他種族と協力をした歴史上の奇跡と言われている。
帝都に粉雪が舞い始めたころ、蛸が帝都に戻って来た。
脅威ではなく、死骸となって。
北渓山脈にて墜落したものを退治したそうだ。
冬至も近くなったこの季節、気温が日毎に下がってゆく、地表よりも上空の方が低いのでいずれ体温を維持出来なくなった蛸は地上か水面に落下する事は予測していた。
樹海手前の北渓山脈に落下したのは幸運だった、エルフの領土に落下すると政治的な問題が起きる可能性があった。
エルフ側にも空からクラーケンが襲って来る事を伝えに行ったはずだし、それでエルフ側に被害が発生しても道義上は問題無い筈だが、感情的なしこりが生まれればエルフと人族の間に対立が起こる可能性があった。
現在エルフと人族は没交渉なのだ。
エルフは良くも悪くも自然崇拝主義者なので、産業が発達してい無いのだ。
人族に比べて養蜂と集団魔法戦闘が優れている、特に魔法戦闘では、エルフと人族が一対一ならば人族にも勝算があるが、エルフが二人だと人族は十人でも危ういと言われる。
エルフの魔法戦闘における連携や協力は人族のそれとは比べ物にならないらしい。
実際に見た訳ではないので、どのようにとは言えないが・・・
地上に落ちた蛸は、触手を一本づつ杭で打ち付けて、あとは冬の寒さが凍らせてくれたそうだ。
蛸との戦いのあと、ファントムレイス家の評価や令嬢たちの雰囲気も変わった。
冬が来る。
魔災の影響は生物に現れる。
冬に魔災の影響による被害は無い訳ではないが、大規模なものではなかった。
春までに魔災に備えなければならない。




