病弱息子
朝から顔が赤かった。
熱のせいで熱い、身体が熱い。
暫くすると、寒くなる。
身体が熱いせいで、相対的に寒くなる。
大きな波が繰り返すように、繰り返し襲って来る熱さと寒さ。
十日ごとにやってくる。
魔災の影響で身体に宿った『ソーマ』が、身体を狂わせているのだそうだ。
昼ぐらいまでは耐えることも出来るが、午後になるとのたうち回ることしか出来なくなる。
頭が、喉が、肺が、関節の全てが、熱く、痛い。
これが、生きている限り続くのだ。
「いっそ、ころして・・・・・・」
涙と鼻水を流しながら、苦しい息の中でつぶやく。
何も出来ない。
苦しみを取り除いてやることも、苦しみを替わってやることも、そして、死なせてやることも・・・・・・
この世界で、死はありふれたものでしか無い。
たとえばゼロアが、この土蔵を出て森に入れば二日と生きていられない。
森で暮らす知識は有っても、体力が足りないのだ。
ゼロアは、この土蔵以外の場所をほとんど知らない。
ゼロアは、生まれて数日で死んでいるはずだった。
今も父は彼の病死を願っている。
変死、自殺や土蔵以外の場所で何か、若しくは誰かに殺されるのではなく。
明らかに魔災の影響による死であって欲しい。
そうでないと、ファントムレイス家は最悪取り潰しとなる。
理由はゼロアの母親が元王位継承権第三位の王女、それも妾腹ではない、当時の王太子で現在帝国の国王の同腹の妹だったからだ。
ゼロアの出産のため、死んでしまった。
この世界の堕胎はほぼ失敗する。
運良く母親が生き残っても、再び妊娠出来ることは無いというのが現状である。
魔災のため、母親は死んだ。
しかし、母親の妊娠が発覚すると、帝都から医師、それも奥医師が派遣されて来た。
魔災の影響での死はこの世界では天災のようなものと考えられている。
母親の死はどうしようもなかった。
ゼロアが生きているのは、奇跡といって良い。
だが、それはファントムレイス家にとって都合が悪い。
ゼロアが生きている限り他に大公家の継承者は認められることはない。
何しろ、御三家などと言われても、ファントムレイス家は大公家とは名ばかりの弱小貴族である。
だからこそ箔をつける為に王女が嫁してきたのである。
そして、奥医師のフラワン・サイドトゥースは、極めて珍しい症例であるため、未だこの地に残っている。
おかげでゼロアが暗殺などによって不審死する可能性は少ない。
・・・・・・そろそろだ。
ゼロアの『ソーマ』を集めて私の中に取り込む。
既に手慣れたものだ。
やっと安らかな顔で眠ったゼロアを見て、幸せになって欲しいと思った。
土蔵を出て実体化する。
まだサイドトゥース医師に私を見せるつもりはない。
実体のないこの身だが、それでもゼロアの評判をあげる事は出来る。
無力な父だが、わずかな希望ぐらいは作ってやりたい。
この子はまだ、薄暗い土蔵と苦痛しか知らない。




