蜘蛛令嬢
アンとマリーは、囲んできた相手を知っている様子だった。
冒険者の姿をした一ケルト足らずの男達が六人、剣や弓を持っている。
背に大剣を帯びて髪を短く整えている男がリーダーのようだ。
「アメイラス様、お久しぶりでございます。」
「おう、久しぶり。
こちらがステイフィールドの御嬢様とファントムレイスの若様か、御噂はかねがね・・・ 」
値踏みする顔でゼロアを見つめる。
「う~ん 噂で聞いてた器には見えんな。」
「おそらく貴方が聞いてたのはシャドウの方でしょう。」
「??? ファントムレイスの御子息は一人と聞いているが? 」
「シャドウ様はゼロア様の魔法なのです。」
「?魔法???
使ってみてくれるか? 」
「出来ません。
今ここでは条件が整いません。」
「そっか、それは残念。」
強かな男なのだろう、貴族相手に気安い口をきくことで、周囲に自分の存在価値を示している。
特に低年齢時に有利な関係を築いておくのは、冒険者として生きていくうえで重要な事となる、今はよくても怪我をしたり、老いて身体が動かなくなったリする日は、生きていれば必ず来るのだ。
コネは築いておいて損はない。
それでなくとも既にこの男、貴族にそれなりのコネを持っているようだ。
「それより坊ちゃん、宿場と言えば色街だちょっくら男に・・・ 」
先程から、具体的には囲まれてからずっと、ネクア嬢は綾取りをしていた。
遊んでいるとみせて、糸に魔力を溜めていたのだ。
しかも、あと二手で猿が出来る。
そんな状態でネクア嬢が殺気を放っている。
微笑みを浮かべながら、ゼロアに身を寄せている。
「せっかくですが、必要ありませんわ。
そういったことはわたくしがいたしますので、ぜんぜんまったく必要ありません。」
微笑んでいる。
あからさまに殺気を放ちながら、微笑んでいる。
アンとマリーは、ヒイている。
ネクア嬢の魔法の中で、猿は最強の手札である。
それを手の中で弄びながら、微笑みを浮かべて殺気を放っているのだ。
「そういう事って、どういうこと? 」
ゼロア君は相変わらず、空気が読めません。
一瞬にしてネクア嬢の殺気が濃厚になり、馬が息を止め、アンとマリーと冒険者の皆さんが逃げる用意をしています。
きょときょとと、左右を見渡しているゼロア君、鈍い彼でもわかるほど、空気が変わったのだ。
「ゼロア様、貴方はそのようなこと知らなくてよいのですよ。」
「えっと・・・ 」
「よいのです。」
「・・・・・・ 」
「よいのですよ。」
なぜか動けなくなったゼロアを抱きしめる。
「あの日、貴方にあの糸と希望をいただいたとき、わたくしの魂に蜘蛛が宿りました。
蜘蛛は獲物をけして逃さないのです。」
紗々の下で笑みを浮かべ。
「逃がさないのですよ。」




