魔法考証
思っていた以上に厄介な魔法だった。
ナッペの魔法を再現しようとしたのだ。
ナッペの魔法は触れた相手を包み込んで縮む、縮む方向にのみ変形して広がらない。
そしてもう一つ、これは確認していないが特定の物に反応しないこと、これはかつて鉱山跡での話からの予測だが、動かない物体か、生命体ではないものには反応しない可能性がある。
これは、鉱山の鉱路図と死体が残っていた場所から予測したものだ。
鉱山跡は鉱山として再開発して、現在は銅鉱山となっている、それで鉱路図が作られたのだ。
入り組んだ所には山賊や連れて来られた女達はいなかったが、それでも曲がり角の二つ三つは越えていたのだ。
ナッペの魔法は触れた相手を無差別に殺す、そしてナッペ自身はほとんどの魔力を使用してしまい、失神してしまうので本人は自身の魔法について理解していない。
さらに、ナッペは人里で暮らした経験があまり無いようだった、コミュニケーション能力が低すぎる、ほとんど言葉が話せないのに、よくあの歳まで生きてこれたと思うが、彼女の持つ魔法の御陰なのだろう、暗殺能力に特化した魔法だ、風魔法の中でも目視が困難な魔法だし。
練習するにも生木を燻して煙を出し、その中でなければ見えないのである。
最もたとえ触れても対処法はある、地面に倒れるか、壁に張り付けばよい。
肺が包まれなければ良いのだ。
「で、どう? 」
「う~ん、扱い辛い魔法です。
普通のエアゴーレムとは考え方が逆なんですよね、エアゴーレムって知識と想像力と思考力で構造を決めて、構造が緻密なほど使えるじゃないですか、でもナッペ式のは構造を極限まで単純化しているんですよね、その上全体を一瞬で変化させるから複雑には出来ないし、う~ん・・・ 」
「一つ二つ出して特定の相手に当てるのは難しいか、数出して身を守ってたナッペの使い方は理に叶ってた訳だ。」
「そのかわり、それだと大量の魔力を使うことになりますね、少ない数で賄うには工夫が必用です。」
「威力の加減は出来そうか?
この魔法で必殺というのは敵味方を区別出来ないだろう? 」
「それは実験してみないと何とも・・・
動物実験してみますか? 」
「難しいな、ここは帝都でどこに人の眼があるかわからないからね。」
だから屋内で実験するしかないのだ。
新しい魔法はいろいろと難しい。
この魔法の厄介なところは構成が極めて不安定なところだ、幽体の私のわずかな魔力で掻き回せるほどなのだ。
プライストベーム家が新しい魔法を、眼の色を変えて欲しがるのも理解出来る。
プライストベーム家の固有魔法『天の竜』は予測だが、上空の風を呼び込む魔法だろう。
偏西風やジェット気流を地上まで呼び込み、突風や竜巻を起こす、強力だが術者の致死率四割の特攻魔法だ。
この魔法の御陰で、八傑の一位は個人名ではなくプライストベーム家当主になっているのだ。
風魔法最強といわれているが、コントロールは不可能だろう。
コントロールが容易で適度に威力のある魔法は、何処の家でも欲しがっている。
『天の竜』の術理はネクア嬢に伝えてあるので、使うのは可能だろう。
使う事は禁じているし、他に大量殺戮用の魔法を持っているので使うことは無いだろう。
もう一つブラッドハンド家の固有魔法は巨大ゴーレムの集団操作である。
もともと土魔法の『地の竜』によって皇帝の右腕と呼ばれたクレイダーストン家が『地の竜』の魔法を失って四分五裂し、領内での暗闘の結果残ったのがブラッドハンド家で、暗闘を嫌い離脱したのがエビルハンド家である。
『地の竜』の魔法とは、言うまでもなく地震の事で、なぜ失われたかは使ったからである。
地震の原因の主なものは活断層と呼ばれる地層に溜まったエネルギーだが、地球にはこれを科学的に予想する技術があるだけだが、魔法はこの世界で土魔法を使う者の一部にそのエネルギーを感知し、解放する能力を与えた。
それが『地の竜』なのだが、地層に溜まったエネルギーは、使うと再び溜まるまで数百年~数千年かかる。
ところが『地の竜』の魔法は、土魔法を使う者にとって究極の魔法といって良い。
魔法技術の発達によって地下を感知する者も増え、わずかでも地層にエネルギーを感じると解放してしまう者も増えた。
だがそれは、土魔法を使えない者にとってはわからない、帝国ではここ三百年以上震度一をこえる地震を経験していない。
一般市民にとっては素晴らしいことだが、土魔法を使う者『地の竜』によってその地位を築いたクレイダーストン家にとっては悪夢だったのだろう。
暗闘と迷走の結果、残ったのはブラッドハンド家とエビルハンド家である。
土魔法に固執したのがブラッドハンド家で、捨てたのがエビルハンド家である。
ちなみに、現在においても土魔法『地の竜』が失われた理由は不明となっている。
使えば無くなるのは当然なのに。




