山賊瞬殺
素早く馬車の屋根に登ると、ぐるっと周りを見渡して、スカートの端を摘んで優雅に礼をしてみせる。
あっという間に終わってしまった。
「おじょ~さん、おとなし・・・・」
まだ死んだ事に気づいてなかった山賊さんの一人が、眼球を白濁させて開いた口から血を流してよろける。
構えていた弓から、矢があさっての方に飛んで行く。
しかし、そのうち一本がネクア嬢に向かった、半歩下がってそれをかわすが、スカートに刺さる。
き! と、矢が飛んで来た方を見るが、そこにあるのは死体か死体になりつつある存在である。
「う~っ! 」
スカートの矢を抜こうとするが、矢尻の返しが引っかかってしまう。
「すげえなこりゃどおなってんだ? 」
ネクア嬢は、矢を抜こうとしてスカートがずり上がっているのに気付く。
下にいるアメイラスを犯罪者認定した冷たい眼で睥睨すると、わざとらしく落ち着いた仕草でスカートを直す。
「アメイラスさん、一人生かしておきました。
追って拠点を確かめるなり、残党がいるなら捕らえるなりして下さい。」
「け、ガキが色気づきやがって。」
仲間の一人、バルストに指示して追わせる。
生かしておいたのは指示を出していた男だった。
「ところでアメイラスさん、少し降りるのを手伝っていただけませんこと? 」
「ああ、いいぜ ほれ。」
馬車に近づくと、両手を広げる。
「いいえ、そうではなくて
その場で四つん這いになっていただけませんか?
簡単でしょう、ガキ一人ぐらい。」
うわ、こっわ~
根に持ってる、根に持ってるよ。
本当にするのかと、ネクア嬢を見上げると、微笑みで答える夜叉一匹。
な~ む~
アメイラスさんが四つん這いになると、ネクア嬢は迷わず飛び降りました。
ちなみに、彼女の足にはハイヒールが装備されています。
とてもとても痛そうな音がしました。
アメイラスさんは、痩せ我慢を総動員で立ち上がります。
「ありゃあ、腰をやったな・・・」
「たいちょ~ 相手はち~さくても女なんすよ。」
「こないだも、女でやらかしたばっかでしょうに。」
「うるせ~
そ~いやおじょうちゃん、さっきの魔法はなんだったんだい?
なにがど~なってたんだか、さっぱりなんだが? 」
「呪殺ですわ。」
「は? あ、え~と
呪殺? 本当にかい? 」
はい、嘘です。
誰かに尋ねられたら、そう答えるよう打ち合わせしていました。
「ナニソレ、呪殺なんて本当にあんのかよ。」
「魔法の発動が見えなかった、木の葉一枚舞わなかったから風の魔法じゃない。」
「なんか、あっという間に死んでったよな。
うわ、こっえ~ 」
「あの逃がした一人、あれわざと?
それとも偶然? 」
ネクア嬢は微笑みで答えをスルーすると、馬車の中に戻る。
ゼロア君が手を貸すと、とても嬉しそうでした。
偉いぞゼロアくん。
ありがとう、アメイラスさん。
貴方が反面教師になってくれたおかげで、女性の機嫌を損ねるとどうなるか、ゼロア君にも理解出来たと思う。
ネクア嬢に促されて、まだスカートに刺さったままの矢を折って外すゼロア君。
スカートにあいた穴を気にする振りで、スカートの中を覗かせようとしていませんか? ネクアさん。
「呪殺ねぇえ、御伽噺だと思ってたが、本当にあるとは・・・ いや、驚いた。」
実はあの魔法は『焔昂』(えんこう)と名付けた魔法で、ネクア嬢の最強の広域殲滅魔法である。
術理は大気の分子を高速振動させて、その空間の温度を数秒間二~三百度に上げる。
電子レンジを魔法で再現しようとしたものである。
まず眼球の水分が蒸発し、次に熱くなった空気で肺が焼かれる。
空間設定することで効果範囲を限定出来るが、他の広域殲滅魔法にくらべると効果範囲が狭いという欠点がある。
しかし、他の広域殲滅魔法は、術者の死を前提にしていることを考えると、使い勝手は良いと思う。
ネクア嬢しか使えないし、術理を理解するのが難しいので、おそらく使えるのはネクア嬢だけになると思う。
頭のいいネクア嬢でも理解してもらうのは大変でした。
死体から金目の物と装備品を剥ぎ取って茂みの中に棄てる。
次の宿場で報告して、死体を処分してもらうことになるだろう。
少し時間がかかったので、次の宿場に着くのは夜になるかもしれない。




