お別れ
「あの人は誰なんですか?」
「あ?母親だよ。お前わかって聞いてるだろ?」
今度は手のところにも穴が空いている布を被った僕は、ココさんと二人外を歩いていた。
「まぁなんとなくわ。でも、角無いんですね」
「……ああ」
どこか彼女の表情が曇った感じがした。
なのですぐに話題を変える。
「あの、どこに向かってるんですか?」
「あ?ああ。適当に話せそうな奴いねぇかなって」
適当に話せそうな奴?
「お、アイツにしよう。お前ちょっと話してこい」
そう言って彼女が指差した方には、身長170cmの僕の半分ぐらいしかない魔物がいた。
見た目はアルマジロっぽく、二足歩行でゆっくりとこちら側に歩いてきている。
「アイツは大人しいタイプで、知らない奴と話すのをを嫌う一族なんだ」
「じゃあ話しかけないほうがいいじゃないですか」
「バーカ。ちょっと話すのが目的で、長々話すことが目的じゃねんだよ」
「いや、だとしても僕言葉―」
「行ってこい」
彼女にダンッと背中を押され、僕はよろよろと魔物の前に出てしまう。
魔物は僕の顔を見て目を逸らす。
「えと、随分ゆっくりですね」
今度はギロっと目を負けてきた。
「どいて」
めちゃくちゃドスの利いた女性の声で言われた。
「あ、はい」
僕はササッと魔物の前からどく。
すると魔物はずっと僕を睨みながら横を通り過ぎていった。
「ナンパなら鏡見てからしなよ。布切れみたいな見た目して。どこの劣等種だよ。何がゆっくりですねだ。私の歩く速度にケチつけてんじゃないわよ」
多分通り過ぎたから心の声が漏れたんだろう。
ただ歩く速度が遅いせいで余裕で全部聞き取れてしまった……ん?
聞き取れた!
「どうだよ?」
「凄いです!でも何で?」
「さっき食った玉の効能だよ」
「へー、凄いなっ。でも、具体的にどんな原理なんですか?」
僕は嬉々として聞く。
「菌だな」
「え、きんて……もしかしてばい菌とかの菌ですか?」
「そう」
「いやそうじゃなくてっ!」
「大丈夫だって。お前すぐ焦るよな?」
そりゃ焦るでしょーが!
「菌つっても世の中悪い菌ばっかじゃないだろ?あの食いもんの菌も体に害はない。ただちょっと脳の言語を司る部位に侵入してコントロールするだけだ」
「十分ヤバいじゃないですかっ!」
「だー。うるせぇな。入った菌は時間で死ぬんだよ。あの玉の効果はせいぜい一時間だ。一時間後にはお前は綺麗さっぱりだ。その代わり言語の理解も発音も出来なくなるけどな」
僕は頰を膨らませる。
「何だよ、悪かったって。言語理解できてよかったじゃんか。そんな怒ることねーだろ?」
ちょっとしょんぼりしている彼女を見ると、何だか自分が悪いことをしてる気分になってきた。
「……次から何かする時は説明して下さいね」
「おう」
彼女はニッコリ笑った。
ほんとに分かってるんだろうか?
「よし、じゃあ行こうぜ」
「今度はどこにですか?」
「どこって、町の入り口以外あんのか?」
「いえ……」
なぜだろうか?
彼女と別れるのが少し寂しい。
僕らは町を出て少し進んだ場所に居た。
「ほら。あっちの方向に行けば不死町まで真っ直ぐ行けっから。途中渓谷があってって、どした?」
「いや、なんか1日も経ってないのに色々あったなって」
「そうか?んーそうだな。私も人間とは久しぶりに話したしな」
「前はいつ話したんですか?」
「多分3、40年前とかか?そいつは勃ったんだけどな」
「ちょっとうるさいです」
「フフッ」
「本当にこれもらっていいんですか?」
瓢箪を手に持ちながら僕は聞く。
「ああ。私は使わないからな。この先私みたいなヤツが助けてくれるわけじゃないんだ。言葉ぐらい話せなきゃ死ぬぞ」
「はい。ありがとうございます」
「おう。布は町が小さくなるまで被っとけよ」
「はい。では」
僕はお辞儀をして歩き出す。
「元気でなあああ!」
大きく手を振る彼女に振り返り、もう一度お辞儀をして僕は次の町へ向かう。
一日にも満たない時間の関わりで、これほど別れを惜しむことがあるんだと僕は驚いていた。
きっとシェルにいたら、この寂しさや心細さは知らずに生きていたんだろう。
決していい感情ではないと思う。けど、知らずに死ぬには勿体無いと僕は思った。
これから何回も感じる感情なんだろうか?
それとも彼女、サキュバスの魅力だったんだろうか?
それは次の出会いが教えてくれるんだろう。




