魔鳥襲来
地水風火の四つの魔法の中で最も習得が難しいのが風の魔法である。
理由は単純で眼に見えないからである。
風の魔法を固有魔法としているプライストベーム家が存在するが、おそらく大変な苦労をしていることだろう。
眼に見えないものを認識し操ることは、とても難しいことだ、とくにこの世界では気体というものがどういうものか理解していない者の方がほとんどなのだ。
魔法回路を体内に作ることで魔法という現象を発生させる事が出来るのだが、魔法回路を作るのは幼ければ幼いほど良いとされている。
遅くとも十歳までに魔法回路を宿すことが出来ないと、一生魔法が使えないとされている。
ネクア嬢は『お漏らし』と揶揄される魔力漏洩型の本来魔法の使えない存在だったのだが、蜘蛛の糸を操り外付けの魔法回路により魔法を、それも操る糸によって表現出来る数の魔法が使える。
では彼女の体内に魔法回路が無いかというと、そうではない。
魔力を放出するという魔法回路が有るのだ。
もともとは魔力を漏らす、垂れ流すだけだったのだが、糸に魔力を集中させているうちに、魔力の流出量を調節出来るようになり、それがそのまま魔力回路になったのだ。
ちなみに私が何をしているかというと、現在全力で現実逃避をしているのである。
ラリアルさんを追って山賊の根城まで来たが、この世で最も聞きたくない声がしている。
幽霊とは不便なもので、耳を押さえても音が聞こえてしまう。
中から聞こえるのは男の喘ぎ声である。
しかも、この中には男しかいないはずなのだ。
山賊は五人で根城を守っているものはいなかった。
山賊五人に対して騎鳥は十五羽、一人当たり三羽である。
いずれもよく手入れされていて、山賊を辞めても鳥飼で暮らしてゆけそうである。
騎鳥は人を載せて一キロメートルぐらいしか走れないので、三羽を次々に乗り換えることで高速移動出来る距離を伸ばしていたのだ。
しかし、いくら騎鳥が速いといってもゼロア達が来るのが遅すぎる。
ソーマ探知を使った瞬間、二つの致命的なミスに気づいた。
ゼロア達の馬車と、山賊の根城との間に高低差があること、馬車の向かっている方向がおかしいこと。
私は馬車に向かって飛んだ。
騎鳥はもともと山岳地帯に住んでいた。
馬に比べて山岳地帯での踏破能力は高い。
段差のある岩山を登るなど雑作も無い。
私は飛べるので、道の状態など気にもしていなかった。
ゼロア達が乗っているのは冒険者達の馬車だ、馬そのものは半魔獣、より正確には魔獣交雑馬で優秀だが扱い辛い種類である。
たとえどんなに優秀でも馬は馬、さらに馬車を引いた状態では、段差のある岩山を登るなど不可能である。
実体化していないと、重力の影響を受けないので気付かなかったのだ。
最悪なことに、ゼロア達の馬車は罠に嵌められていた。
実体化していない私は、自分の意志や言葉を伝える方法が無い。
唯一の手段だった『一言伝』は使ってしまった。
馬車の中にいるのは、アメイラスさん他二名の冒険者とゼロアとネクア嬢とナッペで、冒険者の一人とアンとメリーは大公家の馬車で、あの河原に残っている、ナッペはネクア嬢が餌付けしたのでついて来た。
冒険者の三人は騎鳥の足跡を追いつつ、馬を操りながら魔力を注いでいる。
ネクア嬢は幻影魔法に集中している。
ナッペはともかくゼロア君、君役立たずでいいのかね?
「ここ、さっき通った。」
・・・え?
「この谷は霧が出てるから、そう見える。」
ちげえよ馬鹿!
「鳥の足跡が、往復のものと片方しか向いてないものがある。
野兎が使う罠で、ぐるっと回ったら大きく跳んで追っ手を撒くのがある。
この足跡はたぶんそれ、鳥は岩伝いに逃げたと思う。」
おっ おとーさんは、 おとーさんは 嬉しいっ!!!
よくぞ見破った。
鳥の足跡については、私も気づいてなかった。
「引き返すぞっ! 」
他にどうしようも無い。
馬車を反転させようとして、小さな岩に乗り上げて馬車が揺れた。
ネクア嬢の指から、糸が外れた。
馬車を守って四方を睨んでいた竜の頸が消えた。
六人を乗せた馬車が、コカトリスにとって注意すべき存在から、餌の詰まった箱に変わった。
ネクア嬢の魔法は、間にあわない。
糸繰りという手順が必要な彼女の魔法は、即応性が無い。
あらかじめ糸で作った魔法回路に魔力を注ぐだけなら一瞬だが、糸繰りをするには、どうしても時間と手間が必要で、敵が迫って来ている現状では、とても間にあわない。
二羽のコカトリスは、石化毒の息を吐くために大きく息を吸い込もうとしていた。




