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異世界転霊  作者: 日曜花田
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舞台観劇

 「王よ~ これをご覧ください~ 」

 いつまでも響く声で、手に持ったピンク色の袋から紫銀の髪の毛を出す冒険者の姿をした男。

 「おお~ なんということだぁあ~

 美しかった姫がこのような姿にぃい~ 」

 髪の毛を受け取ると、それを見せつけるようにくるくると踊っている、派手な王冠を被り橙色のマントを翻して。

 表は純白、裏地は深紅のマントは皇帝のみに許された装いなので、舞台で皇帝を演じるときは橙色のマントを着用するそうだ。

 ここは帝都にある常設舞台で、演目は『悲劇の美姫帝都上洛を前にして倒れる。

 美貌の姫を襲う魔獣と山賊の群れ!!』で、帝都に着いて翌日には上演を始めた。

 情報提供の御礼と入場券をくれたので、早速かぶりつきの席で観ているのだ。

 この劇場には席による値段の差はない、一応貴賓席はあるが格子と御簾で中の様子はわからない。

 大公位を継いだらいずれあの中から観ることになるのだろうか?

 ふらふらっと舞台上を見て回る。

 書き割りという物は無いようで木や花を舞台上に配置してある。

 舞台そのものに蓋のある部分があって、そこに植木鉢ごと入っている。

 岩などは中がくり抜いてあって、軽くしてある。

 演目はもう終盤なので、なんとなく舞台袖を覗いて見る。

 そこには戦場と墓場があった。

 役者がやたらと派手な化粧をしていることから、カーテンコールの挨拶があるのだろう。

 化粧担当の者が走り回っているようだ。

 そして、さらにその奥にある倉庫は墓場で、死屍累々であった。

 木屑や絵の具?らしきものがついているのが道具係で、葉や花弁がついているのが花屋か植木屋だろう。

 殆どのものが使い回しらしいが、それでもそれなりに準備は必要だったようだ、花はナマモノだし衣服も同じものを使い回しばかりでは客に飽きられてしまう。

 あ、あそこで死んでるのはアメイラスさんだ、そういえば皇帝に謁見してファントムレイス寮の前、取材に来ていた劇作家と役者を名乗っていたが用心棒風の男達・・・どうやら警備員のようだ・・・に拉致されて連れて行かれてしまったのだった。

 そのときに、ギルドの指名依頼だと言っていたから逆らえなかったようだ。

 アメイラスさんの腹を枕に高鼾なのは、劇作家の・・・誰だっけ?

 名前は忘れた。

 大事件だったから劇になるかも、とか言ってたが・・・劇になって上演されるのは、冒険者の夢の一つらしい。

 有名になると、指名依頼が増えたり報酬が上がったりするらしい。

 劇の中では魔獣の脅威を辛くも逃れた姫が山賊に捕まるが、山賊を道連れにコカトリスの巣に突っ込んだことになっているが、実際は山賊を色気?で骨抜きにしてやって来ると、ナッペが倒したコカトリスを解体して胃袋を取り出し、中の胃液を捨てて、替わりにその場で切った髪の毛を中に入れた。

 アメイラスとその仲間は皇帝に謁見して、胃袋と中に入った髪の毛を渡したらしい。

 こうしてラリアル姫は死亡が確認された。

 たとえ本人が来てもラリアル姫と認められることは無いだろう。

 なにしろ本人は男なのだ。

 コカトリスの胃袋から髪の毛だけがみつかるのはおかしいと思うだろうが、皇帝に溶けかけた遺体を見せることは出来なかったと言うことにするだけだ。

 こちらには女性の同行者もいたから、同じ女性として美しかった姿だけを覚えていてほしかったとか言えば、それ以上の詮索は無いだろう。

 これで大公家はラルブハイル子爵家に貸しを作れた。

 ただ、残念だったのは私が実体化していれば、皇家に貸しの一つも作れただろうに、惜しかった。



 舞台の方の雰囲気が変わった。

 劇が終わってカーテンコールになったようだ。

 「お~い お前らぁ 生きてるかぁ~」

 「なんとか~ 」

 「明日の舞台やるんすよね~ 」

 「無理っす~ 」

 「死んでまぁすぅ~ 」

 「「「死んでろ~ 」」」

 けらけらと笑い出す。

 「いくぞ~ お前らぁ~ 」

 「「「うぃ~っす!!! 」」」

 「がんばってね~ 」

 小柄で太った、身なりのいいおっさんだ。

 薄い獣皮紙の束を抱えている。

 獣皮紙は使った後表面を削って再利用される。

 何度も使われて薄く、そして歪になった束を抱えて細く尖らせた木の棒を両耳と小さな布袋に入れている、ペンだろう。

 小学生のとき割り箸ペンで絵を描いたことがあった、ちょうどあんなかんじ。

 劇作家なのだろう。

 もう自分の役目は終わったと言いたげな発言に、倉庫内に不満が充ちる。

 「うっせ~ バカ! 」

 「全部オメーのせーだ バカ! 」

 「いきなり演目変えやがって、どんだけ大変だったと思ってやがる このバカ! 」

 「美人のカミサンもらいやがって、うらやましくなんかね~ぞ バカ! 」



 ぐちぐち言いながらも、立ちあがる。

 ゾンビの群れのようだ。

 「この舞台が成功したのも皆んなの御陰だよ~ 」

 「「「調子くれんじゃね~ このバカ!!! 」」」

 それでも明日の舞台を支えるために、裏方という仕事を始める者達。

 「ちっくしょ~ あいつらもちったぁ手伝やぁいいのに。」

 若いのが一人愚痴る。

 「言ってんじゃね~よ くま作った役者舞台に立たせるわけにゃいかね~だろが。」


 倉庫にはいくつもの魔獣や竜の作り物があった。

 ここで見ると間抜けなものだったが、舞台では照明の工夫で迫力があり、実物より大きく見えた。

 既に次の舞台の予告の昇り旗が用意されていて『美貌の剣士 魔獣を狩る!

 美しき剣舞が地上に咲く時 魔獣の群れは屍となる 近日上演!』

 そういえばそんな話を聞いた、まさか今日の演目と主人公が同一人物とは思わないだろう。

 あ、演じてるのは同じ人だ。

 役者の数は限られているのだ仕方あるまい。

 

 ゼロア達が帰るようだ。

 ごくろうさまと、聞こえる筈の無い声と一礼をして、その場を去った。

 学園の入学式は五日後だ。

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