暗殺魔法
コカトリスは、石化毒の息を吐くために息を吸い込もうとしていた。
障気の谷の霧の中にシャボン玉のようなものが数十個、大きさは人の頭ぐらいで霧の中でなければ見えなかっただろう。
息を吸い込む前段階として息を吐いた、コカトリスにシャボン玉のようなものがまとわりつく。
あれはヤバい!!
『ソーマ』を感じた瞬間、ゼロアの魔力に触れる時の要領で指先でシャボン玉モドキに触れて、魔力回路を掻き乱す。
このシャボン玉モドキは間違いなくナッペの魔法である。
この『ソーマ』には覚えがある。
ナッペの魔法の正体は風魔法の中で最も有名なものの一つエアゴーレムだった。
エアゴーレムと言うのは文字通り空気のような存在である(皮肉です)
気体を固定するのは難しいのに、攻撃力は低く眼に見えないからイメージし難く拡散し易い。
役に立たない事で有名で、『エアゴーレム』というと(役に立たないくせにすぐ何処かへゆく)という人物のことを差す。
実用性皆無の魔法として有名だが、何故有名かというと見かける事が多い魔法でもあるからである。
ファントムレイス領ではあまり見かけないが、帝都や水没都市では町中でもたまに飛んでいる。
扱い辛いというのは訓練用としては、優秀だということである。
風魔法の練習をする魔法使いが、杖を片手にエアゴーレムを操る姿が日常的だそうだ。
因みに、エアゴーレムは熟練者になると空気を固める事で屈折率が変わり見えるようになり、未熟な者は煙り混じりの空気を固めて見えるようにするそうだ。
労働力としては役立たずだが、鉱山などでは新鮮な空気を送るのに使われている。
ネクア嬢の猿の魔法も風魔法に分類される。
ナッペのエアゴーレムは、単純な命令を実行するだけの魔法だった。
よく見ると網目状になったエアゴーレムは、触れた物にまとわりつき縮んで広がらない。
力も弱く持続時間も数分の魔法だったが、それで充分な殺傷能力がある。
コカトリスは、石化毒の息を吐く為に息を吸い込もうとして、息を吸い込む為の前段階として息を吐いた。
この時既にエアゴーレムがまとわりついていたのだ。
縮んで広がらないという事は、息を吐いて縮んだ肺が広がらないということだ。
コカトリスは、何が起きたかわからず死んでいったのだろう。
同様の殺傷能力を持つものに蛇がいる。
捕食対象に巻き付いて、相手の呼吸にあわせて肺を締め、そのまま呼吸を出来なくして殺す。
実はとても疲労の少ない効率の良い殺傷方法である。
毒の無い蛇の殆どがこの殺傷方法を用いているほどだ。
私は生前これを応用したことがある。
柔道で寝技の練習時にインストラクターの呼吸にあわせて肺が膨らまないように体重をかけてみた。
あっさり返されてしまったが、こちらの技量や体重が上なら、寝技(固め技)で相手を殺傷することも可能だと確信した(仮に実行したとしても当方は一切責任を取りません。危ないのでやらないよ~に)
ナッペの魔法によって危機を脱したが、この魔法はきちんと訓練しないと使えない。
まず攻撃対象を選んで狙えるようにすること、攻撃対象以外を攻撃しないようにすること。
しかし、ナッペの魔法はなんて暗殺向けの魔法なのだろう。
呼吸の要である肺を包み込んで絞める為に、わずかな時間で本人に気付かれずに殺害する事が可能なのだ。
しかも、首を絞めた時と違い圧力面が広いため死因の特定が難しい。
気付くと霧の向こうから足音がしていた。




